《第2章:ヴァイスハイトへ》

「(さて、ヴァイスハイトに着くまで復習でもしておきますか)」

 キセキは汽車の座席で揺られながら自作の日記兼勉強ノートを開いた。列車はヴァイスハイトを終点としてそれまでにいくつかの駅に止まる。そのため終着駅まで約一時間ほどかかる。その間に二年で学んだことの復習をしておこうとしていた。


【物語あるある】世界観説明イベント


「(え〜っと、そもそも魔法と“魔術”は異なると……日常的に魔力のみで発動するのが魔法、自然・武器・使い魔等の魔力を借りて発動するのが“魔術”。これは基礎中の基礎だな)」

 キセキは二年前の出来事を思い出す。

「(そう思えばちゃんと三種類の“魔術”を目の前で見てたことになる。

 アキュアが使った“水術陣”のような“展開”する自然の“魔術”は“属術陣”と呼ぶ。

 ビアードのクソが使った“刃術陣”のような“武装”する武器の“魔術”は“武術陣”と呼ぶ。

 そしてファットのクズが使った“怪術陣”のような使い魔を“召喚”する“魔術”は“獣術陣”と呼ぶ。

 “属術陣”“武術陣”“獣術陣”の三つをまとめて“魔術陣”と呼ぶ……結局この二年で俺にこの“魔術陣”は使えなかったなぁ。まぁ、嫌でもヴァイスハイトで習得することになるだろうし、あんま気にしなくていっか)」


【物語あるある】拠点で技術を習得する


「(次にパッシブだな。ビアードのクソが言ってた「魔力核(魔力の源)が見える」ような、産まれ持った個人の特殊能力のことをパッシブと呼ぶ。これは幼少期に発現することもあれば、大人になってから発現することもあるらしい。

 アキュアからそういう話聞いた覚えないし、彼女も俺もまだ発現してないってことなのかな? そう考えたら俺ってマジで今戦う手段何も無くね? プラーヤとか基礎的な魔法は使えるようになったけど……)」

 ここでキセキはビアードを倒したときのことを思い出す。

「(いや、待てよ。あのとき魔力らしきエネルギーをぶん投げたのって俺のパッシブになるのか? 村で他にそんなことできる人いなかったし……あー、でも小さい村だったし、俺もあれ以来出来てないし、こればっかりは参考資料が少なくてわかんねぇな。ま、これもヴァイスハイトで学べるでしょう)」

 彼は分からないことはヴァイスハイト頼りになってきていた。

「(そしてこの世界において重要そうなのが「リスクマネジメント」だな。……名前だけ聞くと転生前に働いてたときのこと思い出してヤだな。

 「自身の手の内を明かす」・「重症になる」等のリスクを負う行為を取ると、その分自分の能力が底上げされる。メタ的に考えると、漫画でよくある自分の能力を敵にペラペラと話す行為を、この世界なりに解釈した結果なのかな?あるある中のあるあるだし。

 これに関しては身を持って経験してるから馬鹿に出来ないんだよなぁ。あのとき死ぬほど痛かったけど、その分力が溢れるのを感じたし)」

 ここまで復習したところで汽車がある駅に着いた。乗客が何名か乗り込んできたのをキセキは横目で見ていた。その内の一人がキセキの前の座席が空いてるのを見て彼の方へ来た。

「ここ、空いてたら座ってもいいですか?」

 そう聞いてきたのは五厘刈り頭の眼鏡をかけた少年だった。短いが毛は茶色であることが見て取れた。

「ああ、もちろん」

 キセキがそう答えると、少年はニコッと笑って座った。

「その黒いローブ、もしかして君もヴァイスハイトへ行くんですか?」

 少年がキセキの着ているローブを見て言った。

「そうだよ。君も同じもの着てるよね?」

「そうです! 念願のヴァイスハイトのローブです!」

 少年は嬉しそうに話した。ヴァイスハイトに入学希望書を提出すれば、学校から黒いローブが送られ、新入生は皆それを着用する決まりがあった。

「あっ、ごめんなさい。自己紹介がまだでした。僕はユージーン・ヴィゴーレと言います」


【物語あるある】誰にでも敬語キャラ


「俺はキセキ・ダブルアール。よろしくユージーン(「ユージーン」か……俺の初めての「友人」になるからかな? 「ヴィゴーレ」は何だ?)」

「……」

 ユージーンはキョトンとした顔でキセキを見ていた。

「……? どした?」

「あ、いや、ごめんなさい。僕の名前を聞いて驚かない人、初めてだったので」

「おいおい何それ! ユージーンってもしかしてめっちゃ有名人なの!?」

「い、いや、そういうわけでもないんですが……ごめんなさい! 忘れてください!」

「忘れらんねぇ……」

「そ、そんなことより! 招待状はちゃんと持ってきました?」

「招待状?」

「ローブと一緒に送られてくるやつです。あれが無いとヴァイスハイトに入れないそうなので」

「ああ〜、確かこの辺に……」

キセキはカバンから招待状を取り出した。

「赤の招待状!?!?」

「!?」

 ユージーンが叫ぶと、周りのローブを着た新入生らしき少年少女達も振り返った。

「え、何? え、え?」

「……あっ、ごめんなさい! まさか赤の招待状とは思わなかったもので……」

「赤いと何かあるの?」

「知らずに持ってたんですか!?」

ユージーンが眼鏡の奥の瞳をかっ開いて驚いた。


【物語あるある】主人公が知らない内に何かやっちゃってる


「赤の招待状はパラスから送られる超貴重な招待状ですよ!」

 ユージーンは興奮気味に話した。

「パラス……? ポケ〇ンの?」

「ポ〇モン……?」

「(あっ、やべ)いや、何でもない! パラスって何だっけ……?」

「パラスをご存知ない!?」

 眼鏡の奥でまた瞳がかっ開いた。周りの新入生達がこちらをチラチラと見ている。

「い、いやぁ、俺田舎者だからさ、そういうの疎くて……」

「あ、えと、こちらこそ一々驚いてごめんなさい。順を追って説明しますね」

ユージーンは取り出した紙に分かりやすく図解して説明してくれた。

「まずヴァイスハイトには理事長としてパラディンの「ディオーグ・キルアディア」先生がいます。これは知っていますか?」

「あ〜、理事長ってのは知ってるけど、パラディンって何?」

「パラディンとは、「魔術卿」とも呼ばれる、簡単に言うと魔術界のトップに君臨する役職のことです。クラス:ドラゴンに達した者しかなれなくて、三大学舎の理事長はそれぞれパラディンが務めています」

「(知らん単語の説明でまた知らん単語出てきた……)


【物語あるある】知らない単語の説明に知らない単語が使われている


 (そういや魔法や“魔術”については結構勉強したつもりだけど、肝心のヴァイスハイトに関しては行ったらどうにかなると思って全然勉強してなかったな……いや、今はとりあえず……)なるほど。ヴァイスハイトの場合はそれが「ディオーグ・キルアディア」ってことね」

