第20話

この世界には携帯みたいな便利な通信手段が無いから文通だったりで連絡を取る。

『一応、かなり高額ですが会話ができる魔道具は一般的に販売されておりますよ』

「いくら?」

『そうですね、日本円で表すならざっと二百万円くらいですね』

「に……ええ!?」

よし、やっぱりこの世界の連絡手段は文通だな。



話を戻して、リッカさんから手紙は来ていない、それで一応いつもの待ち合わせ場所に来てみたんだけど。

「いないか……やっぱり」

まあ仕方ない、それならそれで僕は今日を楽しもう。




日が落ち始めたころ、孤児院の裏口から数人の男達が入ってくる。彼らは無造作に入り込むと、周囲の物を乱暴に扱いながら院内へと進んだ。空気が一変し、緊張感が漂う。

「あ、あのどちら様でしょうか……」

院長先生は勇気を出して男達に話しかける。顔には困惑と恐怖が入り混じっていた。

「あー、ここにリッカって奴が金を持ってきただろ」

「それ、寄越せよ」

院長先生は男達の威圧感に思わず後ずさりする。冷や汗が額を伝う。


「な、何を言っているんですか貴方達!あれはリッカちゃんが」

「うるせえな、さっさと出せよ」

そう言って男達の一人が院長先生に向かってくる。彼の言動には冷酷さが漂っていた。


「止めなさい、子供たちの居る場所で」

「うるせえババアだな、黙ってろ」

そう言って男達の一人が院長先生を蹴り飛ばした。体が宙に浮き、地面に叩きつけられる音が響く。


「あっ……!」

「お前ら、探せ」

そう言って男達は孤児院を荒らし始めた。物が倒れ、破壊の音が響く。


「止めなさい、あの子がどれだけの気持ちでそのお金を集めたか……」

院長先生が叫ぶが、男達はその言葉を無視して荒々しく動き続ける。


「貴方達には分からないの!」

「うるっさ、興味ねえよんなもん。俺達が欲しいのは金だ」

「おい、黙らせとけ」

男の一人が言うと、他の男たちが院長先生を押さえつけ口を塞ぐ。院長先生の顔が痛みに歪み、助けを求める瞳が悲しげに輝く。


「んっ……うっ……」

「殺しはするなよー」

そう言った男は院長先生をロープで縛り上げる。その視線には冷酷な決意が感じられる。

「じゃあ後は任せた」

そう言って男は去って行った。孤児院はその後も無情に荒らされ続ける。





まったのだろう。私はベットから起き上がり、軽く伸びをする。体がだるく感じ、精神的にも疲れていることを実感する。


服を着替えてお金を持ち、黒の鬣へと向かう準備をする。服装を整え、これからの決意を新たにする。


私は支度を済ませ宿を出てアジトへと向かう。その途中、私は見知った顔を見つけた。見慣れない場所で立ち止まっている院長先生に目を向ける。


「院長先生、何でここに?」

院長先生は私を見つけると、近づいて言う。その顔には涙が浮かび、悲痛な表情が広がっていた。

「ごめんね、リッカちゃん。ごめんね」

その言葉には深い後悔と痛みが込められている。


「ど、どうしたんですか?」

私は訳も分からず返す。院長先生の涙が、事態の深刻さを物語っていた。

「貴方が持ってきてくれたお金が……お金が取られたの!」

「え……」

お金が、取られた?なんで。どうして。


「急に冒険者の身なりをした男達に……貴方のお金が」

院長先生が言う。そこには無力感と絶望が滲んでいた。

「あ………」

何で?どうしてバレるの?奴らに事情が割れてる訳が無いのに。いや違うそこじゃない……あいつらは!あいつらは!


