第3話

戸川が先にエレベーターに乗り後から加藤も続く

戸川が階数ボタンのパスを入力し1階へ

「戸川さん、なんでここの部署だけこんなややこしいんですか?」


バシッ!


戸川が空手チョップを加藤の額に浴びせると


「痛!なんすか?!」

「戸川「警部」な?さんじゃねぇ」

加藤は歯ぎしりをしながら続けた

「……戸川警部殿!!何故こんなに煩雑なのでしょうか?」

「機密保持」

「は?」

「今答えた、同じ事を言うのは好きじゃない」

「いや、何の秘密なんです?」

「そのうち分かる」

そうこうしているとエレベーターが1階に到着、戸川がキャリーバックを引きずりながらエレベーターを降りて続いて加藤も降りる。

「ビビりチビりさ?拳銃は?」

「はぁ?拳銃所持許可出てないんで持ってないすよ」


バコン!


戸川がキャリーバックで加藤を叩いた


「いった!なにすんすか?!いちいち叩くの止めてもらえませんかね?!」

「人の話聞いてなかった?!最低限身を守る努力をしろって!チョッキぐらいは着けてんの?」

「いや、何も」

「はぁーーーーーーーー…」

戸川は大きなため息をつき項垂れた

「タクシー!」

戸川がスライド式のタクシーを停めて乗り込み加藤が続く

「帝昭ホテルまで」

タクシーが発進すると戸川がキャリーバックを空けて6連発式のリボルバーを加藤に渡した

その光景を運転手がルームミラーで見ていて

「ちょ!お…」

「あ、あたし達警察官ですのでご心配なく」

そういい手帳を見せた

「戸川警部!こんな所で…」

「うるさい!持ってろ!自分の身ぐらいきちんと守れ、怖かったら使って逃げろ」

その一言でこの前の事件を思い出したのか加藤は小刻みに震えた

「怖いってのは生きてる証拠、別に恥ずかしいことじゃない。でもわざわざ何もしないのはただの馬鹿だよ、だからこれは相手を倒すためじゃなく自分の為に使いなさい…こう言えばいいか…警部として命じる、所持しろ」

「…分かりました…」

腑に落ちない加藤は拳銃を受け取りベルトに挟んだ

タクシーが帝昭ホテルに着くとどこから嗅ぎつけたのかマスコミがかなりいたのでかき分けてホテルへ2人は入る

ロビーを抜けエレベーターに乗り事件現場の部屋に行くと立ち入り禁止処理がされ制服警官が立っていた

「ねぇ、ちょっと中見せてよ」

「ダメです!関係者以外…」

戸川が手帳を見せる

「…警部?!」

「そう、さっさとどいて」

戸川は規制線をくぐり制服警官を押しのけ部屋に入ると捜査一課の連中がすぐに止めにきた

「なんだなんだ!関係者以外入るな!」

そんな声を無視して戸川は現場や遺体をスマホで撮影しだした

「ビビり、アンタも写真撮りな」

「こら!お前ら!勝手な事…」

「私これでも警部、口の利き方に気をつけてよ」

戸川は手帳を見せるが

「…未詳じゃえねぇか!お前ら捜査権なんてねぇんだろ?さっさと出ていけ!このお荷物野郎共!おい!こいつらツマミ出せ!」

「なんだよ!俺はこれをやったやつを知ってる!」

「バカ!そんなこといちいち…」

戸川が制止下がもう遅い

「容疑者知ってんのか?お前?」

「あぁ!中肉中背の黒縁メガネ、何かしらの凶器…目に見えづらい鋼鉄の糸みたいな…」

一瞬静かになったが捜一の全員が軽く鼻で笑った後に

「ふざけんなよ、何が目に見えない鋼鉄の糸だ?寝言は寝てから言え…あれ?お前この前の現場で腰抜かした機捜の加藤国広か?」

「…」

「なんだぁ?ビビりとお荷物かよ、いいコンビだなぁ!フン!さっさと出ていけ!さもないと知り合いの内務調査部に内偵かけさせるぞ!」

そう言われ2人は押しのけられ部屋から追い出された

「クソ!手がかりが…」

「加藤…」

「はい?」


パチン!