「そうです。そして彼直属の十二名の選ばれし生徒達がいます。それを「パラディンズ・スカラー(魔術卿の使徒)」通称「パラス」と呼びます。」

「(すげぇ、スパイ×〇ァミリーのインペリアル・スカラー(皇帝の学徒)みてぇ)なるほど! それでパラス! じゃあこの赤い招待状はその内の誰かから送られてきたってわけだ」

「そうなんです! ……って名前書いてなかったんですか?」

「名前?」

「送り主の名前です。僕の場合は黒い招待状で、送り主はヴァイスハイトからになってるんですけど、赤の招待状の場合はパラスいずれかの名前が書いてるはずです」

「ん〜? って言われてもどこにも書いてないけどなぁ」

「おかしいですねぇ、一体誰からなんでしょう?」

「(そもそも俺が主人公とは言え何でそんな凄い人から招待状が来るんだ? 心当たりがあるとしたら、いまだに思い出せない親関係かそれとも……もしかして、アキュア?)」

 二人が話していると汽車がまたある駅に止まった。新入生と思われるローブを着た子ども達が何名か乗り込んでくる。その内の一人が二人の方を見て近付いてくる。

「こんにちは。良かったらお隣座ってもいいかしら?」

そう話すのはピンク色のハーフアップに猫耳のような髪型をした可愛らしい少女だった。肩に白猫を乗せている。


【物語あるある】ピンク髪のヒロイン


「(うわぁ、ヒロインっぽい子キタァ!)ど、どうぞどうぞ! いいよな? ユージーン」

「も、もちろんです!」

「ふふ、ありがとう」

「ニャー」

 少女はユージーンの隣に座った。

「二人ともヴァイスハイトの新入生よね? 」

「そうだよ」

「見ての通り私もなの! 私ヘルデ・キティ。二人は?」

「(キティは仔猫って意味だったよな。ヘルデは語感的にヒロインって意味から来てるのかな?)俺はキセキ・ダブルアール」

「僕はユージーン・ヴィゴーレです」

「ヴィゴーレ!? ヴィゴーレってあの!?」

 ヘルデはユージーンの名前を聞いて驚いた。

「え、知ってるの?」

「知ってるも何も五大貴族の内のひとつで、あのヴィゴーレ魔法魔術学園の創設者のヴィゴーレだよね!?」

「!?」


【物語あるある】友人が名家の生まれ


「あちゃ〜、やっぱり知ってる人は知ってますよね……」

「待って、ユージーン説明してくれ」

「まぁ、いつかは話さないといけないことですし……」

 そう言ってユージーンは渋々話した。

「ヘルデさんの言う通り、僕は五大貴族のひとつ、ヴィゴーレの者です。でも名前がヴィゴーレなだけで、数ある分家の内の1つなので対して凄くもないんです」

「いやいや! 凄いわ! まさか五大貴族の人と話せるなんて!」

 ヘルデは興奮気味に話した。そんな彼女を見て白猫も嬉しそうにニャアと鳴いた。

「貴族かぁ……そんな由緒あるところの産まれだったのか(最初野球部みたいだなんて思ってごめんね)」

「ほ、本当にそんな凄くないです! あとこれももう昔々の話ですけど、一応ヴィゴーレ魔法魔術学園を創設したことになってます」

「それってもしかして三大学舎ってやつのひとつ?」

「そうですキセキさん。さっきも話したようにこの国でパラディンの治める学舎は三つあって、魔法魔術学園ヴィゴーレ、魔法魔術学院ヴェネレイトそして僕らの入学する王立魔法魔術学校ヴァイスハイト……この三つを三大学舎と呼びます」

「なるほどなるほど……ん? でもじゃあ何でユージーンはヴィゴーレじゃなくてヴァイスハイトに?」

「そ、それは……まぁ、色々あって……」

「(Oh......話したくない感じね)ま、ヴァイスハイトじゃなきゃこうして出会えてなかったわけだし、良かったよ!」

「そうだね! キセキくんいいこと言う!」

「あ、ありがとうございます」

「ついでに聞いときたいんだけど、クラス:ドラゴンって何?」

「パラディンの話?」

「さっき「ディオーグ・キルアディア」先生の話をしてたんです」

 ユージーンはまた図解して説明を始めた。

「そもそもクラスとは魔術師のランク付けのことを言います。下からクラス:ユニコーン、クラス:ペガサス、クラス:グリフォン、クラス:フェニックス、そして最上位がクラス:ドラゴンです。僕達は入学したらまずクラス:ユニコーンから始まります。……あ、キセキくんは赤の招待状を貰っているので1つ上のクラス:ペガサスからですね」


【物語あるある】位階制度がある


「キセキくん赤の招待状なの!?」

「あはは……一応ね。誰からか分からないけど」

「偶然同じ汽車に乗り合わせた人達が赤の招待状持ちにヴィゴーレの末裔だなんて……今日はなんてハッピーなのかしら!」

「ニャーオ」

 楽しそうなヘルデを見て、また白猫が鳴いた。

「そういやヘルデはいつもその猫ちゃんを連れてるの?」

「そうなの! この子はアンジュ! 私の相棒なの!」

「(アンジュ……フランス語で天使って意味だったかな)可愛いね。ってことはヘルデは“獣術陣”を使うの?」

「そうよ! “猫術陣”っていうの」

「(なるほど……キティって名前と繋がった)いいねぇ。ユージーンは?」

「僕は“属術陣”の“土術陣”をよく使います」

「2人ともちゃんと“魔術陣”使えるんだなぁ。俺まだ使えないんだよね」

「ヴァイスハイトに入ってから初めて“魔術陣”を使うって人も珍しくないって聞くよ?」

「そうなんだ!」

「確かにそうですね。キセキくんもヴァイスハイトで自分に合う“魔術陣”を見つけられればいいですね」

「そうだな、ありがとう!」

 汽車はまたいくつかの駅で止まりながら、終点ヴァイスハイト王立魔法魔術学校を目指す。その間三人で話に花を咲かせた。

「キセキくん! ユージーンくん! もうすぐヴァイスハイトに着くよ!」

「そうですね。このトンネルを抜ければ……」

 トンネルを抜けると見渡す限り星空が広がっており、その中心に煌々と輝く大きな城が立っていた。

「(うおおおお!!!ハリー〇ッターのホグ〇ーツ城みてぇ!!!)」

「わぁぁ! 凄い! 凄い! 初めて生で見た!」

「僕もです! こんなに大きかったんですね! これが常夜城とこよじょう……!」

 周りの新入生達からも感嘆の声が挙がった。

「……ん? 常夜城?」

「はい。ここら辺一帯は常に夜のため、ヴァイスハイトは常夜城とも呼ばれてるんです」

「常に夜!? そんなことあるんだ」

「何でも「ディオーグ・キルアディア」先生の“魔術”が関わってるらしいですけど、本当のところはどうなんですかね」

「(「ディオーグ・キルアディア」ってホントにやべぇ魔術師なんだなぁ……)」

 汽車はゆっくりと止まり、新生活に胸を躍らせる少年少女達を下ろしていく。駅を出ると数十隻もの小船が常夜城を取り囲む湖に浮いていた。

「この船に乗ってヴァイスハイトに入るんです! 本で見ました!」


【物語あるある】一人だけめちゃくちゃ詳しい


「おお〜、勝手に動いてる! すげぇ」

 生徒が小船に乗ると小船はひとりでに動き出し、常夜城へと向かっていった。

「いよいよね! ヴァイスハイトの中、どうなっているのかしら!」

「そうですね! 楽しみです!」

「ああ、流石にこれはワクワクするな!」

 小船が港に到着すると、小船はまたひとりでに戻って行った。港から更に進むとヴァイスハイトの正門があった。

「これも本で見たところです! 凄い! 本物だ!」

「でも本で見るよりずっと綺麗!」

「(2人が終始嬉しそうでこっちまで嬉しくなるな)」

 正門を潜ると広い中庭があった。中庭の中心には大きな噴水があり、照明で照らされるわけでもなく様々な色に水が変化していた。

「虹の噴水! ヴァイスハイトの有名なオブジェクトです!」

「すげぇ、水自体の色が勝手に変わってる!」

「こんなに綺麗なもの見たことないわ!」

「ニャー」

 虹の噴水の先にある扉が自動的に開き、生徒達を迎え入れた。開いた奥には廊下を挟んで大広間があった。

「ここが入学式の会場ですね!」

「めちゃくちゃ広いな! すげぇ(俺さっきからすげぇしか言ってねぇな。語彙力欲しい)」

 大広間の天井にはいくつものシャンデリアが備え付けられ、広間全体を明るく照らしていた。外から見えた光もこのシャンデリアによるものだと分かった。

「私達以外にもこんなにたくさんの新入生が居るのね! 流石ヴァイスハイト!」

「うわぁ、みんな賢そうに見えますね」

「(転生前受験のとき周りの知らない生徒を見て全員俺より賢そうに感じたの思い出すなぁ……それにしても……)」

 集まった数多くの生徒達のほとんどが黒髪や茶髪なのに対して、何人か金色や銀色などの派手な髪の生徒がいる。

「(メタ的に考えると、黒髪や茶髪はモブで、派手髪はこれから先の重要人物になる可能性が高いな……どうせ関わることになるなら今から話しかけておくか!)ユージーン! ヘルデ! 俺ちょっとそこら辺の生徒と話してくるよ!」


