4分0秒小説『農薬』
好きな人がいる。同じ会社の先輩の藤田さん――やさしくて、仕事が出来て、背が高くて、手がきれいで――あぁ結婚したぁい。
悶々と過ごす日々、これ以上悶々したら悶死してしまう。前に進まなきゃ!
そうだ!もっと情報を集めよう。といっても身長体重血液型、好きな食べ物――そんな情報はとっくに入手済み。次に私が知りたいのはその先――藤田さんの性的嗜好――こればっかりは簡単には知り得ないだろう。と悩んでいた矢先―
「あのさー藤田ってさ何フェチ?」
え?私はすぐに壁に隠れる。自販機で立ち話している藤田さんと――あ、相手は山下君だ。山下、キモいけどグッジョブ!よくぞ聞いてくれた!来年のバレンタインにはアポロチョコをあげるわ。聞き耳を立てる。
「何フェチとか特に無いけど……」
「いやいやあるだろ普通、じゃあさ、んー例えばビデオレンタル店に行ったら何コーナーに行くよ」
「え?どういうこと」
「だからー、例えば俺だったら女子高生コーナーに直行するわけよ?で、お前がビデオレンタル店行きました。んでピンク色ののれんをくぐりました。さぁ、何コーナーに行きますか?って話」
「そうだなー俺だったら――」
「うん、俺だったら?」
(俺だったら?)
「俺は、人妻コーナーに行くかな」
「ふぇっ?」
「ん?誰の声だ今の?」
(しまった!)
私は逃げる。逃げながら涙ぐむ、人妻……人妻って言ったの?聞き間違いじゃないよね?信じられない。あのまじめそうな藤田さんが不倫願望を抱いていいたなんて……不潔よ!……でも、いい。彼がそれを望んでいるのなら、私が、叶えてあげる。
********************
3ヵ月後――私は結婚相談所で最初に紹介された人と結婚した。会社の皆は私の結婚を祝福してくれた――藤田さんも。
藤田さんどう?私、以前より魅力的でしょ?あなたの好きな人妻よヒ・ト・ヅ・マ!さぁ私にアタックして――
********************
半年後――藤田さんからなんのモーションもない。どうして?私、貴方のために人妻になったのに――落胆し途方にくれる日々、呼吸の約半分が溜息。そんなある日――
「藤田さぁ、最近おすすめのAVとかない?」
またきた情報収集チャンス!人妻だけでは彼の気を引くことが出来なかった。きっと何かが私に欠けているのよ。さぁ教えて。あなたのおきに入りのAVのタイトルを!私、更に変わるから。
それにしても山下君、あんた下衆だけど役に立つわねぇ。来年のバレンタインにはキットカットをあげるわ。
「そうだなー、ちょっと古いAVだけど――」
「うん、何?」
(うん、何?)
「『団地妻シリーズ』いいよ」
団地?
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1か月後――夫を強引に説き伏せ、県営団地に引っ越した。これで私は団地妻。人妻+団地いや、人妻×団地だ!魅力倍増ね。
大声で引っ越したことを社内に触れ歩く――当然、藤田さんの近くでも聞こえよがしに。
さぁどう藤田さん!私の魅力からはもう逃れられないわよ。来てっ!いつでも準備は出来ている。毎日勝負下着で出社してます私。さぁ!
********************
3ヶ月後――Why?藤田WHY?なぜ私を口説かない?貴方の性癖にぶっ刺さる女が、同じ課内にいるというのに――
「年取ってくると女の趣味も変わってくるよね。おれもいい加減女子高生いいかなーって感じ。藤田は?まだ人妻系がいいの?」
キター!山下の下衆質問タイム!来年はゴディバだ!
「そうなんだよねー、俺も最近人妻物にはちょっと飽きてきて――」
「うん?」
(うん?)
「未亡人ものにド嵌りしてるんだよねー」
********************
10分後――私は会社を早退し、ホームセンターをうろついている――スマホに映っている農薬を探して。
藤田さん、今度こそ私を――
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