2分20秒小説『洗濯物と野菜とパーマ』
入って来るなりいきなり――
「聞いてください先生。洗濯物の汚れが落ちないんです」
「え?」
「いくら洗っても、洗剤を変えてみても、結構長めに漬け置きしても、ぜんぜん汚れが落ちないんです。どうすればいいでしょうか?」
「いや、あの――」
「分かっています!どこに行っても同じことを言われます。うちは専門外だとか、別のとこに行った方がいいとか、貴方もきっと同じ意見なんですよね?僕を……拒絶するんでしょ」
「その……お困りなのはわかりますが、うちでは――」
「やめてくださいその拒否反応!本当に悩んでるんです。身に着けたものはすべて汚れてしまう。そして洗濯しても汚れは落ちない。いろんな人に相談したら、ここが一番だと言われたから来たんです。ここの先生は話を聞いてくれる。なんでも受け止めてくれるって、それなのに――」
「いや、でもやはり、うちではなく洗濯屋さんに行かれてはどうですか?」
「酷い……診察を拒否するんですか?分かっています。僕は心の病気なんです。脅迫症ってやつなんだと思います。先生!診察してください」
「すいません。ちょっとだけ私の話を聞いてもらえますか?冷静に落ち着いて、どうして貴方がここに来たか、その経緯は分かりませんが、評判を聞いて来てくださったという点は、非常に光栄に思います。しかしですね。そのぉ――うちは八百屋なんです」
「え?八百屋?」
「はい」
「嘘でしょ?!」
「ほんとです」
「いや、絶対にここは心療内科だ!」
「しつこいですねぇ。警察呼びますよ」
「ちょっと、おじいちゃん何?大声だして」
「あ、いや、この人がうちを心療内科と間違えて――」
「あら、ごめんなさいね。おじいちゃんボケちゃってて、自分のことを八百屋だと思い込んじゃってるのよ。ほんとすいませんねぇ。で、今日はどういった髪型に?」
「はい、診察をお願い――え?今なんて言いました?」
「髪型は?カットですか?パーマですか?」
「え?ここは?」
「美容院です」
「いや違うでしょ、心療内科でしょ?」
「違います。八百屋です」
「いえ、美容院よ」
「山田のおじいちゃーん、佐藤のおじいちゃーん、吉田のおばあちゃーん、3人とも運動のお時間ですよ。お喋りはその辺にして、運動室に行きましょうねぇ」
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