4分0秒小説『異世界で俳句を詠む羽目になった僕はひたすら季語に戸惑っている』
ステータスを確認する。
Class:俳人
HP:4
力:1
知力:4
体力:2
素早さ:2
運:5
何だか小学生の通知簿みたいだ。スキル欄を確認する。
スキル:俳句 [level1]
技:光のどけき(習得済み)
次のレベルまで7543句
見渡す限りの草原。山口県の秋吉台みたいに白い石灰石が所々剥き出しになっている。目の前を蜻蛉が飛ぶ。羽が無数にある。ナウシカで見たやつみたいだ。空にはうっすらと白い月が浮かんでいる。ん?あっちにも浮かんでる。数えたら全部で18個あった。
どすん
大きな音。振り向くと巨大なミミズ?が馬を絞め殺そうとしている。
「アナタ、冒険者?」
女の子だ。鎧を着ている手には剣。
「たぶんそうだと思います」
「職業は?」
「なんか俳人みたいです」
「ハイジン?それって職業なの?意識はしっかりしてる?」
「いや、その廃人ではなくて、俳句という詩歌を詠む人の方です」
「俳句?よく分からないけど、歌を歌うのね?つまり吟遊詩人ってことでしょ?なら丁度良かった。私とパーティーを組んで」
「え?僕が?」
「そうよ」
巨大ミミズは馬を平らげ、蜷局を巻いている。
「私の馬を食べやがって、ぶっ殺してやる。さあ、バフを掛けて」
「バフ?」
「出来るんでしょ?今からアイツを倒すからステータスアップの効果を私に付与して」
「どうやって?」
「知らないわよ。でも何か詠うんでしょ」
「ああ、俳句ですか?」
「さっさとして」
困ったぞ。俳句なんてそもそも授業で仕方なく年に一回詠むくらいのものだし。
「早くして!アイツが潜っちゃう」
「はぁ、ではここで一句……ごほん。」
原っぱで
月がいっぱい
綺麗だな
「終わったの?」
「ええまあ」
「ステータス変わってないんだけど」
「え?そうなんですか?」
視界に文字。
〔季語が無いため無効〕
「季語?」
女の子は怪訝な顔で僕を見ている。
「あの聞いていいですか?」
「なに?」
「今何月ですか?」
「72月」
「72?ああ、そうなりますか。じゃあ季節は?」
「季節?今はゲスター祭りの後だから、『獅子王のさすらう魂』ね』
「獅子王の、え?何です?」
「さすらう魂」
「わかんないです。春ですか夏ですか?」
「ハル?ナツ?何それ?」
参った。
「ちょっとアナタ何か変ね。本当に冒険者なの?」
地面からにょろりと何かが飛び出してきた。ミミズの触手?女の子の足首を締め上げ、空高く担ぎ上げる。
「しまった!アイツの脚が――」
脚なんだあれ。
「何とかして」
「いや、何とかって言われても」
「私の剣を取って!戦って!」
ミミズの側に彼女の剣が落ちている。近づきたくない。
「そういうの無理なんで、俳句の方を頑張ってみます」
「早くして」
「ええと、あの、教えてください。今の時期特有の動物とか植物とか」
「コイツよ!モーグル。この季節になると地面から出てくるの」
「モーグル。分かりましたここで一句」
原っぱで
モーグル出てきて
なんかミミズっぽい
〔字余りの許容範囲をオーバー〕
〔ペナルティによりHP-1〕
やり直そう。
古野原
モーグル飛びだす
土の音
〔盗作〕
〔HP-2〕
ヤバい。文字枠が赤くなってきた。死にそうだ。
モーグルの
名前の由来
潜るから?
彼女を見る。
「どうですか?今の自信作です!」
「駄目!なんのバフも掛からない。お願い剣を取って!」
「嫌です!もう死にそうなんで」
「ちょっと!アナタの手、どうなってるの?」
「え?」
両手がばちばちと光を帯びている。
「うわっ」
手を振るうと、光は刃となって飛んでゆき、ミミズを真っ二つにした。
光の刃によってえぐられた地面が深く裂けている。延々視界の届かない先まで。
千切れた触手と一緒にどさり彼女が地べたに。
「凄い……今の技何?貴方、何者なの?」
ステータス欄を見る。
〔次のレベルまであと7542句〕
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます