第17話 街へ出店の打診

「キャルさん!」


 クレアさんが、助けに来てくれた。いっぱい、応援の冒険者を引き連れている。


「ここでーす。クレアさん」


 わたしは手を振って、無事をアピールした。


 残存する魔物も、ほとんど残っていない。 


「ひとまず、無事でよかった。ギルドまで送ろう。報告に行かないと」


 商人さんを守らなくてよくなったためか、冒険者たちは張り切って行く手を塞ぐ魔物を蹴散らしていく。わたしたちがなにもしなくても、いいくらいに。


「大変でしたわね。お互い」


「はい」


 今度こそ、わたしは休憩だ。また暴れろって言われても、ムリー。


「クレアさん、あの後、問題はありませんでしたか?」


「ええ。仲間のヒクイドリがこちらへ飛んできたことがありました」


「無事だったんですか!?」


 わたしは、飛び起きた。 


「みんなどういうわけか、山へ逃げていきました」


「よかったぁ」


 全員が無事なら、それでOKだ。


 妙だ。もっと好戦的なのかとばかり。


『おそらく【原始の炎】で、ボスが変な力を得ちまったんだろうね』


 原始の炎をボスが飲み込んで、なんらかの洗脳が群れの中で始まったのかもとのこと。


 ボスが死んだことで、その洗脳が解けたのか。


『これは推測だが、オークロードが原始の炎を拾ったんだろうさ』


 で、スキルを獲得して、魔物を操ろうとしたんだろうね。先手を取って、ヒクイドリがオークロードを食った。しかし、今度は自分が原始の炎の魔力に取り憑かれてしまったんじゃないか、と。


「だから、ヒクイドリが暴れ回ったってわけですか」


「そうかも」


 

