第3話

二節




 ハーシーは不安だった。

 今までは召会にクエストを出しに行き、それを受けた冒険者に詳細を説明するだけの簡単な仕事だった。それなのに今回は突然同行することになり、かれこれ数時間、広大な草原が横に広がる街道で幌馬車に揺られている。

 イスアンデルに残してきた家族が心配だ。だが、この仕事が終われば妻の病気が完治するまでの薬代が払える。

(しかし……なんで私まで……。しかも、こんな人たちとなんて)

 ハーシーは不安を押し殺すよう、心の中で悪態をつきながら同行者たちの顔を覗き見た。

 対面に座る一人は、自分が直接声をかけて依頼した冒険者だ。貧乏そうな恰好をしていたので、金払いが良いと言えばすぐに食いついてくれると思って声をかけた。それに、雇い主からそういう人選にするよう指示を受けていたからだ。

 恰好はともかく、流石にこういうクエストには慣れているようで、緊張感の欠片もない様子で足を組んで座っている。彼がぼーっと眺めている先には、御者のずんぐりとした背中と馬たちの後頭部、そして代わり映えのしない草原という景色がずっと映っている。

 横に座っているもう一人の方は、黒いフードを深く被っていて顔がよく見えない。雇い主から同行するよう言われたらしいが、正直怪しい人物だ。

 中性的な体格かつ、整った口元をしているが、声から男というのは判った。しかし、フード付きの黒いマントを着こんでいるせいで、それ以外は何も分からない。

 今も下を向いてじっと座っているので、何を考えているのかも当然分からない。しかも、このクエストでは彼の指示を聞くように雇い主から言われているため、下手な詮索もできない。

「なぁ、これ……このままだと国外に出るよな?」

「え? その……そうですね」

 前を向いたままのシュトラウスに突然訊かれ、確かにと思ったハーシーは、咄嗟にそう答えてしまった。

 それに対し、御者も上司も何の反応も示さない。

「ふぅん」

 シュトラウスは訊いた割に、興味なさげな返事をした。

(……国外に出るなら、魔物に襲われる可能性も高くなる。それで護衛として冒険者を雇うのは解るが、だったらもう少しマシな冒険者にしないか? ……囮? それとも、この人が強いから大丈夫なんだろうか? 一応、銅等級だし……。でも、だったらなんで私が同行しているんだ? やはり囮……いや、もしかしたら国外の要人に何か裏の仕事を頼まれるのかもしれないのか……?)

 ハーシーはシュトラウスと上司を交互に見ながら、眼鏡の銀のブリッジ部分を優しく摘まんで上げる。その手は押し寄せる不安を感じて、軽く震えていた。

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