《第1章:旅立ち》『第3節:試し参り』

「(俺ってロリコンなのか?)」

 キセキは鏡に向かって真剣に悩んでいた。

「(って何真面目に考えてるんだ。ロリコンも何もそもそも自分がショタじゃないか。いやでも中身は30のおっさん……いやいやもう転生したんだから14の少年……)」

「なぁ〜に考えてんのっ!」

 後ろから現れたアキュアがキセキの肩に手を置いた。

「うわぁ! アキュア!」

「あははっそんなに驚かなくても! さっきから呼んでるのに全然来ないんだから!」


【物語あるある】主人公は鈍感


「い、いやぁ……ごめんごめん。ちょっと考え事してて」

「呼んでも気づかないくらいの考え事って何?」

「そ、それは内緒だよ!」

「え〜、けち〜」

 アキュアは頬を膨らませてみせた。可愛い。まさかアキュアのことを好きになってしまったかもなんて言えない。キモい? やっぱキモいかなぁ? 恋愛なんて全然してこなかったからわかんねぇや! とキセキは思った。

「それよりさ! 今日の夜、忘れてないよね?」

「え? ……あ、ああ、もちろん!」

「え〜? 何その間! もしかして忘れてたの? 」

「忘れてないよ! 試し参りのことだろ?」

「なぁんだ、ちゃんと覚えてくれてるじゃん!」

「あ、当たり前だろ! あはは……」

 木こりの一件から一ヶ月が経とうとしていた。「キセキ・ダブルアール」としての生活にも、新しい世界の村での活動にも順応しつつあった。その間毎日のようにアキュアと過ごしていて、今日の夜に至っては二人で試し参りというものを行う予定だった。というのも……


〈二週間前〉


「村を出る!?」

「そ! 私、二週間後にヴァイスハイトに行くの!」

「ヴァイスハイトって……あの王立魔法魔術学校とかいう……あの……?」

「そう! みんな憧れの学校!」

 キセキはこの世界に来てから二週間で、魔法や“魔術”を学べるそういう学校があることを思い出していた。


【物語あるある】技術を学ぶ拠点がある


 そしてそこへ行くということは、最低でも六年は村に帰ってこないということも。

「私16になったらヴァイスハイトに行くことがずっと夢だったの! ヴァイスハイトは入学試験も無いから誰でも入れるし、何よりあの「ディオーグ・キルアディア」先生がいる!」

