無知 2-1

 わたしが起きたのは今朝のことだ。瞼は開くが視界がぼやけている。長い間眠っていた気もするし、さっきまで起きていたような気もする。

 近くに1人、誰かが立っている。顔はよく見えない。

「おはよう。気分はどう?」

 女性だ。どこか聞き慣れた優しい声。

「…お母さん…?」

 何も考えず言葉を発していた。目の前の女性が笑う。

「いや、私そんなに年上じゃないわよ。あなたとせいぜい5歳くらいしか離れてないわ」

 瞬きを繰り返す。女性の顔が徐々にはっきり見えてくる。

「え…」

「見えてきたかな?」

 目の前にいる女性を見て唖然とする。

「いろいろ気になるだろうけど、まずは何か食べましょう。お腹がすいているでしょ」

 

 テーブルに着き、スープを飲む。

 用意してくれた服に着替えるときに、鏡で自分の顔を確認した。自分の顔など確認しなくても分かっているのに。そうさせたのは、テーブルをはさんで目の前に座っている女性が、をしているからだ。

 まるっきり同じという訳ではなく、正確には、「少し成長したわたし」と言ったところか。

「私はね、言わばあなたが何年か成長した姿よ」

 女性が、わたしが思っていたことをそのまま言ったので、面食らってしまった。

 表情に出ていたのだろうか。女性が笑う。

「さて、質問。じゃあ、私とあなたの関係は何だと思う?」

 突然の問いかけに焦って答える。わたしに姉は居ないから…。

「く、クローン、とか…」

 とっさに出した答えだが、なぜだかそこまで突飛なものに感じなかった。女性は目を見開く動作をしたが、そこまで意外でもなさそうだった。

「正解。あなたはクローンよ。…どう思う?」

「どうって?」

「あなたがクローンだってことについて。ショックかな」

「いや…そんなに」

 そう答えてはっとした。身代わり、臓器移植。何かよからぬことに利用されるのではと思い至ったからだ。しかし、女性の言葉でその考えは消えた。

「そうでしょうね。私もそんなにショックじゃなかったもの」

「え…。じゃあ、あなたもクローンなの?」

「そうよ。あなた、ここで目覚める前の記憶はどう?」

「ええと…、病院で長い間、病気の治療をしていたような…」

 あまりはっきりと思い出せない。思い出せないがなんとなく、忘れてはいけない大切な人がいた気がする。

「あなたの病気はもう治ったわ。ここはそのための施設だからね」

「ここって…」

「詳しい話は後にするとして」

 言葉を遮り、女性は身を乗り出す。

「会ってほしい人がいるの」

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