第4話 祐奈

「ルナちゃんだっけ? ヨッシーが近くにいて一番有利な立場だったんだよ。そこを利用して好きならグイグイ行かなくちゃいけなかったのに」


 グイグイ行くどころか、遼平たちの策に踊らされてオトちゃんとのデートを見せつけてしまった。誤解を解きたくてルナの家を訪れたが、いつも留守だった。そのときすでにカズとの交際が始まっていたようだった。

 縁があるようでなかったのかもしれない。



「そのうちいい子に巡り合えるって。ヨッシー、スイミングのコーチ陣でも一番人気なんだよ」


 4歳年上の祐奈には何でも包み隠せずに話せた。


「ところでヨッシー、大人になった気分はどう?」

「どうって、あんましよく覚えてなくて」

「あらっ、じゃあ思い出させてあげる」


 祐奈と二人きりの部屋を訪ねたときから、こうなることはわかっていた。

 それなのに抗えなくて、いやむしろ望んでいたことなのかもしれない。

 僕、祐奈さんが好きなのか?

 ルナちゃんじゃないけど、好きがわからないのかもしれない。


 おい、良雄、はっきりとしろ。

 食事のときに飲んだビールで頭がフワフワしている。

 





 それから祐奈の家に泊まる日が続いた。

 祐樹が寝静まるのを待って、朝まで祐奈の布団で一緒に過ごした。

 祐奈といると安心出来た。

 広い懐に包まれると穏やかな気持ちでいっぱいになれた。

 こんな感覚は初めてのことだった。

 

 

「パパ、お泊りしたの?」

 

 すっかり懐いた祐樹は良雄の布団の上に乘りじゃれてくる。

 可愛い。

 僕、この子の父親になれる。


 みそ汁のいい匂いが鼻をかすめた。


「二人とも顔を洗って、ご飯にしましょう」

「はーい」


 祐樹と同時に返事をすると、それだけで祐樹の笑いが止まらなくなる。

 僕もこんなときがあったんだよな。ルナちゃんと。

 良雄は祐奈のことを思いながら、ルナのことを思い出している自分が嫌になる。


「わあ、冷たい」

「わ、ちめた」


 洗面所で祐樹は良雄の真似をした。

 良雄は祐樹の首元に手を差し入れた。


「キャー、ちめた、ちめた」


 するとキッチンから声がした。


「ふざけてないで。ご飯が冷めちゃう」

「は~い」


 二人同時に返事をした。

 これじゃ父親というより、祐奈の子どもになるといった感じだな。


 祐樹の襟もとにもう一度手を突っ込んだ。


 キャハハハッ


 子どもは他愛ないことでよく笑う。 














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