【物語あるある】髪色が派手なことに違和感がない


「分かりました! 僕はもう少しこの大広間を観察してます!」

「私もそうするわ!」

「ニャーオ」

「了解! じゃあまた後で!」

 キセキは1番近くに居た金色の長髪の少女に話しかけることにした。

「こんにちは! 俺キセキ・ダブルアール! 君の名は?」

「……」

 少女はキセキを一瞥したが、返事はしなかった。

「あ、あの〜良かったら俺と友達にならない?」

「……友達、いらない」

 少女はプイッと顔を逸らしてキセキから離れていった。


【物語あるある】友達いらないカタコトキャラ


「(そういうタイプかぁ〜! いつかは出会うとは思ってたけど、いざ直面すると結構心に来るなぁ)」

 出鼻をくじかれたキセキはめちゃくちゃ凹んだ。そんな彼を見ていた少女達がいた。

「あらあら、お友達を作ろうとして失敗してる可哀想な殿方がいらっしゃいますわ♡」

「そうですね。メイルお嬢様」

 彼女はキセキが最初に見た銀色の髪の少女だった。左右におさげにした髪を縦巻きにカールしたいわゆる縦ロールの髪型をしており、とても印象に残る見た目をしていた。


【物語あるある】ゴリゴリのお嬢様キャラ


 彼女を「メイルお嬢様」と呼ぶのは、黄緑色の髪色で前髪をピッチリと斜めに固めたショートカットの眼鏡をかけた少女だった。


【物語あるある】に仕える執事キャラ


「あはは……恥ずかしい所見られたね。俺キセキ・ダブルアール。君は?」

「あらあら、この殿方庶民では飽き足らずワタクシとお友達になりたいのですわ♡どうしましょうセレスティア」

「そうですね。身の程を知れと存じますメイルお嬢様」

「当たり強え〜」

 キセキは「セレスティア」と呼ばれた少女の毒舌っぷりに涙が出そうであった。


【物語あるある】毒舌眼鏡キャラ


「可哀想なので名前ぐらいなら教えて差上げてもよろしいと思わなくて? セレスティア」

「いえ、名前を知ることさえ恐れ多いと存じますメイルお嬢様」

「(もう君のおかげで「メイル」ってとこまでは分かってるんだよなぁどうしたもんかね)」

「しかしこのままですと、この殿方はせっかくのヴァイスハイトライフを卒業まで独りで送りかねないわよ♡セレスティア」

「そうですね。そうしたらいいかと存じますメイルお嬢様」

「この可哀想な殿方に私一人ぐらい手を差し伸べてあげてもいいと思わなくて? セレスティア」

「いえ、庶民にそこまでしてやる義理はないかと存じますメイルお嬢様」

「あ、あの〜」

 キセキは我慢できずに話しかけた。

「あらあら、また向こうから話しかけてきましたわよ♡セレスティア」

「そうですね。無視でいいかと存じますメイルお嬢様」

「もしかしてだけど、メイルさんの方は俺と友達になりたい……?」

「……」

「……」

 二人の少女はキセキの言葉に固まった。暫しの間を空けてメイルが堰を切ったように話し始めた。

「だだだ誰が庶民なんかと友達になりたいと思いまして!? 厚かましいにも程がありますわ♡ねぇセレスティア」

「そうですね。厚かましい上に鬱陶しいことこの上ないかと存じますメイルお嬢様」

「(あちゃあ、典型的なツンデレタイプだったか〜)」


【物語あるある】現実では有り得ないツンデレキャラ


「も、もう行きますわよ♡セレスティア」

「そうですね。メイルお嬢様」

 そう言って2人は生徒達の群衆に消えていった。

「こりゃあ他の派手髪キャラ達も友達になるの難しそうだぞ……」

 キセキはこれから始まる新生活の先が思いやられるのだった。

 そんなとき大広間の吹き抜けにある二階に十人のフードを被った生徒達が集まっていた。その内の一人がキョロキョロと一階に集まった生徒達を見回している。

「おい、何キョロキョロしてんだ。新入生達に示しがつかないだろ」

「そ、そうなんですけど、どうしても見つけたい人が居て……あっ!」

 ある人物を見つけたその生徒は、フードを取って見つけた人物に思いっきり手を振り叫んだ。

「キセキぃぃぃぃ!!!約束通り来てくれたんだねぇぇぇ!!!!」

 それをギョッとした顔で見る九人のフードを被った生徒達。一階の生徒の群衆も皆二階に注目する。呼ばれたのはキセキだった。

「え!? あ、アキュア!?」

 そう、紛れもなく叫んでいたのはアキュアだった。ニコニコと嬉しそうに手摺から身を乗り出して手を振っている。

「バカッ! 戻れっ!」

 そう言われてアキュアは隣の生徒にフードを被せられ引き戻された。

「(な、何でアキュアが入学式に……!? もしかして本当に赤の招待状を送った人って……!)」

 カンッカンッ! ザワザワと騒ぎ立てる一階の群衆を静めたのは、前方から鳴り響いた木槌の音だった。

「……コホン。静かになったかね?」

 いつの間にか生徒達の前に居た、白髭で坊主頭の老人が目を細めて言った。シン……と静まり返った大広間は彼の次の言葉を待った。

「新入生諸君、よくぞヴァイスハイトに参った。まずはその喜びを分かち合おう」

 老人は拍手した。自ずと生徒達も拍手する。

「儂はヴァイスハイトの校長、プリンシプト・ストームじゃ。此度の入学式の司会進行を務める。よろしく頼むぞ」

 そう言ってプリンシプトは一礼した。


【物語あるある】校長はおじいちゃん


「まず最初は新入生代表の挨拶じゃ。ルミナス・コントラスト。前へ出よ」

 そう呼ばれ壇上に上がったのは、先程キセキが声をかけた金色の長髪の生徒だった。

「(あ、あの子新入生代表だったのか……さっきは緊張してたのかな……?)」

 前へ出たルミナスは一礼し、話し始めた。

「ワタシ、強くなる。友達、いらない。以上」

 もう一度礼をしてルミナスは壇上を降りた。

「(……うん、素だったっぽい)」

 大広間はまばらな拍手に包まれた。頭をポリポリと掻きながらプリンシプトが再度話し始める。

「……良い挨拶じゃった。さて、次はヴァイスハイトのパラディンズ・スカラー「十二衛弟じゅうにえいてい」の紹介と在校生代表挨拶じゃ」

 プリンシプトが言い終わる前にワッと拍手が起きた。

「(へぇ〜、「十二衛弟」っていうんだ! カッコイイな! 何か凄い人気だし! ってか俺の予想が正しければここで……!)」

 二階に待機していた十人の生徒達が一同に立ち上がり、フードを外した。プリンシプトが一人一人名前を呼んでいく。

「炎弟 フレイド・ブレイム

水弟 アキュア・オーシャン

砲弟 ガストル・スナイル

雷弟 ナルカミ・サンダーボルト

塔弟 ピサ・バベル

陽弟 ヒナタ・モノクローム

陰弟 ヒソカ・モノクローム

怪弟 ガルフ・プレデター

泉弟 スプリング・バッセン

鯨弟 バジェーナ・バレーナ

以上10名。

在校生代表フレイド・ブレイム。前へ出よ」


【物語あるある】味方精鋭がまとめて紹介される


「(やっぱり! アキュア呼ばれた! 十二衛弟になったんだ! 言ってた通りホントに凄い魔術師になってる! 凄い! ホントに凄い! そして制服姿も可愛い!)」

 そのときキセキは後ろから肩を叩かれ、ヒソヒソ声で話しかけられた。

「き、キセキさん! 十二衛弟のアキュアさんと知り合いだったんですか!?」

 振り返るとユージーンとヘルデが驚いた顔で立っていた。

「いや、アキュアとは幼なじみで、俺も今知ったんだよね」

「十二衛弟と幼なじみ!? 凄いわね! じゃあやっぱり赤の招待状は彼女から……?」

「聞いてみなきゃ分からないけど、多分そうだと思う……」

 三人が話していると、在校生代表のフレイドが壇上に移動していた。燃えるような赤い髪色をした青年で、腰に剣を携えている。彼は一礼し、話し始めた。

「新入生諸君っ! 入学おめでとうっ! 在校生を代表して心から歓迎するぞっ! そしてこれから皆と共に過ごせる学校生活を楽しみにしているっ! ここにいる皆が天晴れな六年間を送れることを祈っているぞっ! 以上! 在校生代表 フレイド・ブレイムッ!」

 フレイドは再度一礼した。その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。それだけ十二衛弟が有名で人気だということを証明していた。

「っにしても凄い人気なんだなぁ十二衛弟って」

「そりゃそうですよ! ヴァイスハイトだけでなくヴィゴーレやヴェネレイトのパラスもみんなの憧れですから!」

「ヴィゴーレとヴェネレイトにもパラスっているの!?」

「いるわよ! ヴァイスハイトと違って人数は少ないそうだけど」

「あっ、それなんだけど、何で「十二衛弟」なのに十人しかいないの?」

「一昨年まではちゃんと十二人いたそうなんですが、昨年二人は卒業、一人は退学になったそうです。そしてそこにアキュア様が入ったと」


【物語あるある】退学になった生徒


「退学!? へぇ〜、十二衛弟になっても退学とかあるんだ」

「僕も詳しくは知らないんですが、不思議ですよね」

「不思議よね〜」

「ニャー」

 三人が話している間にフレイドは二階に戻り、プリンシプトが話し始めた。

「素晴らしい挨拶じゃった。さぁ、次の進行に参ろうか。理事長からの挨拶じゃ」

 プリンシプトが「理事長」と呼んだ途端、また拍手と歓声が起きた。「待ってました!」や「キャー!」と叫ぶ生徒もいる。

「おいおい何か十二衛弟よりすげぇな。「理事長」ってことはまさか……」

「そのまさかです! ついに見れますよ!」

 次の瞬間、大広間のシャンデリアが消え、真っ暗になった。と思ったのも束の間、天井に星空が浮かび上がり、キラキラと生徒達を照らした。

「部屋の中に星空!?」

「2人とも! あそこ見て!」

 ヘルデが指差す先を見ると、そこには白いローブを来た男が宙に浮いていた。男はゆっくりとフードを下ろし、新入生達に目をやった。白い髪色をしているが、まだ若そうな男だった。

「こんばんは。星の子達よ」

 男が話し始めると、空気がピンと張り詰めるのを感じた。それまで鳴り止まなかった拍手と歓声が一瞬で静かになった。

「(何だ……この感じ……恐ろしい程強く感じるけど、全く怖くはない……むしろ優しく包み込まれるような……)」

「今年もこんなに多くの子ども達がヴァイスハイトに入学してくれて嬉しいよ。心より感謝する。そしてボクから伝えたいことは一つ……キミたちは自由だ」

 新入生達は皆彼に羨望の眼差しを向けていた。

「魔法や“魔術”を学ぶのも、生涯の友を見つけるのも、畢生忘れられない思い出を作るのも、全て自由だ。人に迷惑をかけない限り、キミたちは何をしてもいい。何でも出来る。可能性は皆星の数ほど持っている。ヴァイスハイトはそれを全力で支援する。このことをどうか忘れないでほしい。以上だ」

 ディオーグが話し終わり、大広間はまた静寂に包まれた。しかし次の瞬間、今日一番の拍手と歓声が沸き起こった。会場を壊さんとするような大歓声は、暫し鳴り止まなかった。

「(すげぇ……すげぇ! こう……何か……上手く言えないけど、とにかくすげぇ! これが最強の魔術師「ディオーグ・キルアディア」! 俺がアキュアに超えると約束した男!)」


