第13話

ソフィア様が去った後、僕は部屋に戻っていた。

「考えってなんだろ……でも上手く行って良かったよ」

『そうですね』

「ゼラもありがとね」

『コハル様の命は私の至上命題ですから』

そんな話をしているとコンコンと扉を叩かれる。



「コハルちゃん、良いかな?」

旦那様が僕の部屋の扉を叩き、呼びかけて来る。

「え、あはい!」

僕がそう言うと旦那様が部屋に入ってきた。そして僕の前で止まり。

そしてそのまま頭を下げた。

「ありがとう、本当に。娘の命を救ってくれて」

「そんな、頭をあげてください」

旦那様を立たせようとするが、頭を上げない。



「あの子は昔からずっと一人でなんでも何とかしようとしてきた」

「父親として、もっと相談に乗るべきだった。今回の事でそれを痛感したよ」

旦那様の目には涙が溜まっていた。

「本当にありがとう」

「はい……」

僕はそれから何も言えなくなった。

「謝礼はいくらでもしよう、本当にありがとう」



「旦那様……顔を上げてください。お礼はいつか受け取ります。それより今日はソフィア様の傍にいてあげて下さい」

「ああ、そうするよ。ありがとうコハルちゃん」

旦那様は頷き部屋を出て行った。

「良かった」

僕はそう言ってベッドに横になる。

「今日は疲れた、とにかく寝よっと」

『そうですね、お疲れ様です』

ゼラがそう声をかけると僕もそのまま眠りについた。





翌朝、目が覚めるといつもの天井が見える。

(おはよう、ゼラ)

『おはようございます』

そう言って僕は体を起こし、目をこする。

覚めた目で辺りを見回すとなぜかソフィア様がそこに立って居た。

「・・・お、おはようございます」



唐突な事態に驚きながらもとりあえず挨拶をする。

「おはよう、コハル」

そんな声が聞こえた気がした。そしてそのままソフィア様が僕に抱き着くように倒れてきた。

僕は慌ててそれを受け止める。

「え、あ、あの~」



僕が混乱しているとソフィア様は顔を上げて言う。

「ありがとう、言い忘れたから言っておくわ」

その顔はとても綺麗な笑顔だった。

その笑顔を見た瞬間になぜか顔が熱くなった。



僕は思わず顔をそむける。するとソフィア様は少し笑った後に言う。

「下、早く来てね」

そう言って部屋を出て行った。

「え?あ、はい?」

僕は呆然としつつ返事をすることしかできなかった。

『コハル様』

「何?」



『女性同士の恋愛も、私はありだと思います』

「……元々は男だよ~だ」

そんなやり取りをした後、僕は着替え始める。

そして手早く準備を終えるとリビングに向かった。





「おはようございます」

僕がそう挨拶をして中に入ると旦那様方が朝食を並べている最中だった。

寝過ごした、と思いながらそそくさと入って行くと。

「コハルちゃん、今日はこっちだよ」

アイシャさんがそう言って手招きする。



「へ?」

情けない声を上げながら辺りをよく見るとアイシャさんもセイラさんも旦那様方と並んで食事をしていた。

「昨日は家に帰ってたから知らなかったが皆から聞いたぜ。よくやったなコハルちゃん」「ほら座んな、腕によりをかけて振舞った朝食だ」

アレツさんが僕の背中を叩かれ僕は言われるがまま席に着く。そしてソフィア様が僕に言った。



「私の隣、空いてるわよ」

そう言って手招きをする。

僕が困っているとアイシャさんやセイラさんも言う。

「こっちおいでよ~」

「早よせい、飯が冷めるぞ」

「あ、はい」

そう言って僕は席に着き食事を始めた。





「コハルちゃん、ちょっといいかい?」

朝食を食べ終えた僕に旦那様はそう話しかけてきた。

「はい」と返事をすると、旦那様へついて行く。

そしてついて行った先の書斎ではソフィア様が待っていた。

そして旦那様は話し始める。

「今回は本当にありがとう、娘の命を救ってくれて」

「そんな、何度も」

「何度でも言う事さ、まあそれよりだ」

旦那様はそう言うと話を変える。



「ソフィアから話は聞いたよ、バルトラムだね。僕の権限で調べられるところまで調べておくよ」

旦那様はソフィア様の方を見る。

「ソフィアもこれ以上危険なことはしないように」

「……分かってる」

旦那様は安堵の表情を浮かべながら言う。

「そう言ってくれるとありがたいよ、コハルちゃんもそれでいいかい?」

「はい、大丈夫です」

僕がそう言うと旦那様は安心したように笑う。



「ありがとう。それともう一つコハルちゃんに頼みたい事があるんだ」

「はい、なんですか?」

「今回の事、いやそれだけじゃないけど。ソフィアは僕たち親の知らない所で無茶をする」

「だから、コハルちゃん。ソフィアの付き人になってはくれないかな」

「えっと……」

突然の申し出に戸惑う。僕はソフィア様の方を見た。

するとソフィア様は口を開ける。

「コハルが嫌なら」

「嫌じゃないですよ」

僕は思わずその申し出に答えていた。すると旦那様は笑顔になる。



「良かった、ありがとうコハルちゃん」

「ソフィア様が無茶しないように僕が守ります」

旦那様はその言葉を聞くと嬉しそうに笑う。

「でも、付き人って何をするんですか?」

僕が質問すると旦那様は説明を始める。



「暫くは変わらないけど、ソフィアがストバード魔法学園に入学したら僕達の親の目は届かなくなる」

「まあ、それでも良いのかもしれないけど。親としては心配でね。コハルちゃんも付いて行って身の回りの世話をして欲しいんだ」

「……それは、ここを離れるって事ですよね?」

僕は少し寂しそうに言った。それを見た旦那様が申し訳なさそうに言う。

「そう、だね。コハルちゃんが良ければだけど」

「……分かりました、ソフィア様。お供させていただきますよ」

「じゃあ決まり」



旦那様がそう言おうとした瞬間ソフィア様は遮ってそう言った。

「違うわ、コハルは私と同じストバートに入学する。そこまで付いて来て」

僕が戸惑っていると旦那様が言う。



「まあ、それも有りかな。コハルちゃんが付いて来てくれるなら安心だしね」

「えっと、僕程度が入れるんですか?その学園って」

「私と同じ力を持っているのに程度っていうの?」

「あ、えっと確かにそうですけど」



「学力試験なら私が教えるし、大して難しい物でもない」

「それともちろん入学費用もこちらが請け負うよ」

そう言って旦那様とソフィア様は僕の方を見る。その顔は少し笑っていた。

「……はい!よろしくお願いします」

僕も笑顔でそう答えたのだった。

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