第25話

試験終了後。僕は帰路についた。

まあ、結局あまり目立つことはなかったし良いか……。

『お疲れ様です』

「うん、ありがと。ゼラもお疲れ」

意外とあっけなく終わったかな?

『はい、ですが。気にすべきはその後でしょう』

「そうだね、受かってると良いんだけど……」

そうこうしてる間に屋敷に着く。



「只今戻りました」

「お帰りコハルちゃん」

アイシャさんが出迎えてくれる。

「ようやく戻ったのね、お帰りコハル」

扉の奥からソフィア様が顔を出す。

「はい、只今帰りました……」

「コハルちゃん、試験はどうだったの?」

「アイシャ、まずは休むのが先よ」

「いえ、疲れは全然……。試験の方はまあおおむね大丈夫かと」

「そう、なら良かったわ」

ソフィア様が安心したように微笑む。

「結果が分かるのは二週間後、ゆっくり待ちましょう」

「はい」



二週間後。

屋敷に僕当てに一通の封筒が届く。

ソフィア様曰くこれは通知書と言って、受験結果が書かれた物らしい。

結果から言えば『合格』だ。

僕もアイシャさんも喜んでいたし、ウルさんもセイラさんもほめてくれた。

ソフィア様に関しては、「当然よ」と、胸を張っていた。

改めてこのストバードに受かったんだと、実感する。





僕は今馬車に乗りストバードに向かっている。

「ではソフィア様、気つけて行ってくるのじゃ」

「セイラ、今日はあくまで寮を見るだけよ。見送りは必要ない」

「これが仕事じゃ。コハルも気を付けるんじゃぞ」

「はい、行ってきます」

僕たちは馬車に乗り込む。

馬車に揺られること三日……僕が居た街と比べても明らかに栄えている。

「王都だからね、栄えてるのは当然」

「なるほど」

「それより、見えてきたわねストバード」

街並みが開けた先に、ストバード魔法学園の壮大な姿が現れた。

広大な敷地に立ち並ぶ塔や建物の数々が、まるで一つの都市のように見える。

壮麗な校門の前には、学院の紋章が刻まれた石碑があり、その周囲を鮮やかな花々が彩っている。

「ここが…ストバード魔法学園…」



僕はその光景に息を呑んだ。想像していた以上に大きく、美しい場所だ。

「まあ魔法界でも最も権威ある学び舎であることに間違いは無いわ」

ソフィア様が隣で優雅に微笑みながら言った。

「確かに、圧倒されますね…」

僕は感嘆の声を漏らしながら、馬車の窓から学園の全景を見渡す。

「今日は寮の見学だけだから、緊張することない」

「そうですね」

馬車はストバード魔法学園の校門前で停車し、僕たちはゆっくりと降り立った。大きな門が開かれ、僕たちを迎え入れる。

門を抜けると、目の前には美しい花々で飾られた噴水と庭園が広がる。



「はぁー……」

ソフィア様は驚きの声を上げた。

「予想以上に広いわね……庭までこれとはね、一体どれだけの規模なのか想像もつかないわ」

「流石王都一の魔法学園ですね」

僕たちは庭園を抜ける。学園の中へと入ると、そこはまさに別世界だった。

校舎へと続く道の左右には、見事な花壇が広がっており、色とりどりの花が咲き誇っている。



「まあ、感動は入学時に取っときなさい。今日は寮の内見だけしたら帰るからね」

ソフィア様はレンガ造りの重厚感のある建物の前で立ち止まる。

アーチ型の扉を潜り抜け、寮に入り、受付の前に立つ。

僕は傍に立つだけ、何もできないからね。

ソフィア様が受付から鍵のような物を貰うと歩き出す。

「行くわよコハル」

「はい」



ソフィア様について行くと狭い空間に入る。すると上昇し始めた。

「エレベーター!?」

「エレベーター?……コハルは上昇機使うのは初めて?」

「初めて……」

いや、不自然にならないようにしよう。

「そうですね、こんな機械があるなんて」

「機械?魔法よ、これ」

あ、やってしまった。



「あ、はい。そうですよね」

エレベーターは十数秒で動きを止める。

「着いたみたいね」

ドアが開く。僕はエレベーターから降りる。



404。ソフィア・アーネスト:コハル。

そう書いてある表札。日本では不吉だから4のつく所は無いけど。ここじゃ当然あるか。それにしても……見つから無さそうだな。



「二人一部屋、同室よ」

「あ、はい。わかりました」

ソフィア様と同室か……。

目のやり場に困る事が増えそうだ。

扉を開ける。中に入ると、思っていたよりも広い部屋が広がっていた。

シンプルだけど快適そうなベッド、大きな窓からは明るい光が差し込み、デスクと椅子も完備されている。

部屋全体に落ち着いた色調が使われていて、非常に居心地が良さそうだ。

キッチン、風呂場、ダイニングリビング、どれも広々としていて過ごしやすい。

そして、寝室が二つ。良かった~。



「良い部屋ですね!」

「そう?普通のじゃない」

ソフィア様は、よく分からないと言った顔をする。

まあ、貴族基準だとそうなのかな?

「僕的には十分すぎるぐらいですけど」

「そう、それは良かったわ」

僕たちは部屋のチェックを一通り終えた後、寮を後にした。

「帰るわよ、コハル」

「はい」

帰りも馬車で三日。

これからのことを思うと楽しみなような、不安なような。

そんな気持ちを抱きながら僕たちは学園を後にした。




それから一か月後。

その間に引っ越し準備を済ませ、今日は入学一週間前。

そしてこれから、ストバードまで向かおうと言う時だ。

「ソフィア、良い?何かあったら必ず連絡するのよ?」

「コハルもよ?ソフィアの事よく見ていてね」

奥様が心配そうに言う。

「はい、わかってます」

「今生の別れじゃないんだから、心配しないで、大丈夫。手紙も書くから」

「親は心配な物だよソフィア」

「……分かってる、無茶はしないから」



「……無茶はしていい、やれる事はやるんだ。いつでも全力疾走だ、それで構わない」

「だけどね足元を見なさい、時々後ろを振り返りなさい、そうすれば転ばないから」



「……うん」

ソフィア様は嬉しそうに微笑んだ。

「コハル君もだ。よく見て歩きなさい」

「……はい!」



「お嬢様、コハル大層な事は言えんが……頑張るのじゃぞ」

「はい。セイラさんありがとうございます」

「頑張って下さい」

「うん」

みんなが笑顔で送り出してくれる。

「ソフィア様、コハル。荷物だ」

馬車が用意される。

「じゃ、行ってくるわ」

「行ってきます!」

僕は馬車に乗り、ストバードへと向かう。

これからの学園生活への期待を抱きながら。

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