第15話 火山地帯へ

「クレアさん、あそこですかね?」


 わたしたちは、火山地帯に到着する。


「酷い有様ですね」


 そこは、見事に土砂崩れが起きていた。自然現象ではない。明らかに、魔物などの強い外部の力が働いている。


「キャルさん、岩を壊しましょう」


「待ってください。クレアさん。スパルトイのオウルベア軍団、来て!」


 わたしはスパルトイの中から、オウルベアのガイコツを呼んだ。あと探索用にウルフのガイコツも。


「オウルベア、ガレキをどけて!」


 指示を出すと、オウルベアはよいしょと岩石をどけ始める。


「そうそう。その調子……うわ!」


 モンスターが、押し寄せてきた。


「なんて数ですの!」


 赤いワニ、黄色い巨大クモ、炎の弾を吐くてんとう虫が。中央には、イノシシ頭の亜人種がいる。トサカが燃え盛っていますが、平気なの?


「火山に適応した、オークまでいますわ!」


 わたしの知っているオークとは、かなり違うけど。


 これは……いいスパルトイの材料になりそう!


 とはいえ、やっつけないと仲間にならないよね。 


「ええい、負けるかっての」


『残りのスパルトイも、出てきやがれ!』


 わたしより早く、レベッカちゃんが指示を出した。


 数には、数で勝負だ。やってやれないことはないっ!


 オウルベアには引き続き道を作ってもらいつつ、岩で遠投をしてもらう。


 炎のワニが、岩に叩き潰された。


 だが、炎のてんとう虫が岩を溶かしてしまう。


「あーっ、オウルベアがーっ!」


 オウルベアが、溶岩をかぶって溶けちゃった。後で治してやるから、待っとれい。


『ゴブリン・毒弓部隊! 出番だよ!』


 ならば、弓矢で撃ち落としてやる。


『仕込んだ特製の毒弓で、混乱しちまいな!』


 矢に貫かれたてんとう虫が、敵味方問わず火の玉を乱射する。


「うわ、結構被害がデカい! レベッカちゃん、やっぱ普通に仕留めて!」


『あいよ。聞いての通りさ。通常の矢を浴びせな!』


 結局ノーマル弾で、てんとう虫砲台を撃ち落とす。


 オウルベアが、オークに岩を投げつけた。


 片手に持った蕃刀を振り下ろし、オークが岩を切り裂く。並のモンスターではないようだ。火山の魔力を吸って強くなったのか、あるいは、なんらかの作用が働いているのか。


「オークは、ワタクシが仕留めますわ!」


 蕃刀を持ったイノシシ頭が、クレアさんを見てニヤリと笑った。うええ。


「メスをエサにしようとなさって? おあいにくさま」


 クレアさんは、レイピアを所持している。わたしが作った剣の中で、どうにか雷属性に合いそうな品だ。柄のガードに魔法石を埋め込んであり、魔法増幅装置として働く……ハズ!


