第25話
試験終了後。僕は帰路についた。
まあ、結局あまり目立つことはなかったし良いか……。
『お疲れ様です』
「うん、ありがと。ゼラもお疲れ」
意外とあっけなく終わったかな?
『はい、ですが。気にすべきはその後でしょう』
「そうだね、受かってると良いんだけど……」
そうこうしてる間に屋敷に着く。
「只今戻りました」
「お帰りコハルちゃん」
アイシャさんが出迎えてくれる。
「ようやく戻ったのね、お帰りコハル」
扉の奥からソフィア様が顔を出す。
「はい、只今帰りました……」
「コハルちゃん、試験はどうだったの?」
「アイシャ、まずは休むのが先よ」
「いえ、疲れは全然……。試験の方はまあおおむね大丈夫かと」
「そう、なら良かったわ」
ソフィア様が安心したように微笑む。
「結果が分かるのは二週間後、ゆっくり待ちましょう」
「はい」
二週間後。
屋敷に僕当てに一通の封筒が届く。
ソフィア様曰くこれは通知書と言って、受験結果が書かれた物らしい。
結果から言えば『合格』だ。
僕もアイシャさんも喜んでいたし、ウルさんもセイラさんもほめてくれた。
ソフィア様に関しては、「当然よ」と、胸を張っていた。
改めてこのストバードに受かったんだと、実感する。
★
僕は今馬車に乗りストバードに向かっている。
「ではソフィア様、気つけて行ってくるのじゃ」
「セイラ、今日はあくまで寮を見るだけよ。見送りは必要ない」
「これが仕事じゃ。コハルも気を付けるんじゃぞ」
「はい、行ってきます」
僕たちは馬車に乗り込む。
馬車に揺られること三日……僕が居た街と比べても明らかに栄えている。
「王都だからね、栄えてるのは当然」
「なるほど」
「それより、見えてきたわねストバード」
街並みが開けた先に、ストバード魔法学園の壮大な姿が現れた。
広大な敷地に立ち並ぶ塔や建物の数々が、まるで一つの都市のように見える。
壮麗な校門の前には、学院の紋章が刻まれた石碑があり、その周囲を鮮やかな花々が彩っている。
「ここが…ストバード魔法学園…」
僕はその光景に息を呑んだ。想像していた以上に大きく、美しい場所だ。
「まあ魔法界でも最も権威ある学び舎であることに間違いは無いわ」
ソフィア様が隣で優雅に微笑みながら言った。
「確かに、圧倒されますね…」
僕は感嘆の声を漏らしながら、馬車の窓から学園の全景を見渡す。
「今日は寮の見学だけだから、緊張することない」
「そうですね」
馬車はストバード魔法学園の校門前で停車し、僕たちはゆっくりと降り立った。大きな門が開かれ、僕たちを迎え入れる。
門を抜けると、目の前には美しい花々で飾られた噴水と庭園が広がる。
「はぁー……」
ソフィア様は驚きの声を上げた。
「予想以上に広いわね……庭までこれとはね、一体どれだけの規模なのか想像もつかないわ」
「流石王都一の魔法学園ですね」
僕たちは庭園を抜ける。学園の中へと入ると、そこはまさに別世界だった。
校舎へと続く道の左右には、見事な花壇が広がっており、色とりどりの花が咲き誇っている。
「まあ、感動は入学時に取っときなさい。今日は寮の内見だけしたら帰るからね」
ソフィア様はレンガ造りの重厚感のある建物の前で立ち止まる。
アーチ型の扉を潜り抜け、寮に入り、受付の前に立つ。
僕は傍に立つだけ、何もできないからね。
ソフィア様が受付から鍵のような物を貰うと歩き出す。
「行くわよコハル」
「はい」
ソフィア様について行くと狭い空間に入る。すると上昇し始めた。
「エレベーター!?」
「エレベーター?……コハルは上昇機使うのは初めて?」
「初めて……」
いや、不自然にならないようにしよう。
「そうですね、こんな機械があるなんて」
「機械?魔法よ、これ」
あ、やってしまった。
「あ、はい。そうですよね」
エレベーターは十数秒で動きを止める。
「着いたみたいね」
ドアが開く。僕はエレベーターから降りる。
404。ソフィア・アーネスト:コハル。
そう書いてある表札。日本では不吉だから4のつく所は無いけど。ここじゃ当然あるか。それにしても……見つから無さそうだな。
「二人一部屋、同室よ」
「あ、はい。わかりました」
ソフィア様と同室か……。
目のやり場に困る事が増えそうだ。
扉を開ける。中に入ると、思っていたよりも広い部屋が広がっていた。
シンプルだけど快適そうなベッド、大きな窓からは明るい光が差し込み、デスクと椅子も完備されている。
部屋全体に落ち着いた色調が使われていて、非常に居心地が良さそうだ。
キッチン、風呂場、ダイニングリビング、どれも広々としていて過ごしやすい。
そして、寝室が二つ。良かった~。
「良い部屋ですね!」
「そう?普通のじゃない」
ソフィア様は、よく分からないと言った顔をする。
まあ、貴族基準だとそうなのかな?
「僕的には十分すぎるぐらいですけど」
「そう、それは良かったわ」
僕たちは部屋のチェックを一通り終えた後、寮を後にした。
「帰るわよ、コハル」
「はい」
帰りも馬車で三日。
これからのことを思うと楽しみなような、不安なような。
そんな気持ちを抱きながら僕たちは学園を後にした。
★
それから一か月後。
その間に引っ越し準備を済ませ、今日は入学一週間前。
そしてこれから、ストバードまで向かおうと言う時だ。
「ソフィア、良い?何かあったら必ず連絡するのよ?」
「コハルもよ?ソフィアの事よく見ていてね」
奥様が心配そうに言う。
「はい、わかってます」
「今生の別れじゃないんだから、心配しないで、大丈夫。手紙も書くから」
「親は心配な物だよソフィア」
「……分かってる、無茶はしないから」
「……無茶はしていい、やれる事はやるんだ。いつでも全力疾走だ、それで構わない」
「だけどね足元を見なさい、時々後ろを振り返りなさい、そうすれば転ばないから」
「……うん」
ソフィア様は嬉しそうに微笑んだ。
「コハル君もだ。よく見て歩きなさい」
「……はい!」
「お嬢様、コハル大層な事は言えんが……頑張るのじゃぞ」
「はい。セイラさんありがとうございます」
「頑張って下さい」
「うん」
みんなが笑顔で送り出してくれる。
「ソフィア様、コハル。荷物だ」
馬車が用意される。
「じゃ、行ってくるわ」
「行ってきます!」
僕は馬車に乗り、ストバードへと向かう。
これからの学園生活への期待を抱きながら。
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