4分10秒小説『てづくらないで!』

「ひきはじめが肝心よ!風邪薬持って行くから待ってて」

「げふっ!げ、ふぁい」

 今日に限っては彼女のおせっかいがありがたい。


 「遅いなぁ……げふっ」体温計を脇から抜く。熱は一向に下がっていない。

 ピンポン!

 「開いている……げふ、ドア開いてるよ」大声出したつもりが、自分にも届かない程の声。

「ちゃんと寝てた?」

「見ての通り……げふっ」

「熱は?!」

「ちょうど38.2℃」

「どこがちょうどなの?」

「遅かったな」

「遅い?大急ぎで来たのよ」

「でも半日は経ってるぞ」

「手に入りにくい物とかあって、ちょっと手間取っていたの。ハイ、これ」


 粉の入った小さなガラス瓶。


「何これ?」

「なにって?風邪薬に決まってるじゃない」

 何も貼られていない透明なガラスの小瓶。

「ラベルが無いけど……」

「市販のじゃないから。これ、私が作ったの」

「え?」

「自家製風邪薬」

「え?え?」

「タカシのために手作りしたの。さぁ飲んで」

「いや、ちょっと待てって!」

 半身を起こし、彼女を見つめる――同じ大学の同じ文系の学部に所属している。つまり薬剤師の資格は持っていない。

「実家、薬局だっけ?」

「違うよ。普通のサラリーマン」

「これ?本当に風邪薬?」

「うん。私が作ったの」

「お前の地元ではそうなのか?風邪薬は、各家庭で作るとか?」

「なによそれ。ちょっと笑わさないで」

「いや、リアクションおかしいし!なんで市販のを買ってこないんだよ?」

「効き目が薄いから。だから、心をこめて手作りしたの」

 いやチョコじゃないんだから!大声を出したいけど喉が……。

「いや……だから、げふ、どうして『風邪薬を作ろう』なんて、思っちゃうんだよ?てか、どうして作れちゃうんだよ!そもそもこれ、効き目はあるのか?」

「あるに決まっているでしょっ!私が作ったんだよ!」

「何の根拠があって――」

「ひどいっ!タカシのためを思って精一杯作ったのに……」

「いや、気持ちはありがたいけど」

「熱がなかなか下がらないって言っていたから、解熱効果が高いイブプロフェンを主成分にして、そこにピリン系最強成分イソプロピルアンチピリンをブレンドして、その他にもエテンザミド、アセトアミノフェン、イブプロフェンなんかもちゃんと配合して――」


 さー


 血の気が引いていく音。気のせいじゃない。今はっきり聞こえた。


「私の気持ち分かる?この薬に込められた私の気持ち」

「ごめん。分かれない」

「敢えて、アスピリンを配合しなかったんだよ!タカシに、発疹・むくみ、胃痛,、吐き気、嘔吐、胃炎、消化管出血、めまい、頭痛、興奮、倦怠感、食欲不振等の副作用を、味あわせたくはないから。タカシが苦しむ姿を見たくないの私……だから、日本では認可が下りていない安全な成分を入手したの。それで時間かかっちゃって」

「認可が下りてない安全な成分?……矛盾してないか?それ」

「飲んで!」

「いや、絶対ヤバいだろ?!」

「ヤバいくないよ!認可が下りてないだけで安全なの」

「いや、違法だろ?バレたらお前、罰せられるぞ!」

「その辺は大丈夫。テイさんは信頼できる人だから」

「テイさん?」

 これ以上踏み込むのが怖い。

「そんなに心配なら、私が先に飲むわ」

「え?」

「安全性を疑っているんでしょ?だから私が先飲む」

「駄目だ!危ないだろ?」

「いや、飲む」

「飲むな!」

「じゃあ飲んで」

「……飲まない」

「じゃあ飲む」

「それは絶対に駄目だ!」

「なんで?」

「お前が、大切だから……げふ、自分のことよりも……げふ」


 小さな沈黙。見つめ合う。指に触れ。


「俺のために頑張ってくれたんたな。それは本当に感謝している。ありがとう……げふ、でもな、お前は一つのことに集中するとさ、周りが見えなくなること結構あるから、気を付けなよ。いくらなんでも法を逸脱しちゃ駄目だ」

「ゴメンね。私が間違ってたわ。タカシの言うこと凄く良く分かるよ。今度から気を付けるね。じゃあ、お水取って来る」

「げふげふげふっ……げふっ……げふげふ」

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