人形の魔女は死を願って

第26話

馬車で移動している。

僕達は新しい学び舎での生活に期待を膨らませながら、馬車の中で夜を過ごしていた。しかし、その夜はいつもと違った奇妙な空気を漂わせていた。

夜も深まり、馬車はひたすら走り続けていたが、突然御者が道を外れ、暗い森の中へと進み始めた。ソフィア様は不自然さを感じ、御者に尋ねた。

「御者さん、どうして道を外れたのですか?」

御者は答えず、代わりに不気味な沈黙が続いた。やがて、御者の体がぎこちなく動き始め、その姿は人形へと変わっていった。

「!!」



人形は倒れ、馬車から転げ落ちた。

「っ!!」

ソフィア様は驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、周囲を見渡す。

「コハル!気を付けなさい!」

(何が?御者が人形に?強盗でも来たの?)

僕もすぐに前方に移動し警戒態勢に移る。

(ゼラ、何が起こってるの?)

『分かりません、しかし何かが起きています』

僕は心でゼラと会話をし、周囲を警戒する。



すると突然、馬車がいきなり加速しだす。

「‼ソフィア様馬を見て下さい!」

二頭の馬はその皮の体を布の体に変え、まるで巨大な縫いぐるみの様だった。

「そんな……!」

二頭は馬ならざる動きで馬車を牽き始め、ソフィア様は衝撃の余り言葉を失っていた。

「……」

『コハル様、よく見て下さい。馬が走る道の先に家が見えます』

僕はゼラの言葉に反応し、その方向を見た。確かに道の先に一軒の家が立っている。



「このままだと衝突する……」

「コハル!こっちに来なさい!」

うろたえてる時にソフィア様が僕を呼ぶ。

「は、はい」

「コハル!早く!」

ソフィア様に近づくと僕の手を取り抱き上げた。

そのまま馬車を飛び降り魔法でゆっくりと着地する。

馬車はと言うとそのまま家にぶつかると思った瞬間、家は口を開け馬車を取り込んだ。



「一体何が……」

ソフィア様は呆然とし、ただただ前を見る事しか出来なかった。

「ソフィア様」

「コハル……怪我は無いかしら?」

ソフィア様の瞳には不安の色が見える。それはそうだろう。これは明らかに異常な事態。



『コハル様、強力な魔法が辺り一帯に張られています。マナの弱い者から人形に変えてしまうような魔法です。コハル様、お気をつけ下さい』

ゼラも事態の異常さに気が付き、僕に警戒を促している。

「コハル、この事態は普通じゃないわ。すぐにここを離れましょう」

ソフィア様は僕を腕を引っ張り、家から離れるように走る。



「絶対に私から離れないでね」

「馬車はいい、道にさえ戻れば。通った人にでも助けを求めればいい」

「は、はい」

僕はソフィア様に引っ張られるまま走る。

その時だった、小さな人形が僕たちの前に現れた。

「っ!!」「【炎縁】」

「まって~」

「まって~」

突然人形は喋り出す。それは僕達の足を止めるには十分だった。



「こんにちは~」「こんにちは~」

「私は~アリスって言うの~」「僕は~アレックスって言うんだ~」

「今日は挨拶に来たの~」「そうそう」

ソフィア様は咄嗟に腕を突き出しを、人形に話しかけた。

「……あなた達の目的は何?」

「目的~?」

「私達をこんな所に連れてきた理由を教えなさい……」

「僕達じゃないよ~。連れてきたのはラヴィア様だよ~」

「ラヴィア……」

その名前を聞いた瞬間、ソフィア様の顔に冷や汗が伝る。



「ど、どうしたんですか?」

「知らないの?ラヴィアは魔女の名前よ。人形の魔女 ラヴィア・アリエル」

「人形……確かにつながる所はあった」

(ゼラ?魔女って何?)

『魔女とは、人類に仇名す魔法使いに付けられる蔑称です。しかしその危険度は並みのものではありません』

『一つ、断言できることがあります。この状況は非常に危険です。すぐに退避を推奨します』

「逃げるわよコハル」

ソフィア様は僕の手を取る。



「まって~」「まって~」

二人の人形が僕達を止める。

「まだ何かあるの?」

「ラヴィア様を……救ってあげて~」

「あげて~」

「……どういう事?」

「聞くだけ聞いてみましょ……もしかしたらヒントになるかも」

「そうですね。話だけでも……」



「ラヴィア様は~いつも寂しそうだったの~」

「ずっと一人だったから~寂しくてたまらなかったんだって~」

「でも、~お友達が出来たの~」

「でもねでもね、そのお友達にラヴィア様。食べられちゃったんだ~。ラヴィア様」

「ずうっと~ずうっと~待ってるんだよ。助けて~って」

「助けてあげて~」「お願い~ラヴィア様を助けて~」



人形達は明るく話をした。

「そう、ラヴィアは友達に食べられてしまったのね」

ソフィア様は返事をするが興味は無さそうだ。

「コハル、逃げるわよ。もう付き合っちゃいけないわ」

ソフィア様は再び走り出そうとする。

目の前は通れず、透明の壁が張ってあった。



「あ~あ」「あ~」

「もう逃げられないね」

人形はケタケタと笑い出す。

「っ!」

「コハル、下がって。私がやるわ」

ソフィア様は腕を突き出し魔法を発動する。

強力な熱風が吹き荒れ、壁にぶつける。

しかし、壁はびくともせず、傷すらつかなかった。

「ッ!」

ソフィア様は信じられない様に呟く。



「無駄だよ~」「無駄だよ~」

「君たちはもう所持物をドールハウスに食べられちゃったんだ~」

「もう逃げられないよ~」

人形はケタケタと笑いながら言う。

「……っ!……っ!」

ソフィア様は何度も何度も魔法を放つが、壁は傷一つ付かない。

「ソフィア様……」

僕はソフィア様に寄り添い、その体を支えた。



「……ねえ、ラヴィア様を救うって言ってたけど。何をすればいいの?」

「死なせてあげて~」「死を望んでるの~」

人形達はケタケタと笑いながら言う。

「……ソフィア様」

「ええ、分かってる」

僕たち二人はドールハウスの方を見る。

「やるしかありませんね」

「はぁ……しょうがないわね。やってやるわよ……魔女殺し」

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