無知 RECORD-1

 さて、撮り始めたはいいが、…これを誰かが見ることはあるのだろうか。…いや、今君がこの映像を見ているということは見てもらえているということだな。…そんなことはどうでもいいな、すまない…。急ぎで撮っているから、頭が整理できていないんだ。

 私はドクター…、いや私の名前などどうでもいい。君がログインしたコンピュータとつながっている、その装置の開発者だ。今この映像を見ている君が、私の考えを理解してくれる聡明な人物であることを祈る。

 私がここに居を移してから、…とうに20年は経ったか。私はここでクローン技術の研究と実験を行なっていた。なぜ私がこんな人里離れた山中で、一人で研究をしていたかと言えば、違法な研究だからだ。しかし、医の道、人の道を外れようとも、私は彼女を救いたかった。

 ここに来て私はまずクローン体を生み出す装置を作った。装置の基礎はここに移り住む前にすでにできていたので、完成させるまでそこまで時間はかからなかった。その装置こそ、君が起動したコンピュータとつながっているものだ。詳しいことを話している時間はないので、簡潔に表現するが、ある人物の組織が一定量あれば、その人物のクローンを作り出すことができる。ただ単に人間のクローン体を作るだけでなく、ある程度体の構造を変化させることもできる。さらに生み出される際の年齢も、記憶も操作できる。

 記憶、それが重要だった。その人物がどのようなことを経験して、どのように成長してきたかが人格に大きく影響を与える。彼女のそれをデータ化することに長い時間がかかった。

 その作業に次いで時間がかかったのが身体構造の調整だ。彼女の抱えた病は遺伝的なものだ。身体構造を変え、病巣を取り除いても新たに発生してしまう。そのため、彼女の体に一種の自浄作用を備えることを目指した。もし新たに病巣が発生しても、それを彼女自身の体が自動的に正常な組織に戻すのだ。

 そして、ついに完成した。理論上、彼女を治すことに成功した。ただしあくまで理論上だ。それでも、これ以上は望めない。完成だ。…

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