【物語あるある】最強キャラの威厳が凄い


 キセキは圧倒され声が出なかった。それはユージーンとヘルデも同じようだった。ユージーンに関しては感動で泣いていた。

 カンッカンッ! プリンシプトが木槌を鳴らし会場を静まり返らせる。

「もう良いじゃろう。最後の進行に参る。組み分けじゃ」

 プリンシプトがそう話すと、消えていたシャンデリアに再度光が灯り、天井の星空は消えた。ディオーグはいつの間にか前方の壇上に降り立っていた。

「さぁ、前にいる生徒より壇上に上がるのじゃ」

 そう言われ最前列に居た新入生の一人が壇上へ上がる。

「な、何が始まんの……?」

「ディオーグ先生と握手するんです」

「握手会!? 何で!?」

「握手して自分が所属する寮を決めてもらうのよ。ヴァイスハイトでは毎年そうみたい」

「フニャー」

「ほえ〜(「ディオーグ・キルアディア」って組み分〇帽子の役割もするのか)。ちなみに寮っていくつあるの?」

「四つですよ。赤き炎のサラマンダル。青き水のウンディネル。黄色い土のノームール。緑の風のシルフィドル。雷以外の四属性を象徴する精霊から名付けられているそうです」


【物語あるある】いくつかの組がある


「なるほど(そういえばこの世界の属性は五つだったよな。炎、水、土、風、そして雷……これらの力を借りて“属術陣”は“展開”されると)」

「キセキくんとユージーンくんはどの寮に入りたいとかある? どうせなら同じ寮になるといいわね!」

「ニャーオ」

「そうだなぁ、俺もどうせなら知り合いの居る寮がいいな(そう考えるとアキュアってどの寮なんだろ? 属性的にウンディネルっぽいけど)」

「僕はサラマンダルですかね」

「“土術陣”なのに?」

「寮と属性はあまり関係ありませんよ。資質や何を目指しているかで分けられるんです」

「そうなんだ! それぞれの寮ってどんな感じなの?」

「サラマンダルは勇気、ウンディネルは知性、ノームールは忍耐、シルフィドルは野心をそれぞれ持つ者、または目指す者が振り分けられると言います。僕は勇気が欲しいので、それでサラマンダルに」

「ほうほう(ほぼハリ〇ポッターだな)」


【物語あるある】組を象徴するものがある


「じゃあ三人ともサラマンダルになるといいわね!」

「そうだな!」

「おいおい、「翼無はねなし」なんかと話すなよキセキ」

 三人の中に割って入ってきた者が居た。黄色の髪をした少年だった。前髪が稲妻のようにカールしている。彼の後ろには子分のように2人の同じ顔をしたガタイのいい少年がいた。


【物語あるある】子分を連れた偉そうなキャラ


「ん? 誰だ?(「翼無し」?)」

「俺はカンムル・サンダーボルト。キセキと同じ赤の招待状持ちだ」

「サンダーボルト……って十二衛弟の?」

「そう、彼は俺の兄だ」

「へぇ〜、そうなんだ! 俺はキセキ・ダブルアール……って何で俺の名前を知ってる?」

「さっきアキュア様が叫んでいたではないか」

「(なるほど……それで俺が赤の招待状持ちだと……鋭いな)そういうことか! 仲良くしよう!」

「ああ、だが俺は「翼無し」とは仲良くできない」

「さっきからその「翼無し」って何……?」

 疑問符を浮かべるキセキに、ユージーンが横から助言する。

「クラス:ユニコーンに対する蔑称です。クラス:ペガサス以上の生物には皆翼があるので」

「ああ〜! なるほど! 赤の招待状があるとクラス:ペガサスからスタートだから……そういうことか!」


【物語あるある】差別言葉がある


「そういうことだ。分かったら「翼無し」なんかと仲良くするのは止めとけ」

 ドテッ! カンムルが話し終わるや否や、キセキとの間に少女が転がってきた。

「わぁ!」

「あ、ご、ごめんなさい! 人が多くて目が回って……」

それは赤茶色の長髪をした生徒だった。眼鏡をかけているが、それが隠れるぐらい前髪を伸ばしている。

「大丈夫?」

「わ、あ、ありがとう、ございます」

 キセキが手を差し伸べると素直に少女はそれを掴んだ。

「おいおい、キセキ。そんな見るからに「翼無し」の奴なんかに優しくしても無駄だぞ? 俺たちは選ばれし生徒なんだぞ」

「さっきから聞いてたら君さぁ……」

 キセキは少女を立たせてからカンムルに応戦した。

「「翼無し」「翼無し」ってそんなに赤の招待状持ちが偉いのかよ。高々一クラス違うだけの同世代じゃねぇか」

「な、なに……?」

 カンムルは顔を歪める。

「第一、君の連れてるその双子の二人は赤の招待状持ちなのか?」

「そ、それは……」

 双子とカンムルは不味そうに顔を見合わせる。

「偶然同じ年に産まれただけでも奇跡なのに、数ある学校からヴァイスハイトを選んで出会うのはとんでもなく低い確率だ。そうやって出会えた仲間を蔑む人と、俺は友達にはなれない。他を当たってくれ」

