第10話
ゾラは医師の診察を受けた。
診断結果は、やはり毒物による手足の痺れや硬直、目眩などだった。医師はシュリに、解毒剤と手足の症状に効くもの、目眩などにも効くものなど四種類の薬を処方する。
「……まず、解毒剤をすぐに飲んでください。手足などのお薬は合わせて、十日分は出しておきます。毎日、朝昼晩に服用する事。後は今日から、二日間くらいは安静にお願いしますね」
「分かりました」
「また、明日にも様子を見に来ます。何かありましたら、いつでもお呼びください」
医師はそう言って、カバンを持って退室する。また、シュリが見送りに行った。
すぐにシュリが戻って来た。ゾラは医師の言葉通りに、解毒剤を飲んだ。苦い粉薬だが、口の中にサラサラと入れる。水を手渡されて一気に呷った。
「……うう、凄く苦い」
「お水、もう一杯入れますね」
シュリは素早く、コップに水を注ぐ。受け取るとまた、呷る。やっとゾラは一息ついた。
「これから、毎日お薬の世話になるわね」
「仕方ありませんよ、治療には必要ですからね」
「まあ、その通りだけど」
ゾラはシュリに曖昧に笑った。二人して、テーブルの上に置かれた薬包を見つめた。
この日の夜にもゾラは処方された三種類の薬を服用する。これらは丸薬だから、飲みやすかったが。それでも、やはり苦いものは苦い。まあ、シュリが南瓜のスープやパン粥を持って来てくれたのでちょっとは気分が浮上したが。いつまで、続くのかと憂鬱になる。
「……お嬢様、早めに休んでくださいね」
「分かったわ」
ゾラは頷いて、ベッドに入った。照明を落として眠りについたのだった。
翌日、ゾラは日が高く昇ってから目が覚めた。シュリが心配して様子を見に来ていた。
「あ、目が覚めたのですね。おはようございます」
「……ん、おはよう。シュリ」
「まだ、お体が本調子ではないですから。疲れが出たんだと思います」
シュリはそう言って、ゾラに蒸しタオルを手渡してくれた。顔を拭くと後で、歯磨きもできるようにと洗面所まで肩を貸してくれる。支えてもらいながら、ゆっくりと歩いていく。
まだ、手の痺れは完全に取れていない。ゾラに歯磨きセットを手渡すとシュリは「無理はなさらないように」とだけ、告げた。
ドアをシュリが開けてくれる。ゾラは何とか、陶器のコップに水を入れた。歯ブラシに粉をつけて軽く磨いてみる。腕が疲れない程度にしたら、コップの水で何回かゆすぐ。口の周りを洗い、歯ブラシなどを濯いだ。シュリは手早く、タオルを手渡す。ゾラは受け取り、口元を拭いた。
「スッキリしましたね」
「うん、悪いわね」
シュリは緩く首を振ると、ゾラにまた肩を貸す。ベッドに戻った。
朝食を簡単に済ませ、また薬を飲んだ。今日から十日間は毎日か。そう思うとうんざりだが。仕方ないとゾラは考え直す。
その後、横になった。薬のおかげか、眠気がやってくる。うとうとしながら、眠っていたのだった。
昼頃に、テイラーやツェルトの二人が見舞いに来てくれた。シュリが壁際に控える。テイラーはベッドの側の椅子に座った。ツェルトも近くの一人掛けのソファーに腰掛ける。
「やあ、ゾラ。ちょっと、昨日よりは顔色が良くなってきたね」
「ええ、お蔭様で」
「今日は君の様子を見に来たんだ、弟君と一緒にね」
テイラーの言葉にゾラはツェルトを見る。何故か、目を逸らされた。
「……ツェルト?」
「い、いや。俺は姉上が心配で」
「そう、なら。大丈夫よ、あなたも来てくれて嬉しくはあるけど」
ツェルトはちょっと、複雑そうな表情になる。テイラーは苦笑いだ。余計に分からないゾラだが。
「姉上、あの。今日は俺から渡したい物があって、それで来たんです」
「渡したい物?」
「こちらです」
ツェルトは目線を戻すとスラックスのポケットから、何かを取り出す。ゾラの側まで来て、両手を出すように言った。
「……ツェルト?」
不思議に思いながらも弟の名を呼ぶ。すると、ツェルトはそっとゾラの手に載せた。
「これ、魔石かしら?」
「はい、テイラー様と一緒に選びました」
両手の平には握りこぶし大の七色に輝く美しい魔石が載っていた。かなり、高価な物らしいことは分かる。
「この魔石には、全状態異常無効や回復、浄化の効果が付与されている。また、防御もな」
「え、そうなの?」
「ああ、お守り代わりに持っているといいよ」
テイラーが補足として、説明した。ゾラは魔石からじんわりと伝わるテイラーの魔力に、安心感を覚える。
「……ありがとう、テイラー様、ツェルト」
素直に礼を述べたら。テイラーとツェルトは優しく笑ったのだった。
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