第10話
『起きて下さい、コハル様』
ゼラのその呼びかけに反応し、僕は目を覚ます。
「!ソフィア様は?」
『何処かへ行かれました』
「追いかけないと、何か胸騒ぎがする」
『ですが、心当たりはあるんですか?』
「分からないけど……待っていやある」
ソフィア様の部屋だ、何か隠してるならそこにある。
僕はソフィア様の部屋へと向かい扉を開く。
「ごめんなさいソフィア様。後で片付けます!」
そう言って部屋に入る。暫く部屋の中を探すと机の引き出しの中にそれはあった。
『何かの計画書でしょうか……ですが余りに適当。それに……』
そこに書いてあるのは、この街の人を犠牲にし何かを召喚するという物だった。
「違う、ソフィア様の字じゃない。それにこの書き込み」
計画書には元々あったとは思えないような、不自然な書き込みがあった。
「こっちはソフィア様の字だ……」
そこにはソフィア様の字でこう書いてあった。
「黒幕はバルトラム?」
「はぁ……はぁ……」
息を整え、ゼラに問いかける。
「ゼラ、バルトラムの屋敷まで道案内お願い」
『ですが、ここからバルトラムの屋敷まではかなり離れております。コハル様の運動能力と体力では。夜が明けても着きません』
「じゃあ、ソフィア様はどうやって!」
『魔法です、ですがコハル様は魔法を使えません』
『諦めてください。今から向かうとしても事は終わっていましょう』
「でも、僕は」
『……もう時間がありません。私はコハル様の意思を尊重します』
思考を回し考える。
「まだ、ある。可能性ならまだある」
それに賭け、僕は階段を駆け降りる。
『コハル様、何処へ』
目的の所につき、行きよい良く扉を開ける。
「ウルさん」
「……コハル?こんな時間になんだよ」
「僕の配下になって下さい」
「ソフィア様が危ないんです、お願いします」
そう言って僕はウルさんに頭を下げる。
「は?え?ど、どゆこと?」
「ソフィア様が危険で?私がコハルの?配下?」
「???」
「あ、えと。すいません突然」
「えっと、ウルさん。説明してる暇はないんです」
「お願いします」
「??えと、わ、分かったぜ」
「ありがとう」
僕はウルさんの手を握り、スキルを使う。
「【上立者】」
「これで大丈夫です」
「待て、ソフィア様が危ないんだろ。私も行くぜ」
「ありがとうございます、お願いします。先に言ってます」
そう言い残して僕は走った。
★
「うがああ」
変貌を遂げたバルトラムに恐怖する。
(何よあれ)
ハエと人からなり、背中から羽が生える。そして腕からは肥大化した鋭い爪が生えたその容姿に。
「食わせろおおおおおおお」
バルトラムは既に理性を失っているようで全てをなぎ倒しながら私の方へと走ってくる。
爪を振り下ろしてくるバルトラムに氷剣で受け止める。しかし、受け止めた瞬間には砕けていた。
瞬時に後ろに下がり氷塊を打ち込むも効果は無い。
先とは違う、ただの化け物になってしまったバルトラム。
だけど臆さない、私はここで死ぬ訳には行かないのだから。
「【縁炎】」
魔法を使い炎を飛ばすと、その炎はバルトラムに直撃した。
「うがあああああ、燃える、燃えるうう」
「炎は嫌いみたいね」
この姿になる前も炎の魔法は避けていた。
魔法による炎は有効の様だ。なら、手はある。
「その体が燃え尽きるまで何度でもプレゼントしてあげるわよ」
バルトラムがその巨体でこちらに走ってくる。
今度は直接は当てず、地面に炎をまき散らす。
バルトラム炎を避けるために大きく横に移動する。
私は炎で巨大な槍を作り、それを放つがバルトラムのハエに防がれる。
炎魔法が食べられることは無いが、ただの壁としての機能はあるようだ
次に放つ魔法の準備をしながら走る。
逃げながら魔法を放ちバルトラムに攻撃しダメージを重ねる。
バルトラムの体は少しずつ燃え尽き、欠損部分が多くなっている。
(行ける!このまま行けば。勝てる)
そう確信した瞬間だった。
魔法が出ない。
(マナ切れ?何でまだまだ余力はあるはずなのに!)
そうしてマナを切らして初めて気づいた。
(マナを吸われてる……)
バルトラムは周囲のマナを吸っていた。
私のマナは枯渇し、バルトラムのマナが溜まる。
「うがああ」
そしてすぐに攻撃を仕掛けてくる。
「しまっ」
反応が遅れる、それは致命的なほど。
バルトラムの爪がわき腹を抉る。
「あ゛あっ」
痛みが来る、だがそれを無視して走らなければいけない。
(今を生きるために冷静になれ!距離を取ってマナの回復を)
そう思い、私は走り出す。
★
僕はただひたすらに走っていた。
(ウルさんの運動能力と体力を借りて、走ってるけど。あとどれ位で着く!ゼラ!)
『あと二十分ほどかと……ですがもしかした後十分で行けるかもしれません』
(ほんと!?)
『後ろをご覧下さい』
(後ろ?)
ゼラに言われた通り後ろを振り向く。
すると、そこには狼がいた。いや、あの面影は間違いなくウルさんだ。
「乗れ!コハル」
(ウルさん、ありがとうございます)
「お願いします!」
僕はウルさんの背に乗る。
「奥様も旦那様もセイラもアイシャも全員起こした。一大事なんだろ」
「はい!」
ウルさんの背中に乗って駆けて居ると、森の方で轟音と木々がなぎ倒されているのを発見する。
「ウルさんあそこに!」
「分かったぜ!」
そう言って速度を上げる。すると前方に人影が見える。
「避けて下さい!」
その影は風の魔法を使い僕たちを攻撃した。
バランスを崩した僕とウルさんは転倒してしまう。
「行かせねえよ」
そこに居る男はそう言って僕たちの前に立ちふさがった。
「バルトラムは大罪に飲まれた、それで希代の魔術師も死んでくれれば。この計画を引き継げるのは俺かも知れねえ」
「誰もその邪魔はさせねえ」
「コハル、早く行け!」
「ウルさん!」
「ふん獣人をなめんな。男一人ごときに負ける私じゃないぞ」
「頼みます!」
そう言って僕は走り出す。
★
バルトラムはその巨体のせいで木々が進行の邪魔をしてくれる。
そのおかげで距離は離せた、けど。
(まさかここまで)
私は肩で息をしながら地面に膝をつける。
もうマナも切れて魔法は放てないが、体はまだ動く。
(ここで、死ぬのかな。私)
そう思うと自然と涙が流れた。
「誰か、助けて」
今更過ぎる後悔に、私は嗚咽を漏らす。
「……助けて」
その時その足音が聞えた、見覚えのある人影がその奥から大きくなっていく。
「人が人に手を差し伸べる時、その手が届く距離にいるとは限らない」
「でも、僕は幸運です。貴方に手を差し伸べれる所にいたから」
「助けに来ましたよ。ソフィア様」
そう言ってコハルは私に向けて手を差し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます