第4話
「…こいつは高津 昇(タカツ ノボル)RACKの作った施設にいた1人だ」
「RACK?なんですそれ?!」
「さっきも言った特異能力…abilityを使う人間達を保護する名目で作られた部隊の名前だよ、部隊メンバーは極秘、そんな秘匿性だから極数人の権力者しか存在を知らなかった、保護施設名はEden」
「警察組織ですか?それは?」
「警視庁公安部、公安調査庁、幕府…今は内閣情報調査室、国防軍陸上部隊情報収集部それぞれが金を出し合って極秘で管理、運営してたんだ。それもごく少数でね」
「…ゴクン…なんか信じられないです」
加藤は生唾を飲み話を聞き入った
「この「ability」持ちがいつからいたかわからない、これはアタシの想像だけど…有名なのだと天草四郎とかその類だったかもね、海の上を歩いたとか資料にあるけどabilityを使い人を先導…恐らく歴史に名を残した人物はability持ちかそれを持つ人間を利用したか…まぁそんな事はどうでもいい、1945年に敗戦国になってGHQが統治しだした時に非公式だけど記録には1人目のability持ちが確認されたとある」
戸川はPCで画面を出した
映し出されたのは古ぼけた白黒写真に男性
「「長束 藤四郎」、abilityの能力は記録にない…特異能力者が当時の日本に居ると分かったら大変、何故かわかる?加藤?」
「…!!また戦争をする?」
「そう、戦争まではいかないだろうけど憎き欧米にはそうしたかもね、だから回避の為に当時の閣僚達はability持ちを保護し監視しようとしたが戦後処理と日本経済の立て直しが最優先でそこまでの力は無い、GHQの目もあったからね、だから目撃情報やそういった噂の人間を探す事から初めたのがRACKのはしりさ」
戸川は引き出しから個別包装のクリームソーダ味の飴玉を大量に出して口に放り込みつ続けた
「加藤も食べなよ、んでね、そんな悠長な事を言ってられない事態が後に起こったんだ…」
ーーー…ーーーーーーーーーーーーーーー
「〜〜ん、こんな綺麗な景色の所で話す内容じゃないね」
「大変な事って何が起きたんです?三日月さん」
神奈川のミナミハマ地区にできた海沿いの新しい商業施設のテラス席でソフトクリームを食べながらヒカルが聞いた
「ヒカルは甘い物を食べるのが似合うな〜、大変な事…ヒカルは知ってるかな…安銀服毒事件、4億円強奪事件、リンド&海大事件…75事件、八百万スーパー北斗銃撃事件とか公には迷宮入りと噂されている事件、あとは国家転覆を狙った宗教団体…」
「あ!4億円は知ってます!あと宗教も」
「4億円強奪の時、自称ability持ちと名乗る男が自首してきたんだ。「自分は特殊能力を持ってる、お上に監視されて生かされるくらいなら事件も能力も公表したい」って奪った4億円を添えて。もちろんそんな事はできない、民衆は混乱するからね。だから秘密裏に釈放したとあるが実際のところはね…そして公には偽のモンタージュをばら蒔いて火消し、ability絡みの事件は表沙汰にできないから未決事件として発表、民衆から深く追求されるのを嫌がり迷宮入り扱いにしたんだろうね、都市伝説的なオカルトやゴシップは案外本質をついてるかも。もちろんその時のability持ち達がどうなったかなんてわからない、そんな時なんだよRACKの骨組みが出来たのは」
三日月は響のハイボールを飲みながら続けた
「RACKのメインは当時、警視庁公安部のみで内調とかそこまで出張ってこなかったんだ、当時は警察だけで色々事足りてたし徹底的な秘密組織にしてお互い縦割りで区切った方が情報漏れのリクスもなく管理も楽だしね、そしてもっと大きく動いたのは例の宗教団体の国家転覆計画が露呈した時だ、時の幕府の閣僚達のほとんどはもちろんabilityの事なんて知らない、知っていたのは当時の警察庁長官と国家公安委員長、それと…老中長官くらいかな、これは警察のしかも公安出身者で権力を持つ者達のトップシークレットだったんだよ」
「なんでそれしか知らなかったんです?」
「口のはたにアイスが着いてるぞ」
三日月はハンカチでヒカルの唇を吹いて話を続けた
