第16話 巨大ヒクイドリ戦

 ヒクイドリと、対峙する。さっきクレアさんが倒したヤツより、三割増しでデカい。コイツが、リーダー格だろう。トサカも、虹色に燃え盛っている。


「レベル二五だって」


 わたしのレベルは、せいぜい一四くらいだ。一〇以上も、離れている。レベッカちゃんに憑依してもらうと、さらに五ほどレベルが上がる。それでも、二〇には届かない。


 よく、こんなバケモノの攻撃を弾き返したよね。わたし。レベッカちゃんのおかげだけど。


『キャル、全部アタシ様に任せな』


「いいの、レベッカちゃん?」


 いつもレベッカちゃんに頼り過ぎだから、ちょっとくらいは自分でも戦えたほうがいいかなーって思っている。でも、余計なお世話なのかな?


『気を利かせないでおくれよ。最近はいつもスパルトイ任せだから、暴れ足りないんだ。コイツの始末は、アタシ様にやらせな。レベル二五超えの魔物なんて、上等じゃないか』


 つまり、戦いたいと。


「うん。体力に極振りしているから、問題ないよ」


 ザコ戦で数段レベルアップし、ステータスに振れるポイントを大量に得た。


 ひとまずわたしは、ステータスポイントをすべて体力に注ぎ込む。あとは全部、レベッカちゃんに委ねることにした。


 わたしの身体を、オレンジの光が包む。


 ボブカットの髪が逆立ち、燃え盛る。


『いくよ!』


 レベッカちゃんの力を借りて、わたしは飛びかかった。ヒクイドリの上空へ。


 片足を上げただけで、ヒクイドリはわたしの剣戟を打ち返す。


 さすがに、五から一〇以上レベルが離れているとキツい。


『いいねえ! 最っ高に盛り上がってきたじゃないか!』


 でも、レベッカちゃんは楽しんでいる様子だ。


『悪いねキャル! あんたの身の安全は、保証できないかも知れないよ!』


「構わないよ。全力でやっちゃって」


 これが、魔剣と契約するということ。


 強い武器と一体化するには、それなりの代償が必要だ。


『さて、【原始の炎】をお見舞いしてやるかね!』


 コマのように旋回しながら、わたしはヒクイドリに切りかかった。黒い炎が、レベッカちゃんの周りにまとわりつく。


 ヒクイドリの方も、回し蹴りで対抗してきた。


 火花を散らし、互いの攻撃が交差する。


 炎属性さえ、原始の炎の前では突き抜けていく。


 そのはずだった。


 なのに、抵抗されてしまう。


 わたしは、後退した。


 インパクトの箇所が、プツプツと黒く燃えている。


「まさか、相手も【原始の炎】を!?」


 ダメージを貫通する炎を、魔物が持つなんて。


『間違いないね。ありゃあ原始の炎さ』


 マグマを食い続け、ヒクイドリの体質が変わったのかも知れないとのこと。


「ヒクイドリが、マグマに溶けなかったレアアイテムを、飲み込んじゃったのかな?」


『どうでもいいさ。それより、キャル。【原始の炎】持ちなんて、狩らない理由はないよ。あいつを食って、アタシ様は原始の炎をパワーアップするんだよ』


「だね!」


 炎属性どころか全属性無視なんて魔物が町や村に降りたら、大変だ。ここで仕留めないと。


「でも、どうやって倒す? 相手には、なんの属性も効かないよ?」


『だったら、トリのアイデンティティを奪うまでさ!』


「りょーかい!」


 翼をもげ、ってわけだね。


 わたしは、レベッカちゃんを逆手に持った。剣先を、思い切り地面に叩きつける。火球を地面に打ち込んで、速度を上げて跳躍した。クレアさんがやった、魔法による跳躍力アップ作戦だ。


 ヒクイドリの方も、空へのアドバンテージを取ろうと、飛び上がる。


「このときを、待っていたよ!」


 空を飛び上がる際、どうしても足に重圧がかかる。翼の方に、力がいくんだ。


『片翼だけでいい! ぶった斬れ!』


「おっしゃー!」


 わたしは、ヒクイドリの羽根を片方だけ切り捨てる。


 それだけで、ヒクイドリは墜落していった。完璧な魔物は、案外脆いもの。


 墜落の衝撃をやわらげるため、ヒクイドリは片足を犠牲にしたみたい。しかし、怒りはマックスそのもの。わたしに対して、殺意を隠さない。


『それでいいよ! とことんやろうじゃないか!』


 ヒクイドリが、ブレスを吐き出す。【原始の炎】がブレンドされた。全属性ダメージの攻撃だ。


『甘いんだよ!』


 わたしは、ブレスを切り裂く。この攻撃は、ファイアリザードが相手でも使った。


 リザードと違うのは、対応されたこと。簡単に、首を取らせてくれない。切り込んだわたしに、クチバシで抵抗しようとする。


 レベッカちゃんを踏み台にして、わたしは逆上がりをした。レベッカちゃんの柄に着地する。


『ふん!』


 刀身に、レベッカちゃんがケリを入れた。


 剣を押し込まれたことで、ヒクイドリの口角がスパッと切れる。


 痛みで口を開けたところに、レベッカちゃんはさらに追い打ちをかけた。ヒクイドリのノドに向かって、剣を突き刺す。


 それがトドメとなって、ヒクイドリは絶命した。



[レアモンスター【ヒクイドリ 猛撃種】を撃破しました。【原始の炎:極小】を手に入れました]



「はああああああ」


 変身を解いて、わたしは脱力する。もう、足も動かせない。しばらくは、立てないかも。


『レベルアップして体力に振っても、間に合っていないねぇ』


「そうだね。ちょっと休憩」


 ポーションを飲んで、一息つく。お菓子は、食べ尽くしてしまっていた。熱かったもんなあ。


『起きなよ、キャル! ヤバイものが落ちてるよ!』


 レベッカちゃんが叫ぶので、筋肉痛の痛みを堪えて立ち上がる。


「なになに……え、魔剣!?」


 なんと、魔剣が落ちている。


 クレアさんの剣の素体にした蕃刀と、形は近い。


 ヒクイドリが使っていた【原始の炎】の正体は、これだったんだろう。


『そっちじゃない。アタシ様が言っているのは、オークロードの腕だよっ!』


「オークロードの?」


 たしかに、魔剣は魔物の腕もセットで付いていた。世界で一番いらないセットだよ。


『ヒクイドリは、オークロードと戦って、この腕ごと食っちまったんだろうね』


「なんのために?」


『ナワバリ争いか、魔剣を求めてか』


「世界には、そんなに魔剣ってゴロゴロ落ちているもんなの?」


『おそらくはね』


 魔剣に限らず、この世界には伝説の装備が山ほど落ちているらしい。


 未来予知さえ可能な魔道士の帽子、ドラゴンのブレスさえ弾くヨロイ。歩く度にお金が入ってくるお財布など。あげだしたら、キリがない。


 そんなとんでもアイテムを、冒険者たちは求めているのだ。


「わたしとしては、クラフトのほうが楽しいなって思うけど」


『旅の目的は、人それぞれさ。しかし、アタシ様は言ったよ。魔物とマジックアイテムとの相関する関係を』


 うん。


 魔物は、マジックアイテムに惹かれる。


 自身を守るために、あえて魔物に食われるマジックアイテムもあるのだ。


「とりあえず、この魔剣は食べて」


『いいのかい、キャル? クレアの欲しがっている魔剣の、ベースにでもすればいいじゃないか』


「大丈夫」


 クレアさん、自分で言ってたもんね。「人の所有物は、欲しがらない」って。

 これは、オークの所有物だ。

 多分、クレアさんも必要としていない。


 さっき渡したレイピアにも、オークの蕃刀が使われている。しかし、あれは耐久テストのサンプルだ。あくまでも、素体はレイピアの方である。


 この魔剣も、よくできていた。とはいえ、ちょっと強くなった蕃刀程度である。


『この剣をベースにしちまえば、【原始の炎】を扱えるようになるよ』


「戦闘力皆無なわたしならいざしらず、クレアさんが人と同じスキル持ちで満足するように見える?」


『アハハ! それもそうさね!』


「きっとクレアさんはさ、もっと強いスキルを手にできるよ」


『だな。【原始】シリーズは、炎だけじゃなかったはずだからね』


 よってこの剣は、レベッカちゃんのエサになってもらう。

 オークの腕ごと、レベッカちゃんの胃袋へ。

 胃がどこにあるか、わかんないけどねっ。

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