戸川がまた叩いた


「だから!いちいち叩くのやめてもらえます?戸川警部殿!」

「やめて欲しいのはこっちだ!ペラペラ喋るな、どうせああいう脳筋バカには理解できない世界だ、一通り写真は撮れた、行くよ」

戸川はキャリーバックを引きそれを追うように加藤もついて行く

エレベーターに乗ると

「あの…「理解できないとはなんですか?」」

加藤と戸川が同じタイミンがで話した、と言うより加藤の言葉に戸川が被せた感じだ

「なんでわかるんです?」

「ビビりが言いたい事くらい当てられる、次は大方…「俺にもちゃんと説明して」とかでしょ」

加藤は図星だったのか口を閉じ、戸川は話を続けた

「加藤 国広…父親は銀行員、母親は専業主婦、一人っ子で小、中、高は公立、部活空手、高校時代に虐められていた同級生の為に体を張り乱闘、父親が融資課に配属後貸し渋りで人から恨みを買い精神を病んで自殺、それ以後大学進学を諦め早く母親孝行するために警察学校に入学、警察学校では品行方正、成績優秀、柔剣道も優秀、卒配後八百万の繁華街交番勤務で地域の小さな揉め事にも首を突っ込むような熱血警官で昇進試験も優秀、管轄の地域課課長の推薦で機捜に配属…」

「…人の過去探ってたんすか…」

加藤は声を押し殺しながら絞り出したが明らかにその声には怒りがこもっていた

「ある程度部下の事は知っておかないとね」

「……」

2人は無言のままホテルを出てタクシーに乗り警視庁の未詳課に帰った

未詳課に帰り2人はデスクに座り戸川は加藤からスマホを奪い自分のスマホの写真データもPCに入れて加藤は何かを言いたそうにしていたが黙っていた

「ビビり?この写真見て」

戸川がPCの画面を加藤に見せた

イラッとしたが加藤は顎に手を当て画面の遺体写真を見続けた

3人の体はバラバラになっていて目を背けたくなる写真だった

「出血が…少ない…ですね、あくまで憶測ですが…別の場所で殺して遺体を刻みわざわざここに持ってくるメリットはないので犯行はこの部屋で間違いないかと、…そして本来生きたまま切断した場合もっと出血が凄いです。なのに…」

「凶器はなんだと思う?」

「鋭利な刃物…」

「だとしても…ここまで綺麗に切れると思う?それによく見て、断面が少し焼けた後がある」

「……聞いた事があります、医療用の電気メスと言うのは患部を切開しながら電気の熱で焼いて出血を止めると…」

「…それで?」

戸川はそのまま質問を続けた

「…と言うことはどういう理屈か分かりませんがそういう凶…器?を使って生きたままの被害者を切断したんだと思います」

「さすが父親の自殺が無ければ国立に行ける頭…」


バァン


加藤が強めに机を叩いた


「警部は人の不幸抉るという素敵なご趣味があるんですね!」

「まさか、褒めてるよ」

「どこかですか?!ふざけんなよ!楽しいか?えぇ?!」

「……偉くならなくていい、尊敬される必要も無い…ただ誠実に生きろ…そうすれば絶対にお前を誰かが助けてくれる、支えてくれる」

戸川が加藤に言葉をかけた

「なんで…それを…」

「アンタのお父さんは誠実に生きた、当時の金融市場は中小には厳しかった…それは理解する…キツい言い方だけどお父さんは諦めた……でもアンタは腐らず諦めず誠実に生きてきた。経歴と査問委員でのやり取りを読ませて貰ったよ、ご周知の通りアタシはひねくれてる、だから…保身もしないアンタが気になった、配属された奴は何人かいたがその場で辞表を書いてたよ、でもあんたはこんなアタシにも誠実に向き合ってくれた。合格だよ、加藤 国広」

「何を…」

「悪い奴は人の闇を見抜きそこに漬け込む…保身や欲がある奴、自己肯定感が低い奴ほどその闇に引きずり込まれる…あんたはその心配はないよ、それはある意味武器だ」

「…喜んでいいんすか?」

「アタシは基本人を褒めない、電気メスの推理はいい線行ってるよ。あの黒縁メガネはどういう理屈かわからないけど熱した何かを相手に当てる能力、アンタが助かったのは他に何か理由があるハズだ…」

「理由…?」

「その能力がアンタには使えなかった、もしくは万全の状態では無かった」

「理由…ですか」

「この3つの死体、バラバラだけど一人一人切り口を繋げてイメージしてみてみ?」

戸川が加藤に尋ねた

「……あ!」

「何に気づいた?」

「山川さんの秘書?2人はほぼほぼ同じ所を切断されている」

「それで?」

「という事は…秘書2人は身を呈して山川議員の盾になった、重なるように…!だから2人はほぼほぼ同じ切り口で山川議員は切り口がズレていたんだ!」

「アンタ機捜なんかやめて正解だよ、いい洞察力を持ってる。加藤…さっきはごめん」

戸川が急に謝った

「へ?」

「すまない、アンタを少し試させもらった」

「はぁ…」

「わざとアンタを怒らせどう反応するか見たかった、そのままここを出ていけばそれまで、でもアン…加藤は落ち着きを取り戻し物事を多面的に捉え考えた、アンタ自分が思うより優秀だよ、自信持って」

