第8話 仕方のない殺人 2

 現代社会においてプライバシーは粗方無いと考えたならば少しは生きやすくなるだろう。可視化というか監視化というか目指したのは管理下なのだろうが、そうした統制の中には大規模な犯罪や事故は起こしにくい。


 ヘリが。

 燃えていた。


 補給地点として公安警察が派遣した中継基地。報道ヘリのような薄っぺらいヤツじゃない。自衛隊の不祥事を揉み消す代わりに代金として頂いたらしいチヌークがだ。

 応援部隊は流石に歴戦のエリートですぐさま消火活動を開始したがなにせ寂れた放置公園。消化管はあったが定期点検がされておらず錆水が中に詰まり稼働せず。廃村から消化ポンプを運び出したが時間が掛かり過ぎた為か火を消した頃にはフレームとプロペラと灼けた装甲板だけのオブジェクトとなってしまっていた。

 応援部隊は即座に退避手段として追加のヘリを要請。何者かがヘリを狙ったのだと仮定し部隊を三班編成に分けた。


 曰く。

 退避地点の死守

 拠点作成。

 廃村調査。


 である。

 ぼくは、といえば。

 灼かれてスクラップになったチヌークを調査していた。燃えたのは航空燃料に電装型から火花が飛んだで間違いはないが。

 気になるのは。

 側面の装甲板に開いた。

 クソデカい孔。


 (攻撃兵装が無い代わりに兵員輸送機は装甲板が厚い。戦車とはいわずとも装甲車クラスのアーマードだ)

 (それを人間の身体ぐらいに孔開けるか。尖った丸太を突き刺してもこうはならない)

 (連中、155ミリ徹甲弾でも撃てるのか?でも村には戦車もなければ野砲もなかった。そもそも大砲使ったら匂いと音で解る)

 (いよいよオカルト染みて来たな。さっきの女の子も撃たれて中から触手出してたし。イカとかタコとかの軟体生物か?)

 (ベトナムに居た時食べた、刻んだゲソと刻んだ青唐辛子をナンプラーで和えた小鉢が美味かったけど)

 (アナコンダより太い。このゲソを刻むのは不可能だな)

 あのときは吸血鬼が相手だった。

 村一つが全て眷属になっていた。

 しかし。

 今回の事件。

 近い匂いが無い。

 オカルト染みているが。

 人間らしさというか。

 人間臭さというか。

 やり方が陰湿なのだ。

 やり方が女子なのだ。

 (殺すに必要な装備も燃えちまった。手持ちでやるしかねえ。でも銛撃銃が使えねえとなると)

 (火薬も爆薬も無いんじゃ、即物的な火力を出すには質量弾しかねえ。銛に代わる何かをクラフトするしか死なないを殺すに至れねえ)

 (こりゃ、本家に支援要請が必要になるな。ぼくじゃ皆殺しは無理だ。道具が無いんじゃ仕事にならない)


 仮に相手が水棲生物だとして。

 公園付近は山と森であり。

 なんかデカいイカとかタコとかが気合を入れて此処まで来たならば這った痕が残る筈。

 蛇も同じだ。

 鱗が痕がになる。

 衝突痕がないのが悔やまれるが、装甲板に孔を穿つような兵器が何かは考えていても仕方がない。

 応援部隊の皆さんがテキパキ働く。 

 ぼくはヘリのグルリをウロウロ。

 なにか証拠はないか。

 ないか痕跡はないか。

 相手が解らないのが一番キツい。 

 そして。

 もし相手がアナコンダなら。

 ぼく等は終わりだ。

 丸呑みにされてごちそうさまでしたされる。

 「まあ、こんな寒い国にアナコンダがいるわけないか。それに蛇は頭突きをしない。しかしどうする?ヘリの装甲を貫くなんてのは対戦車ライフルぐらいなきゃ不可能だ」

 と。

 応援部隊の一人が。

 何かを見つけた。

 それは黒焦げだったし。

 それは丸焦げだったが。

 「これは……。ビーカーですね」

 隊員の方は、ぼくに礼で答えた。

 答礼で応じた。

 それが意味することを知らないわけではないが。

 「ビーカーがヘリ火災の凶器?内容物は何か解りますか?」

 解らない、らしい。

 無理もない。

 ヘリが灼けるような高温だ。

 蒸発したか揮発したか。

 少なくとも野山に放置された公園で専門家も専用施設もないようなら鑑定は出来ない。

 もしや。

 薬物火災?

 孔を開けるような爆発と?

 「あの村、金属ナトリウムはありそうでしたか?」

 ボイラーの冷却炉からならば。

 可能では、との意見。

 確かに学校があったか。

 小規模だが工場もあった。

 「ならば薬局や病院に薬品などは残されてましたか?市販薬でも良いので」

 まだある、らしい。

 なる程。

 ならば、可能だ。

 ヘリの装甲板を貫き。

 燃やすぐらいは。

 勿論。

 可能性の話だが。

 「考えたら公園周辺は針葉樹で葉が落ちても不自然ではない季節でしたね。可能性ではありますが、ヘリ破壊は証明出来ます。あの女の子が死ななかったのは説明さえ無理ですが、ヘリについてはオカルト無しでいけます。相手がオカルトでないならば、この部隊でなんとかなるでしょう。無論、ぼくも本家に応援を頼むようにします。今後、あの女の子が複数現れたならば対処出来ませんから」

 仮に、でしかない。

 だがヘリを破壊したのが人間ならば。

 証明は可能だし。

 もしヘリを破壊したのが人間ならば。

 ぼくはまだ彼等彼女等を。

 殺せる。

 


 

 


 

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