2分20秒小説『渡れない鳥』

 仲間は皆、とっくに飛び立っているというのに一羽だけ水面に浮いている。早く暖かな場所へ移動しなければ凍え死んでしまう。だが羽を怪我している。


 水がきんきんだ。水掻きが冷え切って感覚がない。でも動かすと痛い。餌も少ない。見上げる。どうして空はあんなにも高いのだろう。どうして神さまは、優しくないのだろう。障害のある鳥のために、もう少し小さな空をつくってくれたらいいのに。

 視線を水面に戻す。仲間がいる?!自分以外は全員旅立ったと思っていたが。


「やあ」

「こんにちは」

「皆行ってしまったね」

「ええ」

「僕は羽を怪我しているんだ」

「可哀想に」

「君もかい?」

「いえ」

「じゃあどうして、ここに残っているんだい?」

「自信がないの」

「自信?」

「きっと私の弱い心は、過酷な旅に耐えられない」

「だから皆と一緒に行かなかったの?」

「ええ、そうよ」

 見たところ、特に痩せてもいないし、羽もしっかりしている。

「それは甘えだよ」

「甘え?」

「僕と違って、羽に問題も無さそうだし」

「貴方には分からないのよ。私は心を怪我しているの」

 まったく理解できない。彼女の言い訳には、腹立ちさえ覚える。それでも仕方がない。

「お互いの体をくっつけて、寒さを凌がないか?」

「ええ、そうね」


 そうして二羽は身体を寄せ合い、冬を乗り切ろうとします。でも冬も負けていません。だんだんと本気を出してきました。雪が音もなく水面に消えてゆく。


「寒いわ。もう限界よ」

「大丈夫だ!」

「いえ無理よ。私たちは凍え死んでしまうの」

「あるところに、二羽の渡れない鳥が居ました」

「何を言い出すの?」

「二羽は寄り添って寒さに耐えて居ました。健気に思った春が言いました"今すぐ冬を押しのけて、君達を助けてあげよう"でも、雄が断りました」

「どうして?」

「雄はこう言いました"春さん、貴方は気が利かないねぇ。僕は彼女と、もう少しこうしていたいんだよ"」

「ふふふ」

「あはは」

「雌も言いました"春なんてずっと来なくてもいい。だって貴方に触れていれば、南の島の様に暖かいもの"」


 二羽は冬を乗り切って、春に結婚しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る