「さっきも言ったけど当時幕府の官僚は警察出身が占めていてねそのせいもある、それと今の内閣もそうだけど幕府中枢に別の宗教団体母体の政治集団が食いこんでいてね、そう簡単に処理できなくて後手後手に回ったんだ、だからあの宗教団体の暴走をとめられなかったんだよ」
「持ってないバカの集まりらしいね、弱い奴ら同士群れて数の暴力を使う…なのにギリギリまで事勿れ主義、責任の所在や立場が優先…卵が先か鶏が先かの議論の繰り返しであっちは良くてこっちはダメとか…くっだらない」
「ヒカルの言う通りだ、横槍があり法整備も無かったせいで内偵も捜査も遅れてね、結果地方一角を要塞化、銃器の密造、化学兵器製造、都心の列車テロの大惨事事件。最近やっと死刑になった教祖様は人の心を読むabilityを使い優秀な人材、特にability持ちを集中的に盲信させた、見事だと思ったよ。時の幕府将軍は激怒してね、RACKの強化に力を入れた。その時からさっきも言った組織の優秀な者達だけを選抜し対処に当たらせたんだよ」
「そうなんですね…やっぱり目的は監視だったんです?」
「初めはね…でもあとはヒカルが知っての通りの組織に成り果てた」
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「組織の暴走…ですか…」
加藤は冷蔵庫にあったペットボトルの水を飲みながら聞いていた
「保護、監視…生かすには金がかかるしability持ちでも人間だ、欲も出る。あれが欲しいこれが欲しい、自由が欲しい…面倒になったRACK上層部は方針を変えたんだ、いかにもコストをかけずability持ちを有益に使いこなせるか…」
「その答えが…」
戸川も唇を噛み締めながら続けた
「人体実験…薬物で洗脳、政府に従わないability持ちは頭を開けて解析、遺伝子レベルで研究、相手は「人に非ず」としRACKに収容された時点で死亡扱いか失踪扱い…ability持ちが確認されてるのは何故か日本が多かった、だから戦争利用も兼ねてだよ」
「聞いてて反吐が出ますね」
加藤が机を叩いた
「当時RACKには1人ずば抜けて優秀な人がいた、その人はRACKでは本当にability持ちは保護されていると思っていたんだ…RACKの監視者及び捜索者は2人1組が基本でね、上層部達はを騙してability持ちを探させ連れて来させ…」
「まさか…戸川さんは?!」
「ご推察通りアタシはRACKのメンバーの1人…と言っても…」
加藤が戸川の肩を力づくて引っ張り壁に叩きつ胸ぐらを掴んだ
「あんた!そんな事に加担してたのかよ!」
「言い訳はしない…でもアタシは本当に知らなかった、でもその人はそれを薄々感じていたからアタシと自身を含めた何人かを公安部の派生としてこの未詳を作った、なぜだかわかる?」
「知らねぇよ!」
「RACKが万が一暴走した時のストッパーとして…RACKにいたability持ち達を守る為に作ったんだよ…だから「未解決事件詳細保管解決課」って名前なんだ。「未解決」は未確認ability持ち、「事件詳細」は能力、「保管」は保護の意味で…でもアタシとその人以外みんな上層部に付き従っていた、その方が楽だし…そもそもabilityなんて知らない人間からしたら恐怖でしかない…なら利用して処分…自然な流れだ」
戸川の胸倉を離しゴミ箱を加藤は蹴飛ばした
「……なんなんすか…それ…ability?持ちは人間じゃない扱いって…で?!そのRACKってのはまだあるんすか?!俺が全部暴いてやる!」
戸川は大きなため息をつき口を開いた
「……もうないよRACKは」
「そんな組織がない?!」
「その事がわかった時その人は無傷のability持ちを何人か引き連れRACKから脱出した…助ける為に…そして…」
「勿体ぶらないでくださいよ!」
「部隊の上層部、メンバー…アタシ以外の人間を全員皆殺しにして施設そのものを破壊し自殺したらしい」
「はぁ?!」
「その人はability持ちもそうでない人も共存させたいっていう理想と希望を持って行動していた、常に正しく、人間らしく理知的に行動していた…だからそれを知った時の絶望は…」
「ちょっと待ってください、らしいって事は…」
「あれだけ優秀な人だ、どこかで生きてる」
「それが…戸川さんが言ってた元締めの…?」