加藤が後頭部を掻きながら

「やめてくださいよ…俺も怒ってすみませんでした」

「アンタが謝る事ないよ、改めて未詳へようこそ、加藤刑事」

戸川が加藤に右手を差し出した

「よろしくお願いします、戸川警部」

加藤が握手をしたら

「警部は要らないよ、もう。呼びやすい名前で呼んでいいから」

2人は目が合うと照れくさかったのか同時にはにかんだ

「戸川さん」

「何?」

「1番大切な事聞いていいっすか?」

「能力の事?」

「はい、能力ってなんなんですか?」

「加藤?人間は脳を何パーセント使ってるか知ってる?」

「え?…確か全部は使いきれて…」

「2割程度だよ、これは私の主観だけど脳ミソってのはフルで使うと体がどこかに負荷がかかるからリミッターをかけてると思う、いい例が火事場の馬鹿力だよ」

「うーん…分かったような分からないような」

「それか脳が進化したから使える物…それが特異能力…ability…」

そういい戸川はPCの画面を変えて加藤に見せた



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ヒカル、良く似合うよ。その靴」

「ありがとうございます、三日月さん」

新しい靴が余程気に入ったのか大兼 ヒカルは浮き足立っていた

「さて…今、彼はどこにいるかな、電話に出ないしLINEも来ない、これは造反…」

三日月が言い終わる前にスマホに着信がはいる、画面には


「タカツ」と表示


三日月はスピーカーにしてタカツからの電話にでた

「やぁタカツ、連絡遅かったね、心配したよ。公安に追われたんだって?」


ー心配?どうだか…なんで俺の事が公安にバレてたんです?ー


「ん?僕が君を売ったとでも?」


ーそうは言ってませんけどね?ミカさんが俺に公安に嘘の情報を流せと命じて逆に公安の把握してるability持ちのデータを聞き出そうしたあのタイミングだとそう勘ぐってしまいますよー


「それは誤解だ、危険な仕事を頼んで申し訳なかった…でもじゃあ聞くが何故目撃者をわざと逃がしたんだ?」


ーえ?ー


「元機捜の刑事だよ、目撃者は処分しろといつもあれほど…」


ーすみません……ー


「ふーん…済んじゃった事は仕方ないからいいけどさ?目立つ殺しをする、下手に目撃者を作る、山川議員から例のブツも回収しない…逆に君が僕らをあちら側に売るんじゃないかと思っているよ」


ー…そんなこと!ー


交渉のペースは完全に三日月が把握した


「悲しいな…タカツ…まさか君が僕を売るなんて…Edenでの言葉…忘れたのかい?ヒカルが横で凄く怒っているよ…」


ー?!ー


「殺す殺す殺す殺す殺す…」


「聞こえたかい?僕が必死に止めてるんだけどね…もうどうにも」


ー調子に乗ったのは謝ります!でも本当に俺はミカさんを売るような事はしてない!山川議員の例の物も見当たらなかったんです!信じてください!ー


「…タカツ…僕は君を信じたい…でも実際山川議員はデータが入ったメモリは持ってて僕とヒカルが回収した…見当たらなかっんじゃない、見つける事をしなかったんだ…君のどこを僕は信じればいいんだい?」


ーどうすればいいんですか?!ミカさん!ー


「未詳の刑事2人を消してくれると非常に助かるんだよね」


ー刑事2人?ー


「あぁデータを送るよ、そのうちの一人は君が逃がした1人だ。実質僕らを追ってる公的機関はこの部署だけ、公安部でRACKを引き継いだ連中なんて放っておいていい、所詮は絞りカスみたいな連中だ、だからこの2人を始末してくれたら君を信用してヒカルと一緒に僕の護衛、そしてabilityホルダー達を束ねる役目をお願いしたいんだ」


ー…わかりました、ただの人間を殺すなんて造作もないんですぐにやりますー


「ありがとうタカツ、始末したら連絡をくれ、吉報を待ってるよ」


「タカツさんはやれますか?」

「…どうだろ…まぁタカツが勝てば勝ったでいい、それに…」

「それに?」

「タカツのabilityは比較的戦闘用だ、今の彼女がどこまでやれるかには興味があるね。仮にタカツがやられても君が居てくれる方が100倍力強いし僕は嬉しいよ、頼りにできるから」

「ありがとうございます三日月さん!嬉しい!」

「僕もヒカルがいてくれて嬉しいよ、こちらこそありがとう」

三日月はそっとヒカルを抱き寄せた

「タカツも君もEdenから僕が連れ出したんだ…なのに…タカツは…僕は人望がないね」

「そんな事ありません!あのままあそこに居たら私達は…あの時連れ出してもらったみんなは三日月さんに感謝し…」

「…君だけは…どうか裏切らないで欲しい…お願いだ…もう絶望はいらない…」

「大丈夫です、万が一他のホルダー達がいなくなっても私だけはずっと三日月様から離れませんから」

それは歪んだ信頼関係がより一層深くなった瞬間だった



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