「「ディオーグ・キルアディア」……?」

 その名前は記憶に無かった。

「知らないの!? 魔術師なら知らない人はいない最強の魔術師だよ!」

「(あるある界の五〇悟キタァ!!!!)」


【物語あるある】最強キャラが存在する


「ヴァイスハイトは彼が理事長を勤めていて、彼の元で学べることはとっても光栄なことなんだよ!」

「へ〜、なるほどね〜(「ディオーグ・キルアディア」ってめちゃくちゃ強そうな名前だけど、由来何なんだろ? 俺の知らない言語で「最強」とかいう意味なのかな)」

「っでさ! 私、村を出る前にやりたいことがあるの!」

 アキュアが目を輝かせながら話す。

「やりたいこと?」

「試し参りって知ってるよね?」

「ああ、確か自身の勇気を試すために村の東にある洞窟に御札を持っていくやつだっけ?」

 それは村に古くから伝わるものだった。

「そう! そして試し参りをしてヴァイスハイトに行った人はみんな凄い魔術師になれるんだって! これはやるっきゃないっしょ!」

「ホントかなぁそれ」

 キセキは彼女に疑いの眼差しを向けた。

「あ〜! その顔は信じてないなぁ? 私のお隣さんの従兄弟の友達のお母さんのおじいちゃんも試し参りで凄い魔術師になったって言ってたもん!」

「それ……つまり赤の他人じゃない……?」

 キセキは次は呆れた目線を彼女に向ける。


【物語あるある】根拠になる人が遠い


「っとにかく! キセキには試し参りに付き合ってほしいの!」

「な、何で!?」

「試し参りには見届け人が必要なの。親戚だと不正が疑われちゃうから友達のキセキが最適なんだよね」

「あ〜、確かにそんなルールあったような……」

 キセキはぼんやりと思い出す。そしてもう1つ重要なことを思い出した。

「待って、確か試し参りに使う洞窟って肝試しの洞窟って呼ばれてなかったっけ?」

「そうだよ」

「肝試しってことは幽霊とかお化けとかそういうのが……」

「見たって人もいるね」

「無理無理無理無理無理無理!!! 絶対無理!!! 行けない!!!」

「えぇ〜! 大丈夫だって!」

 キセキは転生する前からそういった類のものが心底苦手であった。

「幽霊が出ても私の“魔術”でまた何とかするから! 大丈夫!」

「幽霊にも“魔術”って効くの?」

「……多分?」

「効かないやつじゃぁん」

 キセキは半泣きで言った。

「えぇ〜、キセキは私の門出を祝ってくれないの?」

「それはめでたいことだし祝いたいけど、それとこれとは話が別と言うか……」

「えへへ、そう言いつつキセキは来てくれるって信じてるよ!」

アキュアが上目遣いでそう言った。くそっ! 可愛いなこいつ!

「……わかったよぉ〜、行くよぉ〜(大体こういうとき物語だと事件が起こるしなぁ)」

「やったぁ! 流石キセキ!」

こうしてメタ的な理由でもキセキはアキュアの試し参りに同行することになっていたのだった。


【物語あるある】主人公の行く先々で事件が起こる


〈二週間後・夜〉


「やってきましたぁ! 肝試しの洞窟!」

「うわぁ、いかにもって感じ……」

 洞窟の入口には明らかに手入れされていないであろうことを示す雑草が鬱蒼と生えており、脇で風に揺れるシダレヤナギらしき木も恐ろしい雰囲気を醸し出す要因になっていた。


【物語あるある】名前通りの場所


「(そう言えばこういう植物はあんまり異世界感無いよな。元いた世界とあんまり変わんない感じ。……って冷静に観察してるけど、普通に怖えぇ〜)」

「御札もちゃんと持ってきたし! 早速行くよ!」

「もう行くの!?」

「ここで止まってても仕方が無いし、ササッと終わらせちゃおうよ!」

「それもそうだけど心の準備が……」

「そんなの待ってたら明日になっちゃうよ! さっ! 早く早くぅ!」

 アキュアはキセキの背中を押した。

「わ、わかった! 行くから押さないでぇ〜」

 洞窟の中は当然真っ暗でヒンヤリとしていた。持ってきた松明が消えないように庇いながら二人は進んだ。十分ほど進んでからキセキはふと疑問に思っていたことを話した。

「そう言えばアキュアはどうしてヴァイスハイトに行きたいの? (正直めっちゃ寂しい)」

「え〜? 気になる? どうしよっかなぁ〜」

 松明の火でアキュアのイタズラっぽい顔が照らされた。

「気になる気になる! 教えてよ」

「それはねぇ〜、キセキがいたからだよ」

「え? 俺?」

 キセキはドキッとして、キョトンとした顔をする。

「私たち、兄弟がいないじゃん? だから私にとっては幼なじみのキセキが弟みたいなものでさ。小さい頃から色々教えてる内に、将来そういう仕事に就けたらいいなぁと思うようになったの」

「もしかして……先生になるために?」

「そっ! 何か恥ずかしくてママとパパにも言えてないんだけどね。二人だけの秘密!」


【物語あるある】二人だけの秘密


「そっか、先生に……」

 キセキの脳内に幼い頃から様々なことをアキュアに教わった記憶が蘇る。

「……うん、めちゃくちゃいいと思う! 絶対向いてるよ! 先生! 俺は応援する!」

「えへへ、ありがとうキセキ」

「(そういや俺って兄弟どころか親もいないんだよな。いや、この世に産まれたってことはいないわけがないんだけど、今の家は一人暮らしだし、親に関することはこの一ヶ月一向に思い出せない)……ねぇ、変なこと聞くけど、俺の親って……」