「そうだよ、ability持ち達は宗教団体事件以外では単独で動いていたのに最近は組織化しだして…間違いないその人が関わってる、手強いよ?加藤…辞めるなら止めない」
「…いくつか聞きたいことがあります」
「何?」
「ここの部署で戸川さんは…そのability持ちの人達に会ったんですか?」
「えぇ会ったわ」
「クソみてぇな事したんですか?」
加藤は語気を粗めて言った
「…アナタが信じる信じないは別にいい」
そういい戸川はまた別のデータを見せた
「これは?」
「アタシが1人で見つけたability持ち、みんな名前と経歴を変えて生きてる」
「数名とはいえ全員ではないでしょう?!やっぱり!!」
「天地神明に誓って私はそんな事してない」
「じゃあどうやったんです?!答えろよ!」
「今はまだ言えない…でもアタシはもうRACKじゃない!あんな事は間違えてる!」
戸川も語気を強めた
「…戸川さんはなんで1人でここにいるんです?」
「その人を止められなかった…からかな…1番近くでその人を見てたのに私はその人の闇に気づけなかった…だから私はその人を止めたい、誰かに殺されたり闇に葬られる前にね、知らなかったなんて言わせない!今の上層部に謝罪させちゃんと人として逮捕し罪を償わせたい、そのために1人でもここにいる」
「ウワサは知ってるでしょう?ゴミ箱、荷物置き場、穀潰し…そんな陰口を言われて」
加藤も戸川を真っ直ぐ見て言った
「…あの噂はアタシが流した、ここの存在理由を知ってる人間なんて居ない、そもそも殺されたしね、それに残ったのは非公式な記録だけだから誰も私を警戒しない、噂を真に受けたバカ共が失態をした人間の島流し的扱いをしていたけど悪態見せてやめさせた、元々1人でやるつもりだった、誰も巻き込みたくないてっ…」
戸川もまっすぐ加藤を見つめ話終わる直前
「警部!タメ口失礼致します!」
加藤が急に大きな声を出し戸川に近寄った
「アンタは腹ぁ違えど根っこはRACKと同じだよ」
「どこがよ!」
「全部秘密にして1人でやろうとしてるからだ!何が今は言えないだ!結果俺を信用するとカッコつけてるけどアンタはどこかで自分や自分以外を下に見てる!何が1人でやるだ!人間なめんなよ、何がabilityだ、超能力だ!俺がそいつら全員意地でも殴って戸川さんの前に引きづってでも連れてきてやる!俺は辞めない!良い奴なら俺が面倒みてやる!悪いヤツはどんな奴でも逮捕してやる!」
加藤は両手拳をバチンバチン鳴らしながらまっすぐ見開いて戸川を見た
「アンタの言う通りかもね…わかった…」
「何がわかったんです?!」
「色々だよ、今はまだ言えない事もあるけどアタシはアンタとやっていきたい、お願い、力を貸してください」
戸川が頭を下げた
「止めてくださいよ、ハッキリ言いますが俺は戸川警部の全てを信用した訳じゃない、でもそんな非道はしない人だとは理解しました、いつか…その秘密は教えてください」
「わかった…」
話終わったと同時に戸川のスマホに着信が入った
「もしもし…誰?…?!ちょっと待って!」
戸川はPCにスマホを繋ぎ音声はスピーカーのまま逆探知ソフトを立ち上げた
「あんたホントにタカツなの?」
ー嘘言ってどうする?ー
「何が目的なの?」
ー自首したいー
「ここに来て急に?」
ー俺はある人に命じられて公安部に偽の情報を渡してスパイをさせられていたがしくじって命を狙われてるー
「ある人?それは誰?それにしくじったからって随分とお粗末だし身勝手な話ね」
ーそんな見え見えの挑発に乗る程間抜けじゃない、詳しい話は安全を確保してくれたら全部話すよ。だから頼む俺を保護してくれ場所はどうせ逆探してるだろう?ここの対面にあるビル5階の505、明日のこの時間待ってる、遅れたらすぐにガラを隠す、じゃあなー ブチ
ツーツーツーツー
「ホントに自首する気ですかね?」
「さあね、罠の可能性が高い」
「なら…?!」
「場所はすぐ近くだ、タカツのability…どんなかを考える!」
そういい棚から紙皿を出してマジックで何やらを無心に戸川は書き出した
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