第6話 殺人鬼が殺せない存在 終

 応援部隊が到着したのは三時頃で、ヘリから降下したのではなくヘリそのものを補給基地として使えるようにと近隣の公園に着陸したらしい。其処からは公安お得意の力業で廃村を完全に孤立させ、徐々に包囲を狭めていくいつものやり方となった。

 それで良い。


 ただ不思議なのは住民が見つからないこと。

 その一点に尽きた。


 ぼくは斥候として応援部隊よりかなり先に進んではいたのだが、足跡やクルマのタイヤ痕が見つかるものの肝心の人間が何処にも見当たらなかったのである。


 見つかったものは村中に貼られた御守。

 それと海を祀る神社のポスター。

 ならばお祭りでもしているのかと神社を探しても何処にも社は存在せず、そもそもポスターで確認出来るような地形が此処にはない。山沿いの入り江を村にしているので海までの高低差がキツく、なにより社が撮影されたような広大な砂浜は確認出来ない。


 偽のイベントで盛り上がる。

 ありもしない神事で盛り上がる。

 これは珍しくはないが。

 村で見つかる御守は至るところに釘で打付けられ、ポスターにも御守と同じシンボルが描かれてあった。ならば神社は何処かにあるのだと考えたほうがいい。イタズラにしては規模がデカ過ぎる。溢れるように御守があるのだから。

 一人で考えていても限界だと部隊と合流をと道を戻った時だった。 


 先程射殺した少女の遺体が、無い。


 いや、あるにはあるし。

 正確には、いるにはいた。

 撃たれた箇所から“何か”を生やし。

 少女は奇声を挙げながら鉈を振り回し。

 応援部隊から、身体が痙攣するほどの弾幕で撃たれていた。


 流れ弾を回避する為に家屋で射線を切る。

 なんだ?

 ありゃ。

 確かに殺した筈だ。

 確かに仕留めた筈だ。

 鉈を追い打ちで突き刺しもした。

 何故、生きてる?

 それと。

 眼の銃創から生えてたの。

 あれ。

 蛸か?

 吸盤あったぞ?


 少女は蜂の巣も蜂の巣になるまで撃たれても倒れずに鉈を振り回す。やはり、被弾すると触手のような何かが外に飛び出ている。

 なんなんだ。

 少女が殺人犯という状況も。

 オカルトはオカルトで慣れてるが。

 二つ同時に来るのは想定外だ。

 

 社会人、大事なのはホウレンソウ。

 クライアントに相談である。

 

 「お疲れ様です。拳銃弾じゃ倒れそうにないですよ?」

 『部下から報告入ったが、鉈持った女の子が鉈振り回しながら襲ってきたそうだが?』

 「そうですね」

 『危な過ぎるから発砲したそうだが?

 「その通りです。遠目にですが現在進行形です」

 『なんで死なねーのよ?』


 ぼくが聞きたかった。

 九ミリは殺傷力が高い。

 フルメタルジャケット弾は貫通する。

 だから野生動物にも有効だ。

 毛皮や脂も苦にしない。

 なのに死なない。

 なんなんだ。


 『応援部隊がポンコツってわけじゃねえ。公安のエリートだしな』

 「これ、対人間用の装備じゃダメですね。今回は公安警察からの依頼でしたから装備もそちらが用意したものにしましたが」

 『ピュア殺人鬼として装備を変更するってか?劣化ウラン弾とかナパーム弾とか日本に悪影響が出るようなモンは使わせるわけにはいかねーぞ?戦争じゃねーんだから』


 政府の調査員は生存していまい。

 あんなのがいるのでは。

 ならせめて。

 あんなのを此処で皆殺しにしなくては。


 「銛撃ちのボウガンがあった筈です」

 『あんなの使うの……?』

 「本当なら村に焼けた硫酸降らして終わりにしたいです」

 『戦争じゃねーんだよ!』



 


 


 


 

 

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