夜郎自大

三鹿ショート

夜郎自大

 気が弱く、体格に恵まれていないゆえに、私が虐げられたとしても、不思議なことではない。

 使い走りの際には己の金銭を使わなければならず、支配者たる人々の憂さ晴らしとして暴力を振るわれたとしても、仕方の無いことだとして受け入れていた。

 彼らの前では、私は赤子も同然の存在だった。

 おそらく、この土地では、彼らに抵抗することができる人間は存在していない。

 彼らは阿呆だが、言葉で退治しようとしたとしても不可能なほどに、肉体的に強かったのである。

 だからこそ、私は彼らの言いなりだったのだ。

 そんな日々を送る中で、彼らは一人の女性に目をつけた。

 引き越してきたばかりの彼女は、彼らの悪評を知らないために、優しい言葉をかけてきた彼らに心を許してしまった。

 その結果、今では彼らの欲望の捌け口と化してしまった。

 彼らは醜い姿を隠そうともせず、彼女の身体を隅から隅まで味わっていた。

 当然ながら、私もまた彼女の相手をしても良いという許可が出ることはなく、彼らがまき散らした体液の掃除ばかりを行っている。

 彼女には申し訳ないのだが、感謝していた。

 何故なら、彼らの興味が彼女に移ったことで、私に対する非道なる行為が目に見えて減っていたからである。

 感謝の気持ちを抱いていたために、彼らの行為が終了した後には、何の意味も無い慰めの言葉を彼女に吐いていた。

 だが、私には彼女の態度が奇妙に思えた。

 あれだけ陵辱されたにも関わらず、彼女は平然としていたからだ。

 まるで衣服に付着した糸くずを取るかのように、自身にぶちまけられた体液を拭き取り、乱れた服装を直すと、私に声をかけ、その場を後にしていたのである。

 私が彼女の立場だったのならば、そのような態度を示すことはできないだろう。

 しかし、何故彼女は、何の問題も無いかのような様子なのか、私には分からなかった。


***


 彼らは飽きることなく、今日もまた、彼女の肉体を味わっていた。

 下卑た笑みを浮かべながら腰を動かしている彼らに対して、彼女が表情を変えることはない。

 もしかすると、彼女には二つの人格が存在しているのではないか。

 普段の彼女では、彼らの陵辱に耐えることができないために、別の人格を生み出すことで、心に傷を負わないようにしているのかもしれない。

 そのように考えたが、私は首を横に振り、思考を霧散させた。

 これまで私が見てきた彼女は、どのように考えたとしても、全て同じ人間だったからだ。

 では、何故彼女は、彼らの行為に耐えることができているのだろうか。

 答えを聞いたところで、私の日常に変化が生ずることはないだろうが、それでもその疑問が消えることはなかった。


***


 常のように掃除をしながら、私は意を決して彼女に問うた。

 何故平然と彼らの行為を受け入れることができるのかという問いに対して、彼女は彼らの体液を拭き取りながら、

「この土地に引き越してくる前の生活に比べれば、可愛いものですから」

 いわく、かつて彼女は、彼らよりも悪質な人間たちに囚われていたらしい。

 彼女に身体を売らせて生活費を得、その大事な資金源である彼女の身体に煙草の火を押しつけ、骨を折り、穴が存在していない場所に穴を作っては、その場所に自身の分身を挿入し、飲食物は道端に生えている雑草や糞尿ばかりであったなど、話を聞いただけで気分が悪くなるようなことばかりをされていたようだ。

 その人間たちの一人が別件で逮捕されたことで彼女の存在が明らかとなったため、彼女は無事に保護されたということだった。

 よく見れば、彼女の身体には、多くの傷跡が存在していた。

 そのような人間たちを思えば、確かに彼らの行為など、可愛いものだった。

 ゆえに、彼女は平然とした様子で、彼らの行為を受け入れることができたのだろう。

 だが、それは感覚が麻痺している。

 私から見れば、彼らの行為もまた、看過することができないものなのだ。

 だからといって、彼女を救うほどの能力は、私には存在していない。

 しかし、たとえそのような能力を持っていたとしても、彼らの矛先が彼女に向いていることを思えば、わざわざ彼女を救うようなことはしないだろう。

 私もまた、彼らほどではないが、悪しき思考の持ち主なのである。


***


 その後も、彼らの陵辱は続いた。

 だが、彼女の話を聞いたためか、彼らの行為が児戯のように感じられるようになった。

 しかし、彼女にとって彼らが大した存在でなかったとしても、私にしてみれば、彼らが最も危険な相手なのである。

 結局、私に出来ることといえば、彼らの行為の後の掃除くらいのものだった。

 其処で、ふと、私は疑問を抱いた。

「何故、きみは彼らの行為を受け入れているのか。大した相手ではないと考えているのならば、拒否することも出来るだろう」

 その言葉に、彼女は乱れた衣服を整えながら、

「引き越す前の日々は地獄のようなものでしたが、そのような生活に慣れてしまったためか、それなりの刺激を味わわなければ、私は自分が生きていると考えることができなくなってしまったのです。ゆえに、私が逃げることはないのです」

 彼女は私に頭を下げると、その場を後にした。

 残された私は、想像していた以上に彼女が壊れているということに気が付いたが、どうしようもないことだった。

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夜郎自大 三鹿ショート @mijikashort

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