「あ〜! あった! これじゃない!?」

 キセキの疑問はアキュアの喜びの声で遮られた。


【物語あるある】主人公の親に何かある


「……? キセキ、何か言った?」

「あ、いや、何でもない! 気にしないで! っていうかこれか! 御札を納める祠って」

「うん! きっとこれだよ! 私たち以外の御札がたくさん貼ってあるし!」

 アキュアは見つけた祠に自身の御札を貼り、手を合わせて祈った。その横顔を見てキセキは「(やっぱり可愛いなぁ〜)」と思っていた。

「よし、お待たせ! 帰ろっか!」

「そうだね! (特に何も事件は起きなかったな。今回はアキュアの将来の夢を知るイベントだったのかな。っにしても、明日でアキュアとお別れかぁ……寂しいなぁ……)」

 二人は踵を返して元来た道を戻った。

「無理言って付き合ってくれてありがとうねキセキ」

「いやいや! こちらこそ秘密を話してくれてありがとう! 結局幽霊なんかいないし、肝試しの洞窟も大したことなかったなぁ、なんて!」

「あははっ本当にそ……」

「……アキュア?」

 突如アキュアが歩みを止めた。

「キセキ……何か聞こえない?」

「……? 何も聞こえないよ?」

「あれ……? 気のせいかな?」

「ちょっと、怖いこと言わないでよ!」

「ごめんごめん! でもさっきは確かに……」

 そう言って再度歩み始めた途端、後ろから確かに聞こえた。

「ヒタッヒタッ……」

「待ってアキュア……俺にも聞こえるかも」

「だ、だよね……? しかもこれ……」

「ヒタッヒタッ……!」

 その異音は二人の歩みに合わせて止まり、動いていた。

「あ、アキュア……こういうときって……」

「う、うん……こういうときは……」


【物語あるある】逃げる


「うわああああああああ!!!!」

 二人は大声で叫びながら走った。しかしそれに合わせて異音も早くなった。

「ヒタッヒタッヒタッヒタッ」

 その音から逃れるように二人は懸命に走った。走って走って走ったが……

「ね、ねぇキセキ! 何かこの洞窟、来たときより長くない!?」

「た、確かに! これだけ走ったならもう出口に着いてもいい頃なのに!」

「ヒタッヒタッヒタッヒタッ」

 異音は止まず、出口に着く気配も一向にない。

「アキュア、これはもしかして……」

「うん、多分私たち……何者かに魔法の力でこの洞窟に閉じ込められてる!」

「そう来ましたかぁ〜!(やっぱり何か起こるんだなぁ〜!)」


【物語あるある】事件は帰りに起きる


 ガッ! 「ぎゃふんっ!」

 キセキは石に躓き盛大に転んだ。

「キセキッ!」

「ヒタッヒタッガルルルルァ!!!」

 キセキが転んだその瞬間、後ろから魔物が姿を現した。それは大きな犬の頭に脚が生えた異形だった。

「プラーヤ!」

 バチンッ!キセキまであと一歩のところでアキュアの魔法により魔物は弾かれた。

「キャインッ!」

「うわぁ! アキュア何アレ!? 犬!? いや、え、頭から脚生えてんだけど!?」

「……魔物図鑑で見たことがある。帰り道を後ろからついて行って転んだら食べようとする魔物「送り犬」!」

「(送り犬!? うわぁ、何か聞いたことあるかも!)」

「「帰り道」「転んだときだけ」っていう二重のリスクで彼は相当強くなってるはず」

「リスク……?(そういえばアーサーが言ってたぞ。リスクは時として力になるって……そうだ、この世界ではリスクを負えば負うほど強くなるんだ……思い出したぞ……!)」

「う〜ん、出し惜しみしてる場合じゃなさそう」

「おお! 待ってました!」

「“水術陣 展開”」

 アキュアが杖を高く掲げると、彼女の足元に水色の魔法陣が浮かび上がる。

「“第2章”」

「ガルルルァ!!!」

 送り犬がアキュアに飛びかかる!

「“飛沫撃ち”!」

 ドドドッ!アキュアの正面に水面のようなものが現れ、それに触れた送り犬の身体に弾けた飛沫が衝突していった。

「キャインッ!」

 吹き飛ばされた送り犬は洞窟の壁にぶつかり転げた。

「どうだ!」

 まるで自分がやったかのようにキセキは叫んだ。

「ガルッ、ガルルルルル」

 しかし送り犬は平然と立ち上がった。

「効いてない……? だったらこれはどう!? “第3章”」

「ガルァ!!!」

 再度送り犬がアキュアに襲いかかる!

