第9話
「襲撃の犯人が見つかりました」
バルトラムは男の報告を受ける。
「ようやくか。それで?」
俺はそう答えたが男は続きを話さない。
「それが、ソフィア・アーネスト。アーネスト家の令嬢でした」
「……そうか。希代の魔術師か」
「始末しましょうか……」
「ハッお前らが言っても返り討ちだ」
「ですが……」
男のその言葉に吹かしていた葉巻をへし折って答える。
「お前らが無能なせいで、俺がどれだけ苦心したか分かるか?」
「地下室の存在がばれる、襲撃者一人にどれだけの苦戦をした?それになんだ取られた証拠の詳細が分かりません?」
「お前らの無能さには頭が痛くなる」
「……悪い忘れろ」
「申し訳ございません」
「希代の魔術師の事は俺が出る、お前らは俺にもしもの事があったら動け」
「しかし!」
「黙れ、これ以上俺をイラつかせるな。……命令だ」
「承知しました……」
そう言って男は部屋を出て行った。
「ふう……希代の魔術士か」
「全く、クソガキが。下手な正義感で首突っ込んできやがって」
「あら、随分な言われようね」
ガラスが音を立てて割れ、そこからソフィアは現れた。
★
「……一つ言わせてくれ、お前はなんで俺を調べた。それとも地下室をたまたま発見したのか?」
バルトラムの質問に私は答えた。
「そうね、顔が気に入らないからかしら」
「今どきのお嬢様は口だけ達者が流行りなのか?」
「そうかしら」
「まあいい、それで。俺をどうするつもりだ?殺すのか?」
私は首を縦に振る。
「ええ、もちろん」
「馬鹿だな、そんなリスクを負わずとも。国にでも突き出せばよかったじゃないか、お前が奪った証拠品を」
「それをしないってことは、出来なかったか」
「リスク?あなたを殺す事にリスクなんか無いわ」
私はそう言って魔法を発動する。
「消えなさい」
そう言いながら氷塊をバルトラムに放つ。
しかし、その攻撃は叩き砕かれた。
「後悔しな、お嬢様よ」
魔法は失敗に終わりバルトラムは加速する。
魔法で防御を固めるがその右フックは私を屋敷の外へと吹き飛ばした。
「こんなもんか?希代の魔術師!」
「全く、なんて馬鹿力」
私は空中で体制を整えそのまま落下する。
しかし、地面に衝突する前に再び魔法が発動し私の体は浮き上がる。そしてゆっくりと地面に着地した。
「なるほど、別の属性が使えるって言うのは本当か」
バルトラムは感心したように私を見る。
そんな言葉を気にも留めず、氷塊と風の刃を作りバルトラムに向かって放つ。
「
その声と同時に夥しい量のハエが私の魔法をかき消した。
「やっぱり、魔法を食べるのね」
バルトラムの能力はハエを操る。
なら、そのハエを潰せばいいだけ。
「【縁炎】」
私の右手で円を描き、その軌跡に炎があふれ出す。
魔法をバルトラム放つ、それを避け私に肉薄する。
その拳を氷壁で防ぐがバルトラムの拳は氷壁を貫通する。
だが、その先に私は居ない。即座に裏に回り込み蹴りを放つ。
しかし、それはハエの群れに防がれた。
「甘いな」
したら再度氷壁を作り、今度はバルトラムを覆うようにし視界を塞ぐ。
「数秒の時間稼ぎにもならねえよ!」
一瞬で氷壁は砕かれるが、その一瞬が欲しかった。
作り出した炎の槍をバルトラムへと放つ。
横へは氷壁で避けられない。
「クソガキが!」
そう言ってバルトラムは拳に力を込める。
拳は放たれ、真正面から私の槍を砕いた。
槍が砕かれた瞬間、爆発し爆炎がバルトラムの視界を塞ぐ。
その瞬間にバルトラムのわき腹を氷剣で突き刺した。
「がはっ!」
「このっ!」
バルトラムは腕に力を込める、それを察した私は手を離し距離を取る。
「逃がすか」
しかし、私の想定よりずっと長い踏み込みで追いつかれてしまう。
「蹴り殺してやるよ」
バルトラムが右足を大きく振り上げる。
瞬時に氷を伝らせその足を止める。
「空中でその氷を壊せる?」
バルトラムは氷に気を取られている今が勝機。
氷で籠手を作り風の魔法で後押ししバルトラム目掛け拳を振るう。
「ガキがっ!」
籠手は砕けたが、その一撃はバルトラムの鳩尾を捉えた。
だがそれもバルトラムはこらえた。
瞬時に後ろに下がり距離を取る。
「……どいつもこいつも、才能ある奴ってのは良いよな」
「生まれた時から勝ち組だ、全く嫌になるぜ。俺の半分程度しか生きてねえガキが俺より強いんだからよ」
「貴方ごときに私の才能を語らないで欲しいのだけれど」
「うるせえ、てめえは殺す」
そう言うとバルトラムの雰囲気が変わる。
「
そう呟いたバルトラムの体は変貌を遂げた。
その姿はハエと人からなり、背中から羽が生える。そして腕からは肥大化した鋭い爪が生えた。
(大罪に飲まれる前に、こいつを……あ?)
「う、うがあああああああ」
咆哮をあげるバルトラム。その姿に理性は感じられなかった。
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