 キセキは真剣な顔で話した。

「(うわぁ〜、せっかく仲良くしようとしてくれたのになぁ〜、しかも今の説教ジジイくさかったかなぁ〜)」

 キセキは真剣な顔のまま少し後悔した。

「……フンッ、せっかく俺から話しかけてやったのに! いいさ、「翼無し」共と仲良しごっこしてろよ!」

「カンムル……オレ達も「翼無し」……」

「カンムル……オレ達は……?」

 双子が困ったように話す。

「ライトもレフトも黙れ! 行くぞ!」

 そう言って三人は生徒の群衆に消えた。

「あ、あの、ありがとう、ございました」

 赤茶色の髪の少女がキセキにお礼を言った。

「あ、いやぁ、別に大したことしてないよ」

「いやいや! めちゃくちゃかっこよかったですよ! キセキさん!」

「そうだわ! とっても素敵だった!」

「ニャー!」

 ユージーンとヘルデが目を輝かせながら言った。

「そ、それほどでも……(結果的に良かったのかな?)」

「あの! ワタシ、ドロシー・ゲイル。よ、よろしく……」

「おお! よろしく! (ドロシー・ゲイル? ってあのオズの魔法使いの? 知ってる名前が出るのは初だな……これは重要キャラそう)」


【物語あるある】既存固有名詞と同名のキャラ


 ドロシーはペコッとお辞儀すると生徒達の中へ消えていった。

「キセキくん! そろそろ私達の番よ!」

 いつの間にかキセキ達の前に居た生徒達は、ディオーグとの握手を既に済ませ、寮が決定していた。

「おっ! じゃあ、俺達も行くか!」

 キセキ達は壇上に続く列に並んだ。初めはユージーンだった。

「よろしくお願いします!」

「ああ、よろしくね」

 ユージーンはディオーグと握手する。

「……そうだね、キミはサラマンダルだ」

「あ、ありがとうございます!」

 ユージーンは小さくガッツポーズをしていた。次はヘルデだ。

「よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

 ヘルデはディオーグと握手した。

「……キミはサラマンダルだね」

「……! ありがとうございます!」

 ヘルデがチラッとキセキを見た。キセキに言いたいことは分かった。

「(ユージーンとヘルデはサラマンダル……これは展開的にどっちだ!? 友達と同じ寮か全く違う寮か……!)」

 キセキの番になり、壇上に上がった。ディオーグと対面する。

「よ、よろしくお願いしまふ」

 緊張して噛んだ。

「アハハッ、よろしくね」

 ディオーグは笑ってキセキに手を差し伸べた。キセキはそれを掴む。その瞬間、ディオーグは少し驚いた顔をした。

「……キミは……」

「……? ディオーグ……先生?」

「……! ああ、すまない」

 ディオーグは一瞬固まり、すぐ我に返った。

「キミはサラマンダルだ。さっき、かっこよかったよ」

「あ……ありがとうございます!」

 キセキはホッとしたと同時に「(さっきの見られていたのか……)」と恥ずかしくなった。心配そうにユージーンとヘルデがこちらを見ていたので、ニッコリと笑ってピースサインを送った。ユージーンとヘルデはワッと喜んだ。

「三人ともサラマンダルになれて良かったね!」

「はい! 念願のサラマンダルです!」

「いやぁ、マジで安心した(ここは普通に王道展開だったか)」


【物語あるある】知り合いと同じグループに配属される


「あっ! 見て! ローブの一部が赤色になってる!」

「ホントだ! いつの間に」

 漆黒のローブの一部分がサラマンダルカラーの赤色になっていた。改めて見てみると、組み分けの済んだ生徒達は皆赤、青、黄、緑それぞれの色の入ったローブに変化していた。

「これで誰がどの寮かひと目で分かるわけか(そう考えてみると、アキュアはどの寮なんだろう?)」

 キセキは二階にいるアキュアに目をやる。彼女は隣席のガストルと楽しげに話していた。そんな彼女のローブは青の差し色に金の装飾がなされていた。

「(アキュアは青……! ってことはウンディネルかぁ。アキュアとは違う寮になっちまったな。それにしても……)なぁ、ユージーン。十二衛弟のローブに金の装飾が入ってるのってやっぱ特別だから?」

「そうですよ! 金の装飾のローブはパラスに選ばれた者しか着れない決まりになっているんです。憧れますよねぇ」

「確かにカッコイイなぁ(アキュア似合ってて可愛いなぁ)」


【物語あるある】味方精鋭は特別な衣装を纏う


 まじまじと見ているとアキュアがこちらに気づき、また大きく手を振ってきた。それを再度隣のガストルに注意されている。キセキは笑いながらも手を振り返した。

 カンッカンッ! プリンシプトの木槌の音が鳴り響いた。生徒達が一斉に壇上を見る。

「以上をもって組み分け、並びに入学式は終了じゃ。新入生は決められた寮の寮長の元へ集まり指示を仰ぐこと。今から寮長の名前を呼ぶ。呼ばれた者は前へ出よ」

 プリンシプトが四人の生徒の名を呼んだ。

「サラマンダル寮長 フレイド・ブレイム

ウンディネル寮長 アキュア・オーシャン

ノームール寮長 ピサ・バベル

シルフィドル寮長 ガストル・スナイル」

「(アキュア!? 十二衛弟と寮長って兼任なのか。大変だなぁ……アキュア大丈夫かな。ウチの寮長は在校生代表挨拶してた人か)」

 呼ばれた四人が新入生達の前に降りてきた。新入生達はそれぞれの寮長の元へ集まる。サラマンダルに決まった生徒達の前に立つフレイドが話し始めた。

「みんなっ! 改めてサラマンダル寮長六年生ののフレイド・ブレイムだっ! よろしく頼むっ! サラマンダルに所属したからには天晴れな学校生活になるぞっ! 俺が保証するっ! アッハッハッハッハッ!」

 フレイドは声高らかに笑った。


【物語あるある】声の大きいキャラ


「(在校生代表挨拶のときも思ったけど、何か色々清々しい人だな。すぐに仲良くなれそう。……ウンディネルの方は……あー! アキュアが説明してる! いやそりゃそうだけど! 何か見てたら嬉しくなる! そして可愛い!)……っいて」

 キセキに目に見えない何かが当たった。

「そこっ! よそ見厳禁っ! 今は俺の説明を聞いてくれっ!」

「あ、す、すみません」

 はははっとキセキは他の生徒に笑われた。

「これから実際に校内や寮の中を案内するっ! 俺についてきてくれっ!」

 そう言うとフレイドは先陣を切って大広間の出口へ向かった。サラマンダルの生徒はゾロゾロとそれについて行った。キセキもウンディネルの方を横目に後を追う。

「(アキュアと話したかったけど、今は難しそうだな。後でゆっくり話せるといいなぁ。とりあえず今はフレイドに従おう)」

「キセキさん、さっきどこ見てたんですか?」

 ユージーンがキセキにヒソヒソと尋ねた。

「え!? あ、いやぁ、それは……」

「私にはわかるよ〜、アキュア様でしょ?」

 ヘルデがいたずらっぽい笑みを浮かべながら言い当てた。

「ど、どうしてそれを……!?」

「見てたらわかるよぉ。キセキくん、アキュア様に声かけられたときからずっと気にしてるもん」

「ば、バレてた……(はっず)」

「気持ちはわかるよ! アキュア様かっこよくて優しそうで素敵だし。女性でも好きになっちゃいそうだわ」

「アキュア様、十二衛弟になった早さで言うと史上二番目らしいですよ」

「そうなんだ!? アキュアすげぇな」

「確かに三年生で十二衛弟ってあんまり聞いたことないかも」

「ニャン」

「ちなみに史上最速は……?」

「ディオーグ先生です」

「やっぱりか〜(聞けば聞くほどヤバい人だ)」

 キセキ達が話していると、サラマンダルの生徒達はとある場所に到着した。そこは円の形をした部屋で、外向きに数十枚の扉が設置されている。天井はステンドグラスになっており、月光が様々な色に変わり降り注いでいた。フレイドが話し始めた。

「ここは扉の間っ! 扉の前で行きたい部屋の名前を呼んで開けば、その部屋に行くことが出来るっ!ヴァイスハイトでの生活で一番使うことが多いだろうなっ!」

「(へぇ〜、当たり前のようにドラ〇もんのどこで〇ドアがあるんだ。流石魔法の世界)」


【物語あるある】魔法の世界特有の施設


「試しに次に紹介する場所へ行ってみようかっ!」

 フレイドは一枚の扉の前に立った。

「クエストカウンターッ!」

 彼がそう叫び扉を開くと、そこは市役所のような場所だった。長いカウンターに所狭しと人が座っており、生徒と話している人もいれば、何らかの資料を書くことに熱中している人もいる。サラマンダルの生徒達が全員中へ入ると、フレイドは説明を始めた。