「“飛瀑落し”!」

 次は上空から現れた水流が送り犬を叩き落とした。

「キャインッ!」

「そして今の内に! カプツーレ!」

 アキュアが呪文を唱えると、どこからともなく現れた鎖が送り犬を捕らえた。

「アキュア凄い! 送り犬を捕まえた!」

「ふぅ、これで少しは大人しくなるかしら」

 アキュアは額の汗を拭いながら言った。

「ガルルルルルッ」

 送り犬は捕らえられてもなお暴れていた。

「リスクで強化されてるとはいえ、二回も“魔術”をまともに受けてこれだけ元気だなんて……」

「リスクでの強化ってそれだけ凄いんだね! それを捕まえちゃったアキュアのほうがもっと凄いけど!」

「えへへ、最後にカッコイイところ見せられたかな?」

「いやもうカッコよすぎた! 惚れ惚れした!」

「もう〜、褒めすぎだ……」

 アキュアの胸にナイフが刺さっていた。


【物語あるある】突然惨劇が起こる


「!? アキュア!!!」

 アキュアはその場に倒れ込んだ。

「ったく、ファット! だから言ったじゃねぇか、初めから俺がやってれば良かったって」

 そう言いながら髭面の男が岩陰から現れた。

「そう言うなよビアード。ウチのペルロもよく頑張ったよォ」

 そう話すのは髭面の男の後ろから現れた小太りの男。会話から察するに髭面はビアード、小太りはファットと言うらしい。

「(な、何だこいつら……どっから現れた!? いや、そんなことより今は……)アキュア! 大丈夫!? しっかり!」

 キセキはアキュアを抱きかかえて叫んだ。

「キセキ……私……どうなって……」

 アキュアは酷く弱った様子だった。

「(胸にナイフが刺さってる。こんなときどうすればいいんだっけ!? 抜いていいのか!? 抜いたらダメだったっけ!?)」

「おい、坊主、その女はもう動けねぇよ」

「!?」

 ビアードはキセキに話しかけた。

「俺はパッシブでな、魔力核が見えるんだよ。そして“刃術陣”でそいつを貫いた。どんな人間でも魔力核をやられたら動けなくなる、そうだろ?」

「(パッシブ? 魔力核? “刃術陣”? 何言ってんだ!? わけわかんねぇよ!)」

「ビアード、こいつ何から何まで分かってねぇって顔だぞォ!? 教えてやりなよォ!」

「あ〜、田舎のガキだから何も知らねぇのか。可哀想に。教えてやるよ」


【物語あるある】敵に情報を開示する


 ビアードは近くの石の上に座って話し始めた。

「俺たちは色んな国巡ってる盗賊だ。昔は仲間も結構居たが皆「ディオーグ・キルアディア」にやられちまってな、今じゃファットとそのお嬢ちゃんに捕まったペルロだけよ」

 いつの間にか捕まっていたはずの送り犬が居なくなっていた。

「俺たちの狩りはいつも単純。洞窟を見つけたらその近くで待ち伏せて冒険家や興味本位で入っていく子どもを魔法で閉じ込める。部屋の鍵をかける魔法の応用だな。

 そしたら閉じ込められて焦ってる隙に、弱そうな相手にはファットの“怪術陣”でペルロを召喚して殺す。強そうな相手には俺のパッシブと“刃術陣”で魔力核潰して殺す。今回はお嬢ちゃんが中々やると見て俺が出るって言ったのに、ファットがいけるって言って無理にペルロを出したんだよ」

「(こいつらが突然現れたのは閉じ込めた「箱」の外から入ってきたからか……! しかしどうする……? 大人二人と一匹からアキュアを抱えて逃げられるか? いや逃げられるかどうかじゃなく逃げなきゃ……)ぐはっ!」

