第19話

ある日の夜。

私はいつものように孤児院に行き、子どもたちと遊んでから帰ろうとしていた。

「じゃあね、みんな」

そう言って孤児院を後にしようとすると、院長先生が私を呼び止めた。

「……リッカちゃん。ちょっと良い?」

「はい、何ですか?」

「ここじゃ話せないわ、こっちに」

「はぁ、分かりました」

そう言って院長先生について行き、院長室に入った。]



「それで、話とは?」

「ええ……言いづらいんだけどね。この孤児院閉鎖しようと思っててね」

「……え?」

院長先生の言葉に私は思わず聞き返す。

「元々孤児院に支援金を出してたバルトラムさんが事故で死んでしまったでしょ?」

「それで孤児院の大半を潰して幾つかの孤児院を重点的に支援したいって言われてね」



「この孤児院は閉鎖、ここにいる全員を他の孤児院に移そうにも全員分は見つからなくて」

「じゃあ、ここの子どもたちは……?」

私は院長先生に聞き返す。

「残った子達は私が引き取ってできるだけ……」



「じゃあ私がここにお金を入れます!だから」

「……リッカちゃん。気持ちは嬉しいけど貴方にも生活があるでしょ?」

「……っ」

私は言葉に詰まってしまった。確かに院長先生の言う通りだ。でも、それでも。

「何とかします……保証は出来ないけど。私が何とかしますから、お願いします!」

そう言って頭を下げる。院長先生は少し考えて言う。

「分かったわ、私もできる限りやってみる。でもねリッカちゃんは大人びてるけどまだ子供だもの。無理はしないでね」

「はい」

私はそう答えて院長室を出た。



そのまま宿に帰り計画を立てる。

「でも、どうしたら……」

「生活費に維持費にあいつらへの借金……どうやって」

答えは出てこない、院長先生に目標の金額を教えてもらったけどどれだけ考えても一ヶ月で稼げない。


「今までの報酬の低い依頼じゃだめ、もっと高ランクのを」

「食費も宿代ももっと安く」

「もっと、もっと稼がないと……」





次の休みの日、いつものようにリッカさんに会いに行った。

「お待たせしました」

「うん……大丈夫だよ」

「じゃあ行こっか」

そう言って歩き出すリッカさんの後に僕は付いて行く。

歩く速度は少し遅く、表情も暗い。

「ねえ、コハルちゃん。今日さ……その」

リッカさんは歯切れ悪く言い、何か悩んでいるようだった。



「……えっと、どうしました?」

一度問いかけてみるものの、すぐに答えは出た。

「!もしかして何か用事でもありました?」

「え!あ、うん。よくわかったね……」

申し訳なさそうにリッカさんが言う。

「なら、また今度にしましょう。いつでも付き合いますよ」

「今度って言うか……その」

リッカさんは立ち止まって言う。

「ごめん、暫く会えないかも」



「何か、あったんですか?助けれることなら……」

「ううん、大丈夫!それより今度会ったらさ……あの」

(コハルちゃんは優しいから……きっと言えば助けてくれる。でも私はこんなに優しい子に迷惑を……)

「リッカさん?」

「ああ、ごめん……ねえ、コハルちゃん。その、良いかな。もし本当に困った事があったら……その」

「はい、言ってください」

「あはは、即答……すごいね」



「僕にできる事なら何でもしますよ」

リッカさんは驚いた様子で僕を見る。

「だから何かあれば言ってくださいね。待ちますから」

「うん、分かった……ありがとうねコハルちゃん」

「困ったときはお互い様です。またいつか付き合ってくださいね」

「うん……うん。ありがと、じゃあねコハルちゃん」



そうして僕たちは別れた。リッカさんの背中は少し寂しそうだったが、何か決心したようにも見えた。

(本当に何かあったのかな……心配だ)




それから一か月、私はがむしゃらにクエストを受けた。

時間の許す限りにクエストを受ける、安全なものも危険な物も。

寝る間を惜しんでクエストに励み、依頼を受け続ける。

そんな生活を続けて私の体力と精神は限界を迎えようとしていた。



町の大通りを覚束ない足取りで歩き宿へと帰る。

私は人気のない路地に入り呟く。

「はは、やっと……やっと集まった」

孤児院の維持費、黒の鬣への借金、ようやく目標額のお金が貯まった。

今までにないような達成感を味わいながら宿への道を歩いて行く。



翌日になって私は早速孤児院へ向かった。

「院長先生!」

孤児院の前に着くと、院長先生に話しかける。

「あら、リッカちゃん。久しぶりね」

私は深呼吸をして心を落ち着かせてから言う。

「実は……その貯めたお金を持ってきました」

「……え?」

院長先生は驚いた顔をして私を見る。



「だから、もう大丈夫です。みんなは私が守ります」

そう言って私は持ってきたお金を院長先生に見せる。

「本当に……いいの?」

「はい、その為に貯めたんですから」

「ありがとう……本当に、ありがとね……」

院長先生は泣きながらお礼を言う。

「私も……頑張ってみるわ」



そう言って涙を拭うと、院長先生はお金を持って行った。

私はそれを見送ると、孤児院を後にした。

「これで……もう大丈夫」

私は宿への帰り道を歩きながら呟く。

「……んな訳無いか」

大丈夫なのは一ヶ月だけ、またこの生活をしなければ稼げない額。

でも……それでも、今だけは忘れよう。

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