第24話
それから何事も無く過ごしていたが、ある事を思い出しそれは急変する。
「ストバードの試験って三日後では?」
「……そう言えばそうね。でもコハルの力なら心配ないわよ」
ソフィア様がそう言ってはくれるが、僕は少し不安だ。
というかすっかり忘れていて、今更思い出したのだ。
「ていうか試験会場ってストバードですか?」
「違うわ、ストバードの試験は各地で行われてる。ここから一番近い所だと馬車で行けば一時間もかからないんじゃない?」
「な、なるほど……」
「ちょっと何があるかおさらいしてもいいですか?」
「学力試験と実力試験だけ。それぞれの試験で十分な点数を取ることができれば、ストバードに入学できるわ」
とソフィア様が説明してくれる。
「じゃあ、学力試験は普通の勉強の内容で、実力試験は魔法を使った実技という感じですか?」
「ええ、学力試験は魔法学、数学、歴史、文学、古文の中から選んで三つ。実力試験は……毎年変わるんじゃない?」
「なるほど……ソフィア様はどうしたんですか?」
「私?私は推薦だから……参考になる様な事は何も言えないし」
「う、うーん」
「ま、行けば何とかなるわよ。保証する」
ソフィア様はそう言ってくれた。
「だといいんですけどね……」
★
それから三日後、試験当日。
僕は見送られながら馬車に乗り込み試験会場へと向かった。
ソフィア様が言うには会場までは一時間程度でつくそうだ。
街で安馬車を見つけて乗ったんだ……けど。めっちゃ揺れる!
座る部分固いし!ソフィア様の言う通り屋敷の馬車使えばよかった……。
はぁ、贅沢と言うか最初に良い物に触れるとその後に使う物に簡単に満足できなくなるなぁ。
だめだ何か別の事を考えて気持ちを紛らわそう。
『では、改めてコハル様のスキルについておさらいしましょう』
「スキルについて?まあ気は紛らわせるか。お願いゼラ」
『はい、まず【欲望の瓶の上に腰かける者】について。【リリス】の配下を得る能力は主に二つに分けられます』
『身体能力や保有マナなどの所謂ステータス……これらは配下にいる人物の中で各種最高の能力を持つ人物のがコハル様に与えられます』
『保有マナでしたらソフィアのが、腕力や脚力ならソレルのが……と言ったふうにです』
「つまり、良いとこどりって事?」
『その通りです、ですが知能と知識に関しては外とは違い得られません。それと種族的特徴も得られないものと考えて下さい』
確かに、僕はウルさんの力を得てるわけだけど。あの時ウルさんがやったみたいに獣には変身できないな。
『次にスキルについてです、得られるスキルは先と違い配下にした者のスキル全てを得ています』
「具体的に何々持ってるの」
『はい、全てお答えすると【魔法威力強化】【魔法効率強化】【身体能力強化】【身体能力強化】【賛美曲】の五つです』
「同じ物二回言ってない?」
『違います、これは同じスキルを二つ所持しているのです』
『片方はウル、もう片方はソレルから。【身体能力強化】のスキルを得ています』
「なるほど、でも二つあっても重複するの?」
『はい、その通りです』
なるほど……と言うか本当に今更だけど、これ凄いかも……?
『はい、かなり。ですが二つほど注意点があります』
「注意点?」
『まず一つが、【リリス】は発動しなければ効果を得られません。ので不意打ちに十分注意してください』
「もう一つは?」
『【リリス】の力はあくまでも配下にした時の力で能力を得ます』
『配下にした者がその後に新たな力を得てもそれは得られませんし再度配下にすることもできませんのでご注意ください』
「な、なんか複雑だね」
『申し訳ございません』
「いやゼラが謝ることじゃないから……ま、大丈夫だよ!」
まあ、これだけ考えたって使うかも分からないけど。
知っとくだけなら得だよね。
★
あれから大体一時間弱ぐらい時間がたってようやく試験会場に着いた。
「着きましたぜ」
「ありがとうございます」
馬車から降り僕は受験票を片手に建物に向かう。
受付を済まし会場に入る。そこには大勢の人がいた。
う、浮いてないかな……。
いや……浮いている誰が試験会場にメイド服で来るんだよ。
と、とりあえず、少し端っこにいよう……。
そうこう考えているうちに時間になり、試験が始まる。
先ずは学科からのようだ。
と言ってもゼラでカンニングしてしまえばなんてことは無い難なく終了だ。
次は実技か、どんな事をするんだろ。
試験官らしき人が壇に上がる。
「これから試験に関する説明を行う……」
それから説明されたんだけど、随分と堅苦しい物だった。
基礎魔法の実践だったり、問題解決型だたっり、魔法の応用能力を試す者だったり。
何と言うか、対人戦があったり、試験官と戦闘したりとかあると思っていたんだけど、実際は受験生が傷つけられ無いようになってる。
まあ、当たり前か。そもそも魔法の実力を試したり上げたりする所じゃなくて、魔法を学ぶ所だもんな。
さて、今の今まで考えてなかったけど。何の魔法を使おう。二属性以上使うのは珍しいんだっけ?
『はい、世界でも貴重な存在ですが、今回は使用をお勧めします』
え?マジ?
でもさ冷静に考えて屋敷にいる令嬢の娘とその侍女である僕が同じ複数属性の魔法を使えるって何かが変じゃない?
『確かに、その可能性はあります。それにソフィアの魔法の実力なら一属性だけでも合格できるかもしれません……が合格できないかもしれません』
『そもそも、彼女の複数の属性を高い練度で扱えることを高く評価したのなら、もしかしたら……という話です』
そっか……楽観視していたけど、これは最高峰の受験だった。
あんまり手は抜いてられないな。
「では受験番号1~40番の方以外は一度退室を」
僕は……38番か。
「ここからは一人一人に試験官が着きます。指示に従い行動してください」
それから順番に試験官に着いて行く。
「よろしく、私が君の試験官だ」
パラパラと紙をめくる音が聞こえ、静寂が辺りを包み込む。
「38番だな?」
「はい」
「コハルか……良い名だ」
服装に突っ込みは無いのね。
「あ、ありがとうございます」
「では早速、まずは基礎から……」
受験官の指示に従い、次々と魔法を使う。
氷の魔法と炎の魔法を使った時には少し驚いていたようだけど、すぐに表情を戻し。
「なるほど、二属性……」
そうメモを取るだけだった。
案外、騒ぎにもならないな。他の人もこっちは気にしてないし。
その後、何も起きずただ試験は終わった。
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