「逃げようとしてんのバレバレ」

 キセキの胸にもナイフが刺さっていた。キセキは倒れ込んだ。

「(いってぇぇぇぇぇぇ痛い痛い痛い痛い! 何だ!? 何が起きた!? 胸にナイフが……えっ!? 刺さってる!? 痛い熱い痛い!)」

「お前だけ何か魔力核見えねぇんだよな。まぁ、どちらにせよ胸刺したら死ぬだろ」

「(ヤバいヤバいヤバいどうする? アキュアは動けないし、俺も刺されてヤベぇ! 痛い! このままだと2人とも死……待てよ )」

 キセキはゆっくりと立ち上がった。

「おい、ビアードつったか?」

「おお、胸刺されてまだ動くのかよ」

「刺したきゃもっと刺してみろよ! ほら! どれだけ刺されても! 俺は死なねぇ!」

「ぶははっ! 何だこいつゥ! ビアード、やってやれよォ」

「(何だ……? 刺されて頭がおかしくなったか……?)はっ! お望み通り! “刃術陣 武装”」

 ビアードの足元に銀色の魔法陣が現れた。

「“第1式 飛刃”」

 その瞬間、浮かび上がったナイフが次々とキセキに向かって飛んでいき突き刺さった。

「ぐああああぁぁぁぁ」

 キセキが痛みで雄叫びを上げる。

「ぶははっ! おもれェ! ビアード待ってェ! オデもやるゥ!」

「いいぜ、遊んでやれよ」

「よっしゃァ! “怪術陣 召喚”」

 ファットの足元に黄土色の魔法陣が現れる。

「“第1令 送り犬”」

 ファットが唱えると、魔法陣から先程の送り犬が現れた。

「ペルロ! あいつに噛み付け!」

「ガルルルッ!!!」

ガブッ! 送り犬はキセキを思いっきり噛んだ。

「があぁぁぁぁぁぁ痛ぇぇぇぇぇぇ」

「ぶははっ! おもれェおもれェ! もっとやれェ! ぶははははっ」

「……よぉし、そろそろいいだろ……」

 キセキは血塗れの身体でぬらりと立ち上がった。

「!? な、何だァこいつゥ」

「お前らがペラペラと話してくれたのも自分のリスク、ひいては能力が上がるからだろ……?」

「!! もしかしてお前っ!」

 ビアードは慌てて立ち上がった。

「お前らのお喋りと俺の今際の際、どっちが強いかなぁ!?」


【物語あるある】主人公の発想で逆転する


 キセキは噛み付いたままの送り犬に拳を振り下ろした。送り犬は一度地面にバウンドして吹っ飛んだ。

「あァペルロォ!!!」

「次はおめぇだよ」

「!!」

 ファットはキセキからの拳をモロに受けて吹き飛び、洞窟の壁にめり込んだ。

「(こいつ……! おかしくなったんじゃねぇ、死にかけるっていうリスクをわざと負って自分の力を底上げしやがったんだ!)」

「キセキ! アキュア! 大丈夫か! ……!! これは一体……!?」

 そこに突然村人達が現れた。

「!? 何でこんなところに人が!?」

 ビアードが驚いていると、キセキが笑って答えた。

「ははっ、こんなこともあろうかと俺たちの帰りが遅かったら迎えに来てもらうよう頼んどいたんだ。こういうイベントに事件は付き物なんでね(理由を説明すんの難しかったなぁ……アーサーが言ってたのはそういうことか……)」

「くっ……!(流石に分が悪い! 逃げるか!)」

 ビアードは洞窟の出口へと駆け出した。

「あ! おい! 待て!」

 村人が追いかけようとするのをキセキが止めた。

「俺に任せて。それよりもアキュアの手当を」

「で、でもキセキもその傷……」

「俺はいいから!!! 早くアキュアを!!!」

「……! わ、わかった!」


〈村の港〉


ビアードは慌てて港の小船に乗り込んでいた。

「(流石「ディオーグ・キルアディア」の国と言うべきか……田舎にもやべぇヤツがいるんだな。だが結局は逃げた者勝ち……! ファットとペルロには悪ぃが俺はこの国からおさらばするぜっ!)」

「まぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇごらぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「!?」

 キセキの叫び声が港にこだました。何と満身創痍で洞窟から港まで追いかけてきたのだ。


【物語あるある】重症でも意外と元気


「(あいつ、こんなとこまで……! だがもう遅い。船は沖まで来てる。どんな魔法を使おうがここまで届かない)」

「(くそっ! あいつもうあんなところに! あんな奴を野放しにしたらまた罪のない人が傷ついてしまう! 何か、何か無いか!? くそっ! 何もない! どうすれば!?)」

