第9話 仕方のない殺人3
実は既に世界なんてものは終わっているのではないだろうかという思考に陥ることが珍しくはなく、その証左として殺人鬼に政治犯の暗殺を任せる国家の存在が挙げられるのだけれども。別に世界が終わろうが続こうが日々を必死に生きる人々にとっては観測外の出来事なのだろうから実感としては遠く、また観測外の出来事なのだろうから体感としては薄いのだろう。事実、世界はこうして続いているし社会もこうして持続しているし人々の観測範囲内である日常もまた変わらずのままなのだろう。世の中の出来事は全てが人間が想像する閾値の中でしか起こらず、世の中の出来事は全てが人間が重要なファクターとして生産するのだ。例えばこの廃村に危険なガスが充満していましたとしても危険予測の範囲内であるし、例えばこの廃村にイカれたおっさんがパンツ一丁でリンボーダンスを踊っていたとしても生活を彩るスパイスみたいなもんだろう。
観測出来るならば。
対処も可能だ。
それは人間の範疇に存在するから。
『本家を喚ぶって正気か?廃村が地図から消えるのは勿論、政府要人すら殺さねかねんぞ?』
「生存は諦めたほうが良い。今は村に潜む何者かが危険因子だと認識し機動防御ではなく攻勢を仕掛けなくては」
『けど、宮内庁がすぐ動くもんか?』
「厳密には宮内庁内部の陰陽部門すけど。チヌークを吹っ飛ばされた。それも薬品反応で、です。テロリストを相手にすると同等の気構えでなくてはコチラが殺される」
『金属ナトリウムと水の反応か。でもチヌーク吹っ飛ばすには火力が足りんぞ?軍用の装甲板で固めてんだから』
「金属ナトリウムにビタミン剤を混ぜて純ナトリウム剤にすれば、充分な爆発力を持ちます。爆発音が小さいのも純ナトリウム爆発の特徴だと言えますから」
『公園のグルリが雑木林でよかったわ……』
「オカルト的な何かが相手だとは思いますが知能を持ちます。何より女の子一人だけじゃなく複数人の“村民”がいると確定しましたからね」
ぼくが思考に陥るだけでなく。
現実として世界は終わりに向かっている。
終活をしている、と。
言い換えてもいい。
観測可能な範囲が。
拡がっているのだから。
『お前の本家。つまり宮内庁の暗部が動いてなんとかなるもんか?』
「最低ラインとして村に潜む何者かは外に出させません。最終的には灼いて更地にするのかと」
『おっかねえな……』
「それと支給して頂いた装備をロストしたので殺人鬼として持ち込んだ自前のヤツを使います。装備紛失の始末書は本家の事務方が代わりに書きますので」
小さな瓶と銃を模した注射機。
ぼくが殺人鬼として活動するに必要な装備。
もしくは正装で礼装。
『大丈夫か?陰陽術って身体に負荷かかんだろ?』
「そりゃ劇薬投与しなきゃなんで」
バックパックに入れていたケースから殺人鬼セットを取り出し装備を変更。
変更というか換装。
特殊部隊から、陰陽師へ。
ピストルホルダーに注射機を。
弾薬を固定するような円柱型のスペースには小さな瓶を。
それぞれ、セット。
『ガレリアンズ思い出すんだよな、お前が殺人鬼モードになっと』
「使うのは超能力じゃないんで」
『超能力みたいなもんだろ。自分を撃つからペルソナに近いか?』
「これゲームじゃないんで。リアルなんで」
『ゲームみてえなリアルになっちゃってんだよな。ただ殺人鬼として動こうとも指示は俺が出すぞ?』
「了解。そちらのドクトリンに合わせます」
リボルバーに近い形の注射機。
その回転式弾倉に小さな瓶。
薬剤の入った瓶を装填。
薬剤の色は透明な赤。
ぼくは銃口を首に充て。
そのまま引き金を引いた。
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