2分50秒小説『会長!なんで謝るんですかっ!?』

「役員の半数を女性に変えろ!分かったな?!」

 会長の命令は絶対だ。私は今日まで、会長の言葉に疑いを抱かず、そのまま受け入れててきた。私だけじゃない。ここにいる役員全員がそうだ。脳死状態で、会長の命じるがままに行動してきた。だがしかし――。

「考え直してください」

「逆らうのか?山本、説明した通り、我が社には、女性目線の価値基準が致命的に欠けている。変わらねばならんのだ!このまま、旧態依然とした経営体制を続けていては、我が社に未来は無い!」

「それは分かります。しかし次の経営会までにというのは余りにも性急すぎます。四か月……いや、三か月ください。それまでに会長のご意向に沿って、役員を刷新致します」

「二か月」

「え?」

「一度しか言わん」

「分かりました。二か月で役員を変えます」

「よしっ!じゃあ2か月後だな」


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「田辺専務、分かります。貴方の言いたいことはよく分かる。でも理解してほしい。私は、会長の命令だから言ってる訳じゃない。確かに、我が社が生まれ変わるには、女性目線の意見がもっと必要だ。心からそう思っている。だからお願いです!貴方が我が社に必要ないから選んだわけじゃない。むしろその逆です。矛盾しているかもしれません。それでもどうかお願いです!」


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「川瀬部長、訴える?それは止めた方がいい。知ってるだろう?我が社の抱えている――といより会長の抱えている弁護団は非常に強力だ。訴えても勝てる見込みはない。私が君を選んだのは、君を信頼しているからだ。君の犠牲は無駄じゃない。我が社への君の忠誠心を、私は絶対に忘れない。会社への最後の奉仕だと思って決断してくれ!君にとっても人生の良い転機となると心から信じている」


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「木下常務。そうですか……申し訳ありません。確かに、何十年も共に歩んで来たんです。別れは辛いですよね?まさに我が身を切る痛みってやつです。でもその痛みが、我が社の大きな力になる。未来への懸け橋になるんです。即答しなくても結構です。じっくり考えてみてください。なにしろ、”今後の生き方を大きく変える”選択ですから」


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「佐藤部長!そうか!承諾してくれるんだな?有難う!本当に有難う!でも君だけに辛い思いはさせない。私もだ。私も君と同じ道を進む。どうした?不思議そうな顔をして?当たり前だろう?代表取締役の私が率先して行動しなければ誰もついてこないじゃないか?初めからこうするつもりだったんだ。家内?はは、大喧嘩さ、別れるだのどうだのって、昨晩もえらい騒ぎだったよ。でももう決めたことだ。承諾書は?うん、署名も押印も?……嗚呼、見てくれ、私も書いて来た。では、共に旅立とう」


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 二か月後、会長室のドアをノックする。「入れ」役員が整然として入ってゆく。窓の外を眺めたまま振り返りもしない会長、巌のような背中が部屋の空間の半分以上を占めている。声もまた重く、のしかかる圧で――。

「山本か?前回の話、覚えてるな?」

「はい」

「そうか」

 会長が振り返る。

「な?!どういうことだ?」

「はい、会長のご意向に沿って、役員を刷新してまいりました」

「どこがだ!私を馬鹿にしているのか?まったく同じ面子ではないか?!」

 役員の半数が書類を掲げ――。

「私を含む役員5名、モロッコで性転換手術を受けてきました」

「え?」

「たった今より、女性目線で会社を変えてゆく所存です」

「え?」

「今後とも、宜しくお願いします」

「え?……あ、本当に?手術したの?……山本、お前も?」

「はいっ!」







「なんか…………ごめんね」

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