 そのとき、キセキの手のひらに力が篭もるのを感じた。何も無い手のひらに何か凄まじいエネルギーが存在するように感じる。

「(もしかして……これが魔力ってやつか!? ……これなら!)」

 キセキは手のひらのエネルギーを一心に込め、ビアードを狙った。

「(普通ならあんなとこ届かない。でも、今の俺になら出来る気がする)」

 キセキは思いっきり振りかぶった。

「いっけえええええええええ!!!!!」

 ビアードはそれを小船から見ていた。

「(何だ……? 何か投げた……? いや、何も飛んできてはいない。自暴自棄になったか? ははっ、俺の勝ち……)」

 ドーーーーーーーン!!!!!!ビアードの乗っていた小船が爆発し、彼は投げ出されて気絶した。

「……やった……! あいつを止めた…! やった! やった! やっ……」

 バタン。キセキも同じく気絶した。


【物語あるある】勝利後に気絶


 目を覚ますとそこは自宅のベッドの上だった。身体中に包帯が巻かれており、手当されていたのは分かったが、今もズキズキと痛んだ。

 ベッドの傍らでアキュアが寝ていた。

「(アキュア……! 生きてる……! 良かった……良かった……!)」

 キセキが泣いていると、その音で気づいてアキュアが起きた。

「キセキ! キセキぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 アキュアはキセキに思いっきり抱きついた。傷がめちゃくちゃ痛んだが、キセキはそれを受け入れた。

「ああ! ごめん! まだ痛いよね!? ごめんね! でも目が覚めてホントに良かった! 私のせいでごめんね! あと守ってくれてありがとう! うう……良かったよぉ〜!」

 アキュアは号泣しながらキセキに抱きつき、キセキはまた傷が痛んだが耐えるのだった。

 そしてこれは後日聞いた話だが、ビアード・ファット・ペルロはまとめてこの世界での警察「白魔導師隊」に逮捕されたようだ。


「ホントに行くんだね」

「うん。小さい頃からの夢だったから」

「そうだよね、先生になる夢、応援してる」

「ありがとう、キセキ」

 お互いの生存を喜びあったのも束の間、アキュアはヴァイスハイトへと旅立とうと駅まで来ていた。キセキも村を代表して見送りに来た。

「ねぇ、キセキ。これは相談というか、何と言うか……」

「……? 何?」

「……あのさ、キセキもヴァイスハイトに来ない?」

「……!」

「もっ、もちろん、キセキはまだ14で入学出来ないから16になったらの話ね? きっと楽しいと思うし、実りある六年になると思うんだけど……」

 アキュアはそこまで言ってから、少し考えて言い直した。

「ごめん、やっぱり嘘。本当はね、ずっと一緒にいたキセキと離ればなれになるのが寂しいだけ」

「……!」

「だからこれはお願い。キセキが入学できる二年後までに私、きっと凄い魔術師になっているから、だから……ヴァイスハイトへ来てほしい。……ダメ、かな?」

「……じゃあ二年の内にもっと魔法と“魔術”を学んどかなきゃだね」

「……! それって……」

「ああ、行くよヴァイスハイト、そして「ディオーグ・キルアディア」よりも凄い魔術師に俺はなる!」

「……ふふ、もう、生意気なんだから」

 そう言いながらアキュアはキセキを抱き締めた。

「!?」

「いいね、「ディオーグ・キルアディア」先生よりも凄い魔法使い、楽しみにしてるね」

 そしてアキュアはキセキの頬にキスをした。

「!?!?」

「ふふ、大好きだよキセキ。それじゃあ二年後! ヴァイスハイトで!」

 そう言い残してアキュアは汽車に乗り込んだ。キセキは思考が付いていかずショートしていた。しかし最後は見えなくなるまでお互いに手を振り合っていた。

「さて、何から勉強すればいいのやら……」

 キセキは寂しさをかき消すように勉強に取り組もうとするのだった。


〈二年後〉


「(あれからもう二年かぁ。なんかあっという間だったなぁ)」


【物語あるある】突然時間が経過する


「(やっとヴァイスハイトに入学出来る! ということはアキュアに会える! そしたら聞くんだ! 別れ際のアレは何だったのか……!)」

 キセキは村の皆に別れを告げ、汽車へと乗り込んだ。

「(楽しみだなぁ、一体どんな世界が待ち受けているのやら)」

 キセキはヴァイスハイトでのまだ見ぬ世界に想いを馳せるのであった。


【物語あるある】拠点へと旅立つ主人公

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