怒りがこみ上げてくる。奴らは私から大切な物を、大切にしたい物を奪って行ったんだ。胸の奥で激しく燃え上がる怒りを押さえつつ、私は院長先生に強く言い聞かせる。

「待っててください、院長先生。私が絶対に取り返してみせます」

安心させなきゃいけないのに、我慢しているはずなのに涙がぽろぽろ流れていく。もう許せない、私の大切な物を奪うあいつらが。


「……ごめんね、リッカちゃん。本当にごめん」

泣きながら院長先生は言う。

「謝らないでください。絶対に取り返します」






今までにないような怒りを味わいながら黒の鬣のアジトへと進む。

アジトの入り口には男が立っている。

「何か言いたげだなリッカ」

「あんたら」

「おいおい、止めといた方が良いぜ。いつも通り金渡して帰りな」

「どの口で……言うのよ」

こみ上げてくる怒りをぐっとこらえ。

袋に入ったお金を手渡す。



「はっ、吠える割には随分すなおじゃねえか」

「まっ分かりゃ良いんだ」

そう言って男は振り返る、そして完全に私が視界から外れた瞬間。

腰から短剣を引き抜き、男の心臓を突き刺した。

「なっ……お前」

短剣を引き抜き即座に喉元を掻っ切り絶命させる。



私は乱れた呼吸を整える。

「殺さなきゃ、死ぬのは私とあの子達」

そう自分に言い聞かせ、アジトへと入る。

階段をゆっくりと降りる、そして目の前にある扉を開ける。



「ああ、やっぱり来たかよリッカ」

「一つ聞かせて、何で知ってるの?」

「何でかねえ……この一か月随分ギルドに出入りするわクエストをよく受けるわ。なんとなくわかるぜ」

「金が必要そうなのはな、で調べてみれば案の定……てっ訳よ」



「何でそんなに、小銭稼ぎに必死なのよソレル。あんた程の実力があればこんな小銭すぐ稼げるじゃない」


「俺は冒険者なんて危険な職じゃなく、安全に稼げる借金取りを選んだまでよ……なら客単価を上げるのは重要だろ」


「今まで何人、貴方の小銭稼ぎに犠牲になったの?」


「さあ知らねえな、色々のやり方あるからなあ。ざっと二百人くらいか?」


「……ホントにあんた、どうしようも無いほどの小悪党ね」


「好きに言えよ、俺は小悪党で構わねえんだから。そして、お前はそんな小悪党にどうしようもねえんだ」

「……返してって言ったら返してくれる?」

「返す訳ねえだろ、それより今月分のを受け取ってねえぜ」

ソレルが言い終わると同時に私は短剣で斬りかかる、それをソレルは剣で受け止める。



「おいおいどうした?そんなもんか?」

私はソレルの腹を蹴り飛ばす。

「はっお前はこれからもずっと、搾取され続けるだけの敗北者なんだよ」

ソレルが私の方へ飛んでくる、すかさず体勢を整えるがソレルの蹴りの方が速い。

「っ!」


私は避けきれず壁に叩きつけられる。

「おいおい、大丈夫かー?」

「答える必要は……」

私は言い終わる前にソレルの元へ飛び込む、今度は不意打ちが決まらず剣で受けられる。



「いいぜ、二倍にして返してやるよ」

ソレルが私を押しのける。

「くっ!」

私は体勢を崩した隙にソレルが蹴りを入れてくる。

「がっ……あ!」



私はそれをもろにくらい床に倒れる。

「まあお前は大切な札束だからな、これからの冒険者家業に支障が出るような事も殺しもしねえよ」

「だから、安心して俺に嬲られてな」

そう言ってもう一度ソレルが私を蹴り上げる。

そして私を仰向けにすると馬乗りになり首を絞める。

「ほらよお!いつも見たいに強気はどうした、あぁ!」



「っ……かは」

私は必死に抵抗するが、ソレルの馬鹿力に敵わず徐々に意識が薄れてくる。

もう、だめ……意識が……

「リーダーやりすぎだぜ死んじまうよ」

「そうそう、リーダー」

そう言いながら取り巻きの男と女が止めに入る。

「っと……確かにな」



「それにしてもセシリオの奴はどうしたんでしょうね」

「殺されたんだろリッカに……ドンくせえ奴だし。ま、あんな奴どうでもいいがな」

「そ、そうっすか。リッカはどうします?」

男は若干引きつつソレルに聞く。

「どっかに捨てとけ、生きてさえいりゃいいだろ」

「りょ、了解っす」

男はソレルに頭を下げるとリッカを担いで部屋を出て行く。

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