3分10秒小説『ごだいご』
猿、豚、河童をお供に連れて、三蔵法師は西へ西へ。
「すいません、ギャランドゥにはどう行けばいいのでしょうか?」
「ギャランドゥに行くには、この道で合っているのでしょうか?」
会う人会う人に道を尋ねながら、有り難い教典を求めての旅、幾星霜。
その夜。
「三蔵……三蔵法師や」
三蔵法師の夢に、お釈迦様が現れた。
「お釈迦様!」
「三蔵法師……あなたが向かっている先は、目的地は一体どこですか?言ってみなさい」
「はい、ギャランドゥです」
「長い長い旅路……襲いかかる数々の困難による過度の疲労がそうさせてしまったのでしょう。三蔵法師、間違えていますよ」
「え?」
「『え?』ではありません!出立の日に、私は何度も告げましたよ。目的地はガンダーラだと。覚えていますか?」
「ガンダーラ……」
「そうガンダーラです。ギャランドゥではありません。三蔵や、あなたは一体どこへ行こうとしていたのですか?」
「……」
「もしまかり間違って、ギャランドゥに辿り着いていたらどうするつもりだったのですか?」
「あるんですか?ギャランドゥっていう地名が」
「無いですっ!もしもの話です。分かっていますか?経典を持ち帰るという任務の重大さ、もっと緊張感を持って任にあたってもらわないと」
「すいません」
「分かればいいのです。さあ三蔵法師、あなたの目的地はどこですか?言ってご覧なさい
「はい……えっと」
「さあ、どうしたのです?」
「すいません。ここ1年くらいずっとギャランドゥって言ってたので、口が覚えてしまっていて……ええと確か、ギャラ……」
「出だしから間違っています」
「……」
「駄目です。懇願するような目でいくら私を見つめても教えはしませんよ。さあ、あなたの目的地は?どこなのです?」
「はい……えっと……ギャランダーラ?」
「発音」
「え?」
「だから、『え?』じゃなくて、変にネイティブを意識してしまった感があります。ただし正しい発音からからは逆に遠ざかってますけどね、発音っ!」
「はい」
「正しい発音でもう一度」
「はい……えっと……ギャランドゥワーラ」
「愚かな……何故遠ざかってゆくのです……三度まで……仏の顔も三度までです。もうこれ以上の助力はできません。もしあなたが間違って偽りの地にたどり着くとしても、それが定めなのでしょう」
そういって悲しそうにお釈迦様は消えていった。
次の日。
三蔵法師は炎天下、畑仕事に勤しむ瓜畑の農夫に道を訪ねていた。
「教えてください。ギャラドゥルルワー……じゃないギャンドゥワーラ?いや違うな……キャンタマーラ……いや、今の無し!えーと、あ、そうだ!思い出した!ギャランドゥだ!ギャランドゥへは、どう行けばよいのでしょうか?」
農夫はヒンディー語(インドの言葉)しか解さなかったので、鍬の柄に顎を乗せ、首を傾げるばかりだった。
三蔵法師は嘆きつ旅を再開。
一行が、ギャランドゥ……じゃないガンダーラに辿り着く……っていうかもう辿り着いているということに、気づく日は来るのだろうか?
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