「サンプルの魔剣、試させていただきます」


 わたし作のレイピアを構え、クレアさんが魔物と向き合う。


 オークは油断しているみたいだ。「そんな細い剣で何ができるのか」という、顔をしている。


 だが、彼はすぐに肉塊となった。何をされたのか、想像もつかなかっただろう。クレアさんが動いた瞬間に、ボロボロの炭になったから。


 とはいえ、魔剣も壊れちゃったんだよなあ。


「調節を間違えました。すいません」


 クレアさんの力を、甘く見積もっていた。魔力に耐えきれない剣なんて、作っちゃダメだよね。


「いいえ。ワタクシの魔力調節に、問題がありました。全力を出しすぎて、せっかくの武器が。所持者として、情けないですわ」


「とんでもない! もっと頑丈な武器を作りますんで」


「お願いしますわ」


 オークが落とした蕃刀を、手に取る。


「これを、錬成できれば」


 わたしは、壊れた魔剣と蕃刀を錬成し、かけ合わせた。


「蕃刀の頑丈さと、レイピアのきめ細やかさを両立させてみました。今度は、耐久力も上がるかと」


「ありがとうございます。先へ進みましょう」


 わたしたちは、先を急ぐ。


「見えてきましたわ」


 壊れた馬車が、視界に入った。


 以前、店に来てくれた冒険者たちも、馬車の周りを守っている。


「来てくれたのか。ありがとう!」


 リーダーの男性が、わたしたちに礼を言った。


「応援は我々だけですわ。申し訳ありません」


「来てくれただけでも、感謝するよ! 本当にありがとう」


 冒険者だけではない。行商人さんも、何度も頭を下げている。


「しかし、積み荷が」


「そんなの、置いていけ! 逃げるぞ!」


「積み荷のほうが、大事なんだ!」


 冒険者リーダーが、行商人を馬車から離そうとした。たしかにウマは逃げちゃったから、もう馬車は意味をなしていない。


「アイテムは、こちらで預かります」


 わたしのアイテムボックスは、ドロップアイテムである【龍の眼:極小】のおかげで、無限だ。何でも入り、腐らない。


「何から何まで、助かるよ」


「それはいいですから、逃げてください。早くしないと……」


 何者かが、空からこちらを見ている。デカい。一五メートルくらい、体長があるな。全身が黒く、頭部から首にかけて青い。虹色のトサカを持っている。


「ヒクイドリだ!」


 とうとう、ヒクイドリに見つかってしまった。派手に暴れたもんな、わたしたち。いくら、街道を修復しようとしていたとはいえ。


「みなさんは、逃げてください!」


 冒険者たちが、駆け出した瞬間だった。


 巨大ヒクイドリが急降下し、蹴りを放つ。獲物をとらえるかのように、オウルベアごと岩石を掴んだ。再度宙を舞い、空中でオウルベアと岩を粉々に砕く。


「ひいいい!」


 行商人が、恐怖で駆け出していった。


 声に反応したのか、ヒクイドリが行商人を視認する。


 いけない。魔物が彼をターゲットにした。


 わたしは、即座に【ファイアボール】を放つ。


 ヒクイドリが行商人さんに蹴りを繰り出した。


 そのタイミングで、火の玉が魔物の足にクリーンヒットする。威力は低いが属性を無効化する、【原始の炎】を込めた火の玉で。


 射撃ダメージしかないものの、ヒクイドリから行商人を守ることだけはできた。


「逃げて! 応援を呼んできて!」


 もう一度冒険者たちに叫び、わたしはヒクイドリをこちらへ引き付ける。


『さあ、どうしたよ。アタシ様はここだよ、このコケコッコー野郎!』


 魔剣を振り回して、レベッカちゃんにヒクイドリを挑発してもらった。


 相手は、わたしがディスったと思っているんだろうなあ。 


「キャルさん。今度もワタクシがいただきますわ」


「どうぞ」


 わたしが言った瞬間、クレアさんが足元に【雷霆らいてい蹴り】を繰り出した。ヒクイドリより、高く跳躍するためである。


 空中戦なら負けないと、ヒクイドリも高く舞い上がった。


「キック対決など、無粋なマネはいたしませんわ」


 なんと、クレアさんが空中を蹴る。上空でナイフを足場にして静電気を発生させ、空中から急降下したのだ。


 攻撃モーションに移っていたヒクイドリが、あっけにとられた顔になる。


「もう、遅いですわ」


 ヒクイドリの首をハネて、クレアさんが急降下した。


 魔物の身体が、空中で炭化する。


「ヒクイドリのクチバシと、トサカ。肉もゲットしましたわ」


「すごいです、クレアさん」


「本当にすごいのは、キャルさんの魔剣ですわ。今度は、壊れておりません。ワタクシ、本気で全力の雷光を注ぎ込みましたのに」


 勝ったというのに、クレアさんは少しむくれていた。


『……キャル! もう一匹くるよ!』


 とっさに、わたしはクレアさんを突き飛ばす。


 同時に、背中に強烈な打撃が入った。


「キャルさん!」


「平気です!」


 わたしは、レベッカちゃんで攻撃を防ぐ。レベッカちゃんが気を遣って、わたしに憑依してくれたおかげだ。とはいえクリスさんの避難を優先したので、結構なダメージが入ったけど。


「クレアさんは逃げてください! コイツは、わたしが仕留めます!」


「でも!」


「まだコイツらには、仲間がいるかも知れません!」


 わたしがそう言うと、クレアさんは自分のすべきことを悟ったらしい。すぐにわたしを置いて、行商人さんの元へ。


 それでいい。


『さて、遊んでやるよ。クソコケコッコーが!』

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