第2話 梅子、異世界転移者をあずかる。
*~*~*
ぴぴぴ、ぴぴぴ。
おーい、梅子ー。あさだぞー。おきろー。
ぴぴぴ、ぴぴぴ。
おーい、梅子ー。あさだぞー。おきろー。
ぴぴ
ばちんっ!
先に行った旦那が、声を吹き込んでくれていた、家庭用AI搭載型ロボット
お布団から、はい出すと、うーんとのびをして、「カニちゃん、たたんでー」とお願いする。すると、お布団は真ん中のところで、ぎゅーんと山型にもりあがり、そのまま、部屋のすみまで、じゃまにならないよう、自動で動いていってくれた。
あ、ちがうのよ? わたしだって、お布団が自分で動くだなんて、そんなこと思ってませんよ? まだそこまでボケちゃいないわよう。お布団のしたに敷きこんである、自動布団上げ下げプレート「
ほんとねぇ、年とると、布団の上げ下げが大変なのよねぇ。腰も痛いし、膝もまげのばしが辛いし。
この状態で、不老不死になっちゃうって、ちょっと乱雑よねぇ。
どうせだったら、身体のあちこち痛いのとか、そういうの、とってほしかったわ。
もそもそと、ピンクのパジャマをぬぐ。ワッフル生地で、肌あたりがとってもいいの。それも、カニちゃんが両手の五指アームでつかんで、しゃしゃしゃーっと、ちょっと廊下ですべりながら、いつも通り洗濯機まで、ほうりこみにいってくれた。
カニちゃんは、ほかにも家のあちこちにある、「その日洗濯するもの」のスケジュールに、のっとって、布製品をかきあつめては、洗濯機のなかに、ぽいぽーいと、放り込んでゆく。そのにぎやかな音を聞きながら、わたしは窓をがらっとあけた。
つっかけをはいて、縁側にでる。お庭でうーんと、のびをする。
ここは家の裏庭側。
そして、生け垣の向こうには、村の西から東へとヒルミ河が流れている。きょうもきらきらキレイ。お天気も、ハレバレ。
と、
「あちょーっ!」
あらあら。今日も
うちと
「元気はいいこと。うんうん」
わたしは、すっかりなまっちゃったけどね。
さあさあ。それにしても、これからどうしましょうかね。
庭の畑でネギをひとつかみ、はさみで、ぱちん、と切り取る。
仏様の手違いで、ついつい不老不死になってしまったけれど、いまのところ、そのギフトを実感する場面はないのよねぇ。
「よっこいしょ」、と腰をのばしつつ、立ち上がる。
と、次の瞬間だった。
目の前に、にゅるん、と空間の裂け目があらわれた。
え? 「空間の裂け目」?
なんでそんなものがあらわれるの?
呆気に取られていると、なんとなかから、先般お会いして、お別れしたばかりの仏様が、半身をのぞかせているじゃあないですか。
「お、おはようございます、仏様? まだわたしに何か御用ですか?」
「ああ、おはようございます、梅子さん。それがね、ちょっとまた困ったことになりまして」
はい?
「あなたを手違いで転移させてしまったまではまだしも、ギフトを授けてしまったことで、世界の均衡がくずれてしまったと、ダイニチげふんげふん様から叱られてしまいまして」
はあ。げふんげふん様ですか。
「そのバランスをとるために、こちらに別の異世界の人間を、ひとり転移させないといけなくなりまして」
は?
「というわけで、この方、あずかってください」
ええ―――――? どういうことですか―――?
「では、まかせましたよ」
仏様、自分の
どちゃっ、と音を立てて、畑の中に顔からつっこんだその人に、わたしが年甲斐もなく「きゃっ」なんて言っていると、そのすきに仏様ったら、しゅいん、と姿を消してしまってらっしゃるの。
あらあらまあまあ、なんてことでしょう。
返されたと思ったら、よその人が送りこまれてきちゃうなんて。
畑に顔をつっこんでいるのが、かわいそうなので、「カニちゃーん」と、カニちゃんを呼び寄せて、ひとりと一台で、なんとかかんとか引っこ抜いて、その場に寝かせてあげた。
――えーと、わかい男の子、だわね。二十代後半? いや、三十代かな? 東洋人、なのはまちがいなさそうだけど。ほそいわね……色も白くて、顔色も悪いし、かっこよ……く、なくもないわね。イケメン、というのではない……ええと、仔犬系? あ、そうね、そんな感じの、かわいい系、ってやつね、きっと。
あ、うなってる。気持ち悪いのかしら? とりあえず、お部屋にはこんで寝かせてあげたいけど、どろだらけなのが嫌だわね……畳に上げたくないわ……。ひとまず土間でいいか。
「カニちゃーん、この子、おうちの中に運びたいの。よろしくねぇ」
わたしの意思をくんだカニちゃん、二本の前アームを、ぎゅいんっと伸ばして、男の子を持ち上げると、あぶなげなく、玄関がわへむけて、かさかさかさーっと、ひとっぱしり。
そこで、わたし、ちらっとふり返る。
あらやだ。やっぱりネギがつぶれちゃってるじゃないの。
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