「ここはクエストカウンターだっ! 全国から集まるクエストを取り扱っている。君達はもう立派な「クラス持ち」の魔術師だから、自由にクエストを受けて報酬を貰うことが出来るっ! クエストをこなせばクラスが上がり、更に良い報酬のクエストを受けることが出来るぞっ! そうして日々精進して天晴れな魔術師を目指すんだっ!」

「「クラス持ち」……?」

 キセキの疑問にヘルデが答えた。

「クラス分けされて政府から認められた魔術師のことよ。この世には学校には行かずに独学で魔術を扱う魔術師もいるの。そういう人は政府から認められているわけではないから、クエストを受けて報酬を貰うことは出来ないわ。私達はヴァイスハイトに入学した時点でクラス:ユニコーン以上に認定されているから、クエストを受けることが出来るわけよ」

「ほ〜、なるほど。学校に入ってないとクエストで稼ぐことは出来ないってことか」

「ほとんどの人が三大学舎と言わずとも何らかの学校に入っているので、今の時代クラス持ちじゃないのは入学前の子供か「黒魔導師」くらいですけどね」

「そうなんだ!(「黒魔導師」……ビアードやファットの野郎の様な魔法や“魔術”を悪用する輩のことだな。逆に社会の発展や善行のために魔法や“魔術”を扱う者のことを「白魔導師」と呼ぶ。特に黒魔導師を取り締まる警察のような役割を担っている集団は「白魔導師隊」と呼ばれている……だったよな)」

 キセキ達が話している間も、フレイドは説明を続けていた。

「また、逆に君達がクエストを発行することも出来るっ! 必ずしも誰かに受注されるというわけではないが、 何か困ったことがあればここに頼ることも一手だっ! あそこにあるクエストボードの内容は、寮の中など校内に点在しているミニボードと共有されているから、随時確認することをオススメするぞっ!」

 フレイドが指差した先には大きな掲示板が掲げられおり、大量の貼り紙が為されていた。それぞれの貼り紙にクエストの内容と報酬が事細かに書き込まれている。

「(わざわざここに来なくてもどんなクエストがあるか確認出来るわけか。そりゃ便利ね)」

「ここまでで何か質問は無いかっ!……無ければ次の部屋に行こうっ!」

 フレイドは入ってきた扉の方に向かい、生徒達はそれに続いた。フレイドが扉の前で「扉の間っ!」と叫ぶと、再度扉の間に戻ってこれた。

「ちなみにだが、扉の間は校内のあらゆる扉と繋がっているが、それぞれの部屋は他の部屋と繋がっているわけではない。つまり一度入った部屋から違う部屋へ行く際は、扉の間をもう一度経由しなければならない。隣の部屋に行きたいだけなら普通に廊下を歩いた方が早い場合もあるから、要注意だぞっ!」

「(なるほど、一応普通の学校みたいに廊下で繋がっているのか。そしてわざわざそれを説明するってことは今後この仕組みが関わる何かしらがあるってことね)」

 キセキはメタ的に推理した。


【物語あるある】必要のないことは説明しない


「クエストカウンター以外にも、教室、購買、食堂、職員室、競技場、大浴場、図書室などにも繋がっているが、今回は最後に寮棟を紹介して終わろうかっ! ヴァイスハイトに来るまでの長旅で疲れている生徒もいるだろうからなっ!」

「(確かに一つ一つ回ってたら日暮れちゃいそうだな。ここは常に夜だけど)」

 フレイドは扉に向かって「サラマンダル寮っ!」と叫んだ。そして扉を開くと、赤色の装飾が為された大きな暖炉のある広い部屋に繋がっていた。

「(おお〜、高級ホテルみてぇ)」

「ここはサラマンダル寮の談話室だっ! 談話室はサラマンダル生の共有スペースになっているから、皆仲良く使うんだぞっ! そしてあそこにある階段を登った先の扉からそれぞれの部屋に行けるっ! さぁ、今日は各自ゆっくり休んで、明日からの授業に備えてくれっ! 明日は8時に「オリハルコン」という教室に集合だっ! 質問が無ければ説明は以上とするっ!」

 生徒達は質問の代わりに拍手で返し、それぞれ我先にと階段を駆け上がっていく者もいれば、談話室に見とれている者もいた。そんな新入生達を眺めながら、思い出したようにフレイドが喋った。

「そうだっ! キセキ・ダブルアールッ! 少し俺と来てくれるかっ!」

「えっ! 俺ですか?」

 キセキは驚きながらも、ユージーンとヘルデに軽く会釈してフレイドについて行った。扉の間に再度戻り、フレイドは扉の前で「プロミネンスッ!」と叫んだ。扉を開くと中は普通の教室のようだった。キセキはフレイドの後に続いて恐る恐る足を踏み入れた。

「ここはディオーグ先生から貸し与えてもらった教室の一つだ。生徒と個人的に話がしたいときに使わせて頂いている」

「そ、そうなんですね……(何で俺だけ呼ばれたんだ? 主人公だから? ってか「〜だっ!」って感じじゃなく普通に話せるのね……)」

「疲れただろう? そこに座りなさい」

「あ、ありがとうございます」

 キセキは置いてあった椅子の1つに座った。フレイドは奥にある扉の中へ入っていき、暫くするとティーカップに注がれた紅茶を両手に持って出てきた。片方のティーカップをキセキの前の机に置く。

「良ければ飲んでくれ。元気が出るぞ」

「どうも……っ! 美味しいですね!」

 キセキは一口飲んで率直な感想を伝えた。フレイドはニコッと微笑んだ。

「疲れているところ呼び立ててしまってすまない。あと皆の前で注意したことも悪かった」

 そう言ってフレイドはキセキに頭を下げた。

「い、いえいえ! とんでもないです! あの時はよそ見してた俺が悪かったので!」

「アキュアを見ていたのだろう?」

「……! あ〜、まぁ、はい……」

「隠すことは無い。キミと彼女が旧知の仲なのは知っている」

「え……そうなんですか?」

「実は彼女からキミのことを頼むとお願いされていてね」

「あ、アキュアから!?」

「俺だけじゃない。十二衛弟達全員にお願いして回っていた。来月私の弟が入学するのでよろしくお願いしますと」

「あ、アキュアが……そんなことを……」

「彼女はキミを本当の弟のように思っているんだな。キミとの話はこの二年で何度も聞いたよ」

「た、例えばどんな話を……? (気になる……!)」

「う〜ん、そうだな。幽霊やお化けが怖いとか」

「……え?」

「よくボーッとしてるとか、突然意味のわからないことを言うとか」

「ちょちょ、待ってください。そんなことばっかりですか?」

 フレイドはチラッとキセキの顔を見やり、プハッと吹き出した。

「アッハッハッハッハッ! もちろんこんな話ばかりじゃないよ。彼女はそういった話の最後に、必ずキミがかっこよかったという話をする。私の夢を笑わずに応援してくれたとか、黒魔導師から守ってくれたとかね」

