《第1章:旅立ち》『第1節:世界の狭間で』

「ようこそ、世界の狭間へ」

 少年が大の字に寝転がった男を見下ろしながら言った。

「……は?」

 そこは前後左右真っ白な空間だった。壁はそこにあるようにも途方も無い先にあるようにも感じ、地面に寝転がっているようにも何も無い場所に浮いているようにも感じた。その男の名は、「車出転成くるまで てんせい」。

「(ここは……どこだ……? 俺は一体何でこんなとこに……)」

「それはトラックに轢かれたからだよ、転成」

「……!」

 転成は驚いた。言葉にしていない疑問に、突然目の前の少年が応えたからだ。

「ん〜? 言葉は伝わっているよね? それともこうした方がいいかな? ……コホン。(もしもーし!)」

「……!?」

 転成は再度驚いた。少年の声が直接脳内に響いてきたからだ。


【物語あるある】直接脳内に語りかけてくる


「……ああ! 聞こえてるからそれはやめてくれ!」

「フフ、最初からそう言ってよ」

 転成が飛び上がって話す様を見て、少年は不敵に笑った。

「……それで? 俺がトラックに轢かれただって?」

「そうだよ」

「んなバカな! じゃあここは天国とでも言うのか!?」

「んー。自分は絶対天国に行けると思っているオメでたい頭は置いといて、さっき言ったよね? ここは世界の狭間だって」

「あ、煽られてる……」


【物語あるある】生意気な話し方の少年少女


「そしてキミはこれから転生するんだよ、転成」

「……ん? テンセイ?」


【物語あるある】トラックに轢かれて転生する


「そ! 転生! さぁ、名前は何にする?」

「ちょちょ、待ってくれ! テンセイ……ってあの転生か!? 転んで生きるって書くあの!?」

「だからそう言ってるじゃん。オメでたくて更に鳥頭なのかな?転成」

「か、確実に煽ってる……」


【物語あるある】すぐに状況を受け入れられない主人公


「(そういうラノベもアニメも浴びるほど見てきたけど……それが今自分に起きてるってのか……? そもそもトラックに轢かれたってのも……)」

「だからー! そろそろ受け入れてよ! 話のテンポが悪くなるじゃん!」

「話のテンポで殺されてたまるか!」

 転成は分かりやすく怒って見せた。しかしそれに対して少年の態度は変わらない。

「よぉ〜く思い出してごらん? キミは青信号の横断歩道を渡ろうとした。だけどそこに居眠り運転をしたトラックが突っ込んできて……死んだんだよ」

「そんなバカ……な……」

 口ではそう言いつつ、転成は少しずつ思い出してきていた。少年が話した通りの自身の死を。

「……そうか……俺……死んじまったんだな……」

 とてもそう簡単に受け入れられる話ではなかったが、紛れもない事実であることを自身の記憶が裏づけてくる。

「……ああ、わかったよ。ところでお前は誰なんだ?」

 事実を受け入れ力なく放たれた問いに、少年は満面の笑みで答えた。

「ボク? ボクはアーサー! 次元の案内人と思ってくれたらいい」

「アーサー……なるほど、本名は教えてくれねぇわけか」

「おお! するどい!」

 確信があったわけではなかった。しかし転成は何故かその少年の名前が異なることを察した。


【物語あるある】嘘を見抜く主人公


「その鋭さは転生先でも使えるかもね! ……って、重要なのはボクの名前よりキミの名前だよ!」

「転生するってだけでもどうかしてんのかって思うのに……それに合わせて名前も変えなきゃいけないのか?」

「お決まりでしょ!」


【物語あるある】転生によって名前が変わる


「そうだけど……こういうの、今と同じじゃダメなのか?」

「ダメだよ! 名前ってのはとっても大切なんだ。……言葉は力、だからね」

 アーサーは最後の言葉に力を込めた。それは転成にも伝わった。

「……そうは言われても、急に自分の新しい名前考えろなんて……」

「あ〜、もう、はいはい! じゃあ名前はコッチで適当に考えとくから! 次の話に行くよ!」

「今さっき名前は大切って言わなかったか!?」


【物語あるある】テンポが悪くなると強引に話が進む


「転生先のルール! 3つあるからよく覚えて!」

