第14話 魔剣作りと、クレアさんの特訓

 翌日から、レベッカちゃんの強化と、クレアさん用の魔剣を作る作業に取り掛かった。


 店番はウッドゴーレムの他に、スパルトイ軍団にも手伝ってもらう。


『はいよ、薬草は銅貨一〇枚。そこのホーンラビットの角は、銅貨二〇枚だよ。カウンター前の調味料は各種、味見ができるからね。専用の木サジですくって、手において舐めっておくれ』


 スパルトイ軍団のCVは、レベッカちゃんが担当する。


 お客さんは最初こそちょっとビビっていたみたい。だが、危なくないとわかってからは安心して買い物をしていた。


 わたしは、魔剣作りに専念する。


「素材は、こんなもんかな?」


 いい魔剣を作るには、わたし自身が上達しなければ。


「ダメだ」


 ガタガタの魔剣ができあがる。


 わたしはもう一度、ダメ魔剣を素材に分解した。


『キャル、毒の矢じりを追加で二〇本頼むよ』


 時々、仕事も入ってくる。


 スパルトイに背負われているレベッカちゃんが、わたしに声をかけてきた。


「はーい。錬成! できたよー」


『はい、おまちどう。気に入ってもらえたみたいだね』


「よかった。この調子で、魔剣作りもがんばるね」


『その意気だよ』 


 その後も、素材になる剣を錬成してみたが、あまりうまくいっていない。魔力の流れが、どこかで滞っている。


「一から魔剣を打つって、こんなにも難しいんだ」


 かといって、参考としてレベッカちゃんを分解するわけにもいかない。

 細かく砕いて中身を見たところで、魔剣の構造がわかる保証もなかった。


『キャル。冒険者が、ボロいナマクラ剣を、三〇本も売りに来たよ』


「お相手に、『全部買い取る』って伝えて。素材にするよ」


『あいよー』


 一度、わたしは席を離れた。冒険者と面談し、鉄の剣をすべて買い取る。代金はフワルー先輩からではなく、こちらで出す。研究材料だからね。


『あんま、根を詰めすぎるんじゃないよ』


「わかってる」


 わたしは、鍛冶用スキルを持っていない。取ったところで、中途半端になる。


 錬成の授業で、魔剣の作り方は学んできた。ただ、人のために作ったことはない。


「習うより慣れろ。錬成術の先生が、いつも言っていたじゃん」


 今は、手に入れた素材を使った魔剣もどきを作るくらいである。とにかく、失敗してもいいからトライするのみ。


「ひとまず一本」 


 作った魔剣は、スパルトイに素振りしてもらう。


「ギャギャー」


 スパルトイたちが勝手に、剣の打ち合いを始めた。魔剣が当たって、骨が粉々になる。しかし、また元の姿に戻った。彼らなら魔剣が身体に当たっても、再生できるもんね。


 わたしはさらに数本の魔剣を、製造した。斧型や槍型なども作って、スパルトイたちに持たせる。何がうまくいって、どれができていないか、メモに取っていく。


 その間クリスさんは、フワルー先輩にコーチしてもらった。


「ところで、アンタの魔剣は?」


「こちらに」


 クレアさんが、スカートをたくし上げる。太ももに引っ掛けているナイフを、先輩に見せた。


「身体に装着して、魔法を使うタイプかいな。自分自身を剣にする、体術スタイルやね?」


「よくご存知で」


「たまにおるんよ。そういうのを使いたがるモンが。ほとんど使いもんにならんけど、アンタは強そうや。なんか、オーラが全然ちゃう」


「ありがとうございます」


 さっそく、わたしが作ったサンプル魔剣の耐久度テストと、実戦のテストを同時に行う。


「クレアさん、準備はいいですか?」


「いつでもよろしくてよ」


 わたしは、ガイコツたちに武器を持たせる役割を担当していた。魔剣のサンプルを開発し、ガイコツたちに使わせる。これにより、何が足りないかを分析するのだ。


「やっちゃえ、スパルトイ」


 スケルトンゴブリンたちが、クリスさんに飛びかかる。


「はっ!」


 電撃を放つクレアさんのキックで、ゴブリンたちの群れがあっという間に半壊した。やはりゴブリン程度の腕前では、話にもならない。再生させてもう一度向かわせたが、結果は同じだった。


