第8話

それから二年ほど経ち、今から数か月前。

この街にバルトラムが現れた。

名も挙がっていなかったのに急に統治者になり。

税を減らし孤児院を作ったり、今まで出来なかった子供への教育を無償で行うようになった。

その行いは噂を呼び、街の人からも信頼されるようになった。

「一体何を企んで……」

明日からだ、明日から私は奴を徹底的に調べ上げてやる。

それが私が今できる、唯一の事。





「おはよー!」

アイシャさんの大きな挨拶で僕は今日も目を覚ます。

「おはようございます」

朝食を食べ終わるといつも通りの日常が始まる。

掃除、洗濯、庭仕事。アイシャさんやセイラさん、ウルさんと一緒に仕事をする。

二週間で慣れてしまうようなそんな日常だ。

「コハルちゃん!洗濯が終わったら今度は旦那様にお茶の用意お願いね!」

「はい!」

そう言ってアイシャさんは洗濯物を持って庭から家に入る。

僕もそれを追いかけて家に戻り、お茶を淹れる準備をする。

旦那様にお茶を届け、アイシャさんに指示をもらおうかと言うとき。

隣の部屋の扉が開いた。



「……おはよう」

それはソフィア様だった。まだ眠いのか目をこすっている。

「おはようございます」

僕が挨拶を返すとソフィア様はそのまま僕の横を通って階段を降りる。

「あ、そうだ。コハル、私にも一杯入れてくれる?」

そう言ってソフィア様はダイニングカートの上に置いてあるカップを指さす。

「あ、はい!」

僕は急いでお茶を淹れる。

ソフィア様から飲み終わったカップを受け取りダイニングカートに置く。

「……ありがとコハル」

そう言って笑顔を浮かべるソフィア様、でもどこか気ごちないその笑顔は僕の胸に不安を残した。



その日の夜。

皆が寝静まる時間帯、私は家を抜け出して歩みだす。

暫く歩いて、着いたのはある教会。

その教会はバルトラムが立てた教会、その扉を押す。

「誰だ!」

神父が私に気付く、私はそれに構わず中に入った。

「これは、お嬢さん。どうしたのかな」

態度を改め神父は私に話しかける。

「道に迷ったのっ!?」

スピードを上げ神父を押し倒し、氷魔法で拘束する。

「地下室は何処?」

「な、何の事」

「答えなさい!」

私は魔法で神父の左腕を凍らせた。

「うあああ!分かった!案内するからやめてくれ」

神父は地下室への入口を指さした。





神父に案内させ階段を降りる。

すると扉をひとつ見つけた。

「開けなさい」

「……分かった、分かったさ」

そう言って神父は扉を押す。

すると中から二人の男がこちらに襲い掛かってくる。

「馬鹿め小娘が!」

「邪魔」

男たちは一瞬で氷漬けになり壁に張り付いた。

「な、何なんだお前は」

神父は怯えた様子で私に質問する。

「どうでもいい事を聞かないで」

そう言って私はこの地下室を漁る。



バルトラムが建てた建物には地下室がある。

最初に地下室を見つけ、中を調べた時にそれは出てきた。

計画書、それはこの街を犠牲に何かを召喚するという物だった。

でも、それだけでは証拠になりえない。

その為に色々な建物を回ったが、最初の日以降。何も出てこなかった。

それはどうやら今日もそうらしい。

「何もない……まあそうよね」

振り返り、神父の方を向くと。

「あ、ああ」

神父は腰を抜かし後ずさる。

私はそんな神父にゆっくりと近づく。

「知ってる情報、全部話して」

「は、話す!何でも話すから命だけは!」

そう言って神父は話し始めた。




話した情報を書き上げ、神父を口封じし地下室から出ようとした時。

人の気配に気づいた。相手も私に気付かれたのを察したのか逃げ出した。

「待ちなさい」

私はそれを追いかける。

このまま逃げられると、この襲撃の犯人が私だとバルトラムに伝わる。

何としてもそれは避けないといけない。

教会を出て男を追いかける。

だが、男の姿は何処にも無く見失ってしまった。

「……はぁ」

ため息をついてしまう。

こんな所で躓いている暇はない。私は自分の家に戻った。





夜遅く、皆が寝静まった頃に僕は目を覚ました。

理由は分からないけど胸騒ぎがしたからだ。

胸騒ぎに従うままに、外に出ていると。

息を切らしながら家に戻ってくるソフィア様を見かけた。

「ソフィア様?」

僕はソフィア様に話しかける。

「コハル?どうしたのこんな時間に」

「それはこっちのセリフです。一体どうしたんですか?」

「……何でもないわ、少し散歩していただけ」



そう言ってソフィア様は速足で僕の横を通り過ぎて行こうとする。

「待って下さい、その血はどうしたんですか?」

服に少量だが血がついている。

「……転んだだけよ」

「嘘、ですよね」

ソフィア様は僕に顔を見せようとしない。

僕はソフィア様の手を取る。



「コハル、離しなさい」

そんな声を無視し、ソフィア様に問いかける。

「話してください、何があったんですか。ソフィア様」

「僕は頼りないかもしれませんけど、何かあればできる事をします。だから……」

「もう誰にも頼らない、そう決めたの。……寝てて」

ソフィア様が魔法を放つ。それは僕に直撃し意識が飛びそうになる。

「待って、下さい」

かすれた声でそう呟くが、ソフィア様は止まらない。

僕は意識を失った。





バルトラムにもバレた。コハルにもバレた。

ならもう怯える必要も無い、証拠が得られないなら。

私がバルトラムを殺せば良い、もうそれしか方法は無い。

そう決意し、私はバルトラムの屋敷に向かう。


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