「ルール!? ここはチート能力が貰えるところじゃねぇのか!?」


【物語あるある】転生者はチート能力を授かる


「そんなものあげないよ。ボクが与えられるのは転生先のルールだけ」

「んだよそりゃあ……」

 随分聞いてた話と違う。転成はラノベやアニメで得た知識との差からそう思った。

「ルールその1! 転生先は物語あるあるの世界です!」

「も……物語あるある……?」

「そう! ん〜、例えば、「殺人鬼なんかと同じ部屋に居られるか! 俺は自分の部屋に籠るぜ!」って言った人はその後どうなる?」

「……え? ……そ、そりゃあ……」


【物語あるある】死ぬ


「……犯人に殺されて……死ぬ?」

「当たり! つまりそういうこと! そして2つ目のルールは……」

「ちょちょ、ちょっと待て! 流石にそれだけでは分からん!」

 転成はそのまま次の説明に移ろうとするアーサーを全力で止めた。

「出来るだけ物分りのいいように努めてたが、そんな言葉足らずなことないだろ!?」

「もー、だから、さっき言ったような物語あるあるが日常的に起きる世界なの! キミはそれを考えながら立ち回って!」

「無茶言うな!」


【物語あるある】事件が起きるのが日常


「無茶も何もそういう法則の世界なんだから、受け入れるしか無いよ、転成」

「(チート能力がない上に日常的に事件が起こる世界だと……? そんなのポッと出の俺が生きていけるのか……?)」

「それに関しては心配要らないよ。キミはこの物語、ひいては世界の主人公だ。そう易々と死ぬことは無い……多分」

「多分って言った!? 何だその説得力の無い説明は!?」


【物語あるある】メインキャラは生き残る


「だってそれはキミの立ち回り次第だもん。ただ一つだけ、コレをしたら確実に死ぬってのはあるよ」

 アーサーが突然真剣な眼差しを向けてきたため、転成は固唾を飲んで次の言葉を待った。

「それが2つ目のルール。キミは転生者であることを誰かにバラすと死ぬ」

 暫くの静寂が流れた後、先に話し始めたのは転成だった。

「……なんだ、そんなことかよ」

 転成はホッと胸を撫で下ろした。

「ははっ、急に真面目な顔するからヒヤッとしたぜ。そんなの俺が言わないようにしたら良いだけじゃねぇか」

「……それでどうにかなると思ってるのが本当にオメでたいよ。おめでとう転成」

「煽ってくるなぁ……こいつ……」

 二人は互いに嫌悪感丸出しの顔で見つめ合った。

「まぁ、それぐらい軽い気持ちでいた方がいいかもね。これがどれだけ辛いルールか、いざ直面したときに味わえばいいんだよ」

「アーサーさん? いくら何でも辛辣過ぎない?」

「これぐらい突き放された方がキミの為になるんだよ。言葉と同じで、リスクは時として力になる」

「……? ど、どゆこと……?」


【物語あるある】伏線であろう台詞


「分からなくていいってこと! ってことで3つ目のルール! コレが最も重要だよ!」

「ホントにさっきからノリと勢いだなこの人!?」

「転成。キミにはラスボスを倒して欲しい!」

「……ん? ら、ラスボスを倒す……? って誰のことだよ?」

「それはこれからキミが探し出すんだよ」

「何のヒントも無しで!?」


【物語あるある】理不尽なお願いをされる


「転生先で生きていれば自ずと分かるはずだよ。自分の使命ってやつがね」

「おいおいついにはルールでも無くなったぞ……」

「コレでボクの説明は以上! 何か質問は?」

「いや、聞きたいことばっかりなんだけど……」

「無いね! それじゃあ転生してもらうよ!」

「何で1回聞いた!?」

「Three! Two! One!」

「ちょ、ちょっと待て! まだ心の準備が……」

「アハハ! 転成、心なんて準備の出来るものじゃないよ! さぁ、行ってらっしゃい!」

 その言葉を最後に、転成の目の前は真っ暗になった。これから彼を途方もない壮大な物語が待ち受けているとは、このとき思いもよらないのだった。


【物語あるある】目の前が真っ暗になる

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