 村に戻ると、さっきのおばあさんがわたしたちにお礼を言いに来た。


 それより先に、フワルー先輩に抱きしめられたが。


「アンタら、よう生きて戻ってきた! ヒクイドリが相手やいうから、心配したんやで!」


 先輩でも手を焼く、厄介者だったそうである。


 そんな怪物を、わたしは倒しちゃったのか。


『あんたは、たいした仕事をしたのさ。誇っていいんだよ』


「でもがんばったのは、レベッカちゃんじゃん」


『アタシ様だけじゃ、山には入れないからねえ。あんたが行かなかったら、活躍もクソもなかったろうさ』


 あくまでも、わたしの意思が反映したと。


 わたしとしては、みんなが無事なだけで、十分いいことだと思っている。


『欲がないねえ。そこがあんたの、いいところだけどさ』


 行商人さんも無事だ。


「ありがとうございました。実はボク、あの鉱山の鉱石で加工した武器装備品を、こちらに流しているんです」


 村で薬草や野菜を仕入れてファッパで売り、ファッパで装備品を仕入れてこちらの村で売っているらしい。


 しかし、ファッパからの帰りに鉱山を抜けようとして、ヒクイドリに襲われたという。身を隠すので精一杯だったそうだ。


「ヒクイドリなんて、上空を飛んでいるだけで、冒険者には目もくれないと思っていました。あそこまで暴れるなんて」


 厄介者がいなくなったことで、ここの狩りもやりやくすなるのでは、と冒険者たちも考えている。


「これはお礼として、受け取ってください」


 わたしは、鉱石を手に入れた。魔法石の効果もあるみたい。これは、魔剣のいい材料になるだろう。


 ギルドに戻り、ヒクイドリのボスを倒したと告げた。


「ヒクイドリが、【原始の炎】を飲み込んでいた!?」


 ですよねえ、やっぱりそういうリアクションになるよねえ。


「港町ファッパからも、調査隊を派遣してもらいます。トリカン村の冒険者たちだけでは、手に余りますからね」


 ひとまず、鉱山に関してはこれでいいか。


 ギルドでの用事を済ませて、フワルー先輩の元へ。


「おばあさんから、野菜をもろたわ。これで鍋にしよか」


「いいですね。手伝います」


「あんたらは、身体を休めとき。あとはウチが作るさかい」


 ならばと、スパルトイ軍団を手伝いによこす。


 メイン材料は、ドロップしたヒクイドリのお肉だ。


 お鍋の支度ができて、みんなで鍋を囲む。


 わたしたちのために振る舞っているはずが、フワルー先輩が一番食べていた。よっぽどわたしたちのことが、心配だったんだろうね。気持ちが晴れて、食欲が復活したみたい。


「レベッカさん。【原始の炎】なんて、王族ですら簡単に所持できません。それくらいの、レアアイテムですわよね? そんなにポロポロ落ちていますの?」


『原始の炎というより、魔剣は案外どこにでもあるんだよ。それを魔物が取り込んで、さらなる魔剣として強くなっていく』


 巡り巡って、魔剣が【原始の炎】の特性を会得した可能性が高いらしい。


『強い魔剣を所持した! っつっても、しょせんはオークロードだからね。ヒクイドリにケンカを売ったのが、運の尽きさ』


 ゴブリンに毛の生えた程度の魔物が、ヒクイドリなんかの大物に勝てるわけがない、か。


「ヤバイね、魔剣って」


「レアアイテムを回収する冒険者や王族は、そういったアイテムの異常な強化を、未然に防ぐ目的もあるそうや」


 フワルー先輩が、咥えたオモチをお箸で伸ばした。


 アイテムが強くなりすぎると、それを手にしようと争いにまで発展する。


 中には、率先して他人を洗脳して、戦いの火種を起こそうとするアイテムも存在するとか。


「保管していた宝石が原因で、滅びた国家もあるそうですわ」


 やだよ。そんな血に染まったアイテムなんて。


「中でも有名なのは、【氷の妖刀伝説】ですわね」


 かつて東の国にあった国のお姫様が、氷属性の妖刀を手にして王族を皆殺しにした話だ。あと都市が死んだせいで東の王国は滅亡し、跡形もないらしい。


「マジックアイテム回収の請負人が、必ず聞かされる話ですわ」




 魔剣の他に、妖刀もあるのか。


「うわあ。マジックアイテム業界って大変だな」


「せやねんよ。食べられたら強くなるいうんやから、大変やで」


 いいながら、フワルー先輩がヒクイドリの肉をモリモリ食べる。


「その栄養が、お胸に移動しているのですね? 食べれば食べるほど」


「せやで! ウチはおいしいもんを食べる度に、エロくなるんやでっ!」


 クレアさんが茶化すと、先輩がセクシーポーズらしき構えを取った。


 全然セクシーに見えない。 


「ほんでな、話があるねん。アンタさえよかったらやねんけど、街へ出店しよかなって思ってるんやけど?」


 先輩が、港町ファッパに店を構えたいという。


「実を言うとな、さっきの行商人はんが、店を都合してくれるねん」


 アイテム作る用の工房なんかは、我々で用意する必要がある。しかし、この店ごとアイテムボックスにしまえば問題なし。そのまま移転してしまおう、とのこと。


 大胆な計画だなぁ。


「行商人はんとファッパ行きに同行して、そこで店を構えようかと思てんのよ」


「いいじゃないですか! 行きましょう」


「おおきに。ほな、明日からあいさつ回りをするさかい、出発は、三日後や」


 今日の疲れを取るために、わたしたちは入浴することにした。


 オフロから上がって、みんなで着替える。


「なあクレア。アンタの着てるその服、『もーかえる』やな?」


 クレアさんの変Tを見て、フワルー先輩が声をかけた。


「はい。フワルーさん、よくご存知で」


「ま、まあな」


 フワルー先輩が、言葉を濁す。


 クレアさんには、言えない。「フワルー先輩が学級新聞の落書きで描いたキャラクターが、独り歩きした」なんて。


 錬金術に専念するため、先輩は商標権だけをもらって『もーかえる』を手放した。先輩は錬金術の開発費を、キャラクター使用料で賄っている。


「この点でできた目の愛らしさ、たまりませんわ」


「さよか。おおきにな」


「どうして、フワルーさんがお礼を言うんです?」


「いやいや。こっちの話や」


 あやうく、バレそうになった。

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