二つの世界の王

藤澤勇樹

神父から王へ、運命の旅路

時は静かに流れる、小さな教会の中。


アルバート神父は、聖書を手に説教を行っていた。


長い白髪を少し束ね、深い青い瞳が静かな光を放つ彼は、村の人々から深く慕われていた。


しかし、彼の心には重い秘密が隠されていた。


神父は実は異世界の追放された王族の末裔であることを、誰にも明かしていなかった。


ある夜、神父は教会の中で静かに祈りを捧げていたとき、異界からの使者が現れる。


使者は幽玄な光に包まれ、人間離れした美しさを持つ銀髪の女性で、彼に真の使命を告げた。


アルバートは深いため息をつきながら、自分の運命について思いを巡らせる。


「アルバート様、あなたは真の王です。異世界は混沌としており、あなた様の力が必要なのです」

と使者は告げた。


◇◇◇


使者の言葉に動揺するアルバート神父。


しかし、彼は自分の出自と向き合うことを決意する。


それはただでさえ複雑な自身の人生に、さらなる波乱をもたらす選択だった。


「私はただの神父、静かに暮らしたいだけだ」

と言いかけると、使者は彼の心の奥底に隠された力と記憶を呼び覚ます。


「ああ、だが私の中には別の声が...」

とアルバートは葛藤する。


遥か昔、異世界での生活の断片が彼の脳裏に浮かび上がる。


神父は過去の記憶と葛藤しながら、自らの運命と向き合い、異世界に戻る決心をする。


彼は教会の秘密の地下室で、王族の証とされる古の遺物を取り出し、使者と共に異世界への扉を開く。


◇◇◇


異世界は想像以上に混乱していた。


緑豊かな大地は荒れ果て、人々は絶望に苛まれていた。


アルバートはこの世界を救うため、かつての友や仲間を集め、異世界の王座を取り戻す旅に出る。


しかし、彼の前には、異世界を我が物にしようと企む邪悪な勢力が立ちはだかる。


壮絶な戦いの中、アルバートは自分が持つ真の力を解放し、混沌を退ける。


「私の力は人を救うためにある。王族として、この世界を正しい道へ導く」

とアルバートは語る。


そしてついに彼は、異世界の王座に着く。


◇◇◇


王座に着いたアルバートは、異世界の復興に尽力する。


けれども彼は、自分が育ったあの小さな教会、そしてそこで過ごした平穏な日々を忘れることができなかった。


「どんなに時が流れても、私の心の中には常にあの教会がある。私の平和の源だ」

とアルバートは独り言を漏らす。


ある日、王となった彼は決意する。


「この力を持つ意味は、ただ支配することではない。異世界とこの世をつなぐ架け橋となることだ」と。


彼は異世界とこの世の間で、どちらにも属さず、両世界の平和を守る存在となる。


アルバートは、かつての自分と新たに見つけた自分の間の架け橋として、異世界の王として、そしてこの世の神父として、新しい時代の幕を開けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二つの世界の王 藤澤勇樹 @yuki_fujisawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