「そ、そうなんですか……!(て、照れるなぁ……)」

「キミのことを話す彼女はいつも楽しそうだったよ。どんな話をするときよりも」

「(いやもう好きやん。アキュア、俺のことめっちゃ好きやん)」

 キセキは嬉しくて関西弁になった。

「彼女は天晴れな生徒だ。ディオーグ先生に次ぐ早さで十二衛弟になったことだけじゃない。普段の授業態度や努力の数から見ても素晴らしい魔術師だと思う」

「アキュア……やっぱり人一倍頑張っていたんですね……!」

「ああ、そんな彼女の言う人物だからこそ期待せずにはいられなかった。キミにね」

 フレイドはキセキをジッと見つめた。

「うう、プレッシャーが……」

「アッハッハッハッハッ! 重荷に感じることは無いさ。何故ならキミは既に期待に応えている」

「……俺が、ですか?」

「ああ、入学式でナルカミの弟と一悶着あっただろう?」

「あれ……フレイドさんにも見られていたんですね……」

「皆見ていたと思うぞ。もちろんアキュアも」

「そうなんですか!?(マジかよ……恥ずかし〜)」

「あの行動は誇っていい。天晴れだ。キミは決して間違っていなかった」

 フレイドに褒められると、キセキは心の奥がホッと暖かくなるのを感じた。

「(何だろうこの人の……初対面なのに絶対に嘘をついてないってわかる感じ……褒められると凄く安心する)あ……ありがとうございます!」

「ただ、ナルカミには完全に目をつけられたな。注意した方がいい」


【物語あるある】上級生に目をつけられる


「えっ、十二衛弟にですか」

「彼は俗に言うクラス至上主義者でね。クラス分けこそ魔術師にとって絶対だと思っている節がある。私も注意して見ておくが、彼には気をつけろ」

「ええ……怖ぁ……」

「アッハッハッハッハッ! そんな不安がるな! 俺がついている!」

「……! はい!」

「長々とすまなかった。俺の話は以上だ。これからよろしく頼むよ」

「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」

 フレイドとキセキは最後に握手をして別れた。サラマンダル寮の談話室に戻ると、それに気づいたユージーンとヘルデが駆け寄ってきた。

「き、キセキくん! 大丈夫だった!?」

「一体フレイド様と2人で何の話をしてたんですか!?」

「あはは、まぁ、色々話したんだけど……」

 キセキは2人にフレイドとした話を伝えた。

「へぇ〜、アキュア様素敵だね!」

「ニャー」

「十二衛弟二人からそこまで言われるキセキさんが凄いですよ!」

「ありがとう。ホントにそんなことないんだけどね(行きの電車でのユージーンの気持ちがわかる……)」

「ニャーゴ」

「あら、アンジュが疲れたからもう寝たいって! 私達は先に部屋で休もうかしら」

「(すげぇ、言ってること分かるのか)」

「僕達もそうしましょうか、キセキさん」

「そうだな。今日一日で色々ありすぎてちょっと疲れたし」

 キセキ達はそれぞれ自室へと向かった。自室の中はベッドにクローゼット、デスクが一つずつの簡素な作りになっていた。クローゼットの中にはヴァイスハイトの制服が入っており、宙に浮いた小さなランプが部屋を照らしている。奥の扉を開くと洗面台とトイレ、浴槽が備え付けてあった。

「(うわぁ、ちょうどいいなぁ。必要最低限で広すぎず狭すぎずって感じ。さ、日記を書いて風呂入って今日はもう寝るとしますか。アキュアとはいつになったら話せるだろ……忙しそうだしなぁ)」

 キセキは毎日つけている日記に今日あった出来事をまとめた。ちょうどフレイドと話したことを書いているとき、ドアがノックされた。

「はい」

 彼が返事をすると、ドアの向こうから聞き慣れた声が聞こえた。

「キセキ……? 入ってもいい?」

「あ、アキュア!?」

 キセキは急いで扉を開けた。そこにはアキュアが申し訳なさそうに立っていた。

「アキュア……! 来てくれたんだ!」

「キセキ……! キセキぃぃぃぃぃ!!!!」

 アキュアはキセキに飛びついた。

「わぁ!」

「キセキだぁ。キセキがヴァイスハイトにいるぅ。嬉しいよぉ」

「あはは、俺もまた会えて嬉しいよ、アキュア」

 キセキは格好がつかないと思い、ドキドキしているのに平静を装った。二人は互いに向き合う。

「私のわがままで、ヴァイスハイトに来てくれて本当にありがとう。入学式、どうだった?」

「色々圧倒されたよ。アキュアが十二衛弟として立ってたのも」

「えへへ、キセキを驚かせようと思ってこの二年必死に頑張ったんだよね。あのディオーグ先生の次に早く十二衛弟になったんだよ! 凄くない!?」

「あはは、それ知ってる。ホントに凄いよ。そして他の十二衛弟に俺の事お願いしてくれたんでしょ? ありがとう」

「あ〜、フレイドさんから聞いた? 私が勝手にしたことだから、気にしないで!」

「あっ、そういやこの招待状って……」

 キセキは懐から赤の招待状を取り出した。

「それ! 私がキセキに送ったの! 入学式まで十二衛弟になったことバラしたくなかったから、名前書かなかったんだよね」

「そういうことだったのか……ってかそう言う割には思いっきり上から俺のこと呼んでたよね?」

「えへへ、キセキ見つけたら嬉しくって思わず叫んじゃった。ごめんね」

「(可愛い)いやぁ、俺は全然大丈夫だったけど、アキュアの方がめっちゃ注目されてたよ」

「注目されてたと言えばアレ! めっちゃかっこよかったよ!」

 キセキは2回目なのでアレとはカンムルとの一件のことだと分かった。

「あはは……それ恥ずかしいからあんまり言わないで……」

「恥ずかしがることないよ! アレは全面的にキセキが正しかった! 誇っていいよ!」

 フレイドと同じように褒めてくれるアキュアに照れつつもキセキは嬉しかった。

「そういえば寮は違うけどさ、授業は他寮と合同で行う授業も多いから、そういう所で会えるかも!」

「そうなんだ! それは嬉しい!」

「私も嬉しい!キセキと一緒に授業受けるの、夢だったんだ! 楽しみにしてるね!」

 そう言うとアキュアはクルッと扉の方に向いた。

「今日はもう疲れたでしょ? こんな時間に訪ねてきてごめんね。ゆっくり休んで!」

「ああ、そうするよ。会えて良かった。ありがとう」

「ねぇ、キセキ。私、忘れてないからね。「ディオーグ先生よりも凄い魔術師になる」って約束」

「……! (覚えてくれてたんだ!)」

「私はそれも楽しみにしてるよ! またね!」

 アキュアは満面の笑みで手を振りながらキセキの部屋を後にした。

「(約束……守らなきゃな。……あっ! 駅でのことなんだったのか聞き忘れた! ……まぁ、これからいつでも聞けるか)」

キセキは風呂へと向かい、寝支度を整えるのだった。


【物語あるある】長い長い初日

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