 魔剣がどうのこうのって、次元ではない。基礎的な部分が、足りていなかった。


「たいした実力や。せやけど、ちゃんと剣を装備したほうがええよ。知り合いに、ホンマもんがおるから」


「そうなのですね? 聞けば、あなたも相当の腕前だったとか」


「……ウチを、挑発してるんか?」


 フワルー先輩が、メガネを直す。


「いえ。ですが、以前からずっと、我々よりレベルが高いと察知していましたので。ギルドの方にも、伺いました。あなたもその気になれば、冒険者として戦えるレベルだと」


「ええで。かかっておいで」


「では。雷霆蹴りトニトルス!」


 言った瞬間、クレアさんがフワルー先輩に蹴りかかった。


 しかし、フワルー先輩は不敵な笑みを浮かべるだけで、その場から動かない。


「な!?」


 クレアさんの顔から、余裕が消えた。


 フワルー先輩は涼しい顔で、あっさりとクレアさんのキックをチェーンソーで受け流す。聖剣ですら叩き壊す、クレアさんの電撃キックを。


「これが、学校と実戦の差や」


 派手に転倒したクレアさんの顔の前に、フワルー先輩が、チェーンソーの先を突きつけた。


「ウチはレンジャーの授業にも出とったさかい、これくらいの戦闘力はあるんよ。コーチも強かったし。獣人族の特性もある。異常な反射神経やね」


 獣人族は一瞬だけ、相手の動きを完全に読める。


 もし先輩が本気だったら、クレアさんは足の一本はなくしていたかもしれない。


 クレアさんも気づいたのか、戦闘態勢を引っ込めた。いかに自分がヌルい環境にいたか、思い知ったのだろう。


「冒険者としてやっていくなら、これ以上の強さが必要やねん。せやからウチは、冒険者にはならんかった。最低限の素材集めができたらええ、って思ったんよね」


 フワルー先輩が、チェーンソーを止める。


 まだまだ、世界は広い。もっととんでもない魔物や、冒険者がいるんだ。


 この間のおばあちゃんが、またやってきた。この方は、先輩に話し相手になってほしいみたい。


「フワルー先輩、またあの方が。なんだか、困ってるっぽいです」


「わかったで。クレアちゃん、知り合いのお客さんが来たねん。ウチからの講義は、このくらいにしたってや」


 先輩が、カウンターに向かう。


「大丈夫ですか、クレアさん」


 わたしは、肩を落とすクレアさんに歩み寄る。


「慰めは、不要ですわ。今の一撃で、目が醒めました」


 クレアさんはもう、戦士の顔になっていた。甘えが抜けて、油断もない。


「キャルさん。わたくし、もっと強くなりたいですわ」


「そうだね」


 わたしにも、レベッカちゃんを最強の魔剣にするという目標がある。


「なんやて!?」


 カウンターから、フワルー先輩の荒々しい声がした。


「どうしました、先輩!?」


「この人のお孫さんが、南西の火山付近で足止めを食らっとるらしい」


 おばあさんのお孫さんは、行商人をしている。その馬車が火山付近を通りかかったときに、山の岩場が崩れたらしいのだ。


「ヒクイドリが、暴れとるせいや。なんか最近、モンスターが活発化しとってな。悪さしよるんや」

 そのせいで、行商人さんが帰ってこられないという。それどころか、誰も待ち入れなくなってしまっているとか。


 先輩の言葉を聞いて、わたしはレベッカちゃんをスパルトイからひったくった。クルンと回転させてから、背中に担ぐ。


「わたし、行ってきます」


「ムチャや! 相手はヒクイドリやで。見つかったら、大変なことになるで」


「できるだけ、回避して向かいます。行商人さんを助けたら、すぐに退散しますから」


 クレアさんも、「ワタクシもついていきます」と告げた。


 フワルー先輩は、おばあさんの肩を抱きながら「ええやろ」と、つぶやく。


「頼むわ。うちはおばあさんを見ておくさかい」


「はい。行こう、クレアさん」


 わたしとクレアさんは、南西にある鉱山に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る