第11話

 ゾラが療養を始めてから、四日が過ぎた。


 もう、安静の期間も終わり、少しずつ歩行の訓練をしている。シュリやテイラーが一日に何度かは様子を見に来た。歩く練習の際は二人のどちらかがサポートをしてくれる。時たまに、弟のツェルトや姉のセルビア、両親もやって来ていた。


「ゾラ、無理は禁物だよ」


「うん、わたくしも気をつけるわ」


「今日は君が好きなクランベリーのタルトを持って来た、母が作ってくれてね」


「そうなの?」


「ああ、シュリに預けておいたから。そろそろ、持って来てくれるよ」


 テイラーが言うと、良いタイミングでドアをノックする音が聞こえた。ゾラが返答すると、シュリがトレーを両手に持って入ってくる。トレーにはハーブティーとクランベリーのタルトが載せてあった。良い香りが部屋に漂う。


「お嬢様、タルトを持って来ました」


「あら、ありがとう。ついさっきにテイラー様から聞いたわ」


「そうでしたか、では。今から召し上がってくださいね」


 ゾラが頷くと、シュリはベッドの側にあるサイドテーブルの上にトレーを置いた。まずはハーブティー入りのカップを手渡してくれる。受け取り、少しずつ飲む。ほんのりとした苦味と酸味、芳醇な香りからカモミールティーだと分かった。

 次に、タルトが盛りつけられたお皿も受け取る。フォークを持ち、突き刺す。一口大に切り分け、口に運んだ。

 咀嚼して飲み込む。


「うん、美味しいわ」


「……口に合ったようで良かったよ」


「ええ、甘酸っぱい味だけど。あっさりしていて、食べやすいわね」


 ゾラが感想を言うと、シュリはテイラーにもハーブティーを渡した。彼が甘い物は苦手だと知っているらしい。


「……安心なさってください、お砂糖などは入っていませんよ」


「そうか、助かるよ」


 テイラーは受け取ると、飲んだ。


「うん、このお茶は飲みやすいな」


「はい、カモミールのハーブティーになります」


 テイラーはシュリが淹れたハーブティーに評価をしてくれた。ちょっと、嬉しくなる。


「シュリが淹れたハーブティーやお茶は絶品よ、本当に渋みが少ないの」


「へえ、じゃあ。次回からはお茶をシュリに頼もうかな」


「そうしたらいいと思うわ」


 何気ない会話だが、シュリは嬉しそうにしていた。気のせいか、生温い表情とも言えるか。


「あの、シュリ?」


「……失礼しました、私は次の間に行っていますね」


 シュリはそそくさとゾラの部屋を退室する。テイラーと二人して、目を見合わせたのだった。


 あれから、さらに六日が過ぎた。やっと、医師から床上げをしてもいいと許可が出る。シュリはゾラ以上に喜んでいた。


「良かった、これで散策もできますね」


「本当にね」


「テイラー様にもお嬢様から、言っておいてくださいね。私が言うよりはいいでしょうから」


 ゾラは確かにと頷く。シュリはいつかのように、お茶を淹れ始めた。そうしたら、ドアがノックされる。ゾラが返答すると開けて入って来たのは、テイラーだった。


「……ゾラ、今日も来たが。元気そうだな」


「ええ、来てくれたのね。テイラー様」


「ああ、仕事は早めに切り上げてきたんだ。君の事が心配だしな」


 さらりと言われて、ゾラは驚きを隠せない。テイラーは爽やかな笑顔を浮かべた。


「どうした?」


「……何でもないわ」


「けど、顔が赤いよ?」


「いえ、本当に何でもないから」


 ゾラが誤魔化すとテイラーは不思議そうにした。シュリは生温い表情でまた、こそばゆい感情を持て余している。何なんだ、この甘ったるい雰囲気は。独り身には刺激が強すぎる。内心で思いながらも、手は休めない。


「さ、お茶を淹れましたよ」


「あ、シュリ。いただくわ」


 シュリがカップを手渡すと、ゾラは受け取る。次にテイラーにも渡した。二人はちびちびと飲み始める。


「……お嬢様、お茶を飲んだら。庭園に散策に行かれてはどうですか?」


「いいな、後で行こうか」


「そうね、シュリが言うように少しは動かないとね」


 ゾラとテイラーが頷き合う。シュリはまあ、お似合いではあるかと思いながら、笑ったのだった。

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