第17話

数日後、いつも通りの仕事をこなしていると旦那様に声をかけられた。

「何度も済まないね、コハルちゃん」

「パパ、速く本題に」

ソフィア様が旦那様にそう急かすと、おもむろに話を始める。

「バルトラムについて決まった事があってね……」

「彼の死因は、馬車の転落事故による物になった」

旦那様は続けてそう言った。



「彼の悪事、計画については世間一般には公開されない。行政機関の信用を落としたくないんだろう」

「それに伴い、君たちがやった事も無くなる」

「……分かりました」

「ありがとう。……よし、これ以上先は大人のやる事だ」

「時間を取って済まないね、これで終わりだよ」

「はい、失礼します」

そう言って僕は部屋を出る。





ソフィア様と二人で屋敷を歩く。

「ねえコハル、ちょっと付き合ってくれる?」

ソフィア様はそう言って僕の前を行く。

「はい、大丈夫ですよ」

「そ、じゃあ行こ」

そしてソフィア様の後をついて行く。

屋敷を出て馬と馬車を手際よく準備していく。

「コハルは馬車の操縦はできる?」

「……経験も無いです」




「なら私がその、教えてあげるから」

「その、はいお願いします」

「乗って」

そう言ってソフィア様が先に乗り、僕もそれに続いて隣に座った。

「手綱を持って」

言われた通りに握ると、ソフィア様が僕の手を上から握りゆっくりと動かし始める。

「こうすると馬が動くから」

「は、はい」

僕はソフィア様を意識しながらも手綱を動かす。

「あっ!」

そして馬が動き出し、その勢いで体勢を崩すが、ソフィア様が僕の手を掴み何とか堪える。



「大丈夫?コハル」

「……あ、ありがとうございます」

顔が近い。心臓の鼓動が早くなる。

「しっかりしてね」

そう言って微笑むソフィア様を見て僕は顔が赤くなる。



「どうしたの?大丈夫?」

ソフィア様はそう言って僕の顔を覗き込んだ。

『コハル様、やはり人間は欲望に忠実です』

(うるさいよ!)

「だ、大丈夫です」

「そう……じゃあ続きね」

再び手綱を握らせてくれる。今度はしっかり握り馬を動かした。





「やっぱり覚えるのは速いわね」

ソフィア様は感心するようにそう言った。

「ソフィア様が教えてくれたお陰ですよ」

「そ?なら良かった。……じゃあ行きましょ」

ご機嫌なソフィア様を見て僕は安心する。



ソフィア様に付いて行くと一際大きい建物にたどりつく。

その建物の中は賑わいで満ちていた。市場のような場所で、商人たちが商品を並べ、買い物客たちが忙しく行き交っている。

ソフィア様は自信に満ちた足取りで中へ入って行く。

「ソフィア様、何か買うんですか?」

「そうね」

そう言って辺りを見回し商品を探す。

暫くして一つを選び商人の元へと持って行った。

そしてお金を払うと、こちらに戻って来た。

「はいこれ」



ソフィア様は手に小さな袋を持っており、僕に手渡した。

「これは?」

「開けてみれば分かるわよ」

言われた通り袋を開けてみると、そこには綺麗な花の髪留めが入っていた。

「髪留め?」

ソフィア様は微笑み、僕に言う。

「コハルにあげる」

「い、良いんですか?こんな高価そうなもの」

「ええ、勿論。コハルに似合うと思って買ったんだから」

髪留めを手に取り、僕はそれを見つめる。



「……ありがとうございます、大切にします」

「じゃ、付けてあげる」

そう言ってソフィア様は髪留めを手に取り、僕の髪に付けてくれる。

「うん、可愛い」

満足げに言うソフィア様。

「ありがとうございます」

僕は改めてお礼を言った。そしてソフィア様は言う。



「コハルは可愛いんだから、もっとおしゃれをするべきよ」

「そう……ですかね?」

おしゃれね、まあどっかの女神のせいで出来ないけど。

『そうですよ』

僕の疑問にゼラが答える。

(ゼラ、おちょくってる?)

『まさか』



そんなやり取りをしていると、ソフィア様が言う。

「さ、行くわよ」

「はい、行きましょう。ソフィア様」

その後、ソフィア様と買い物を楽しみ屋敷へと戻った。

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