2分20秒小説『8月19日の出来事』

参考人:山崎孝雄(店長)

10:00 A子さんの接客態度に対して注意をし

    た。

10:20 研修の為、石松店のスタッフを視察して        

    くるよう指示をした。

10:40 「視察になんて行きたくありません」と

    言ってきたので注意した。

    石松店のスタッフは全員接客力の評価が

    高く、それに対してうちの店舗のスタッ

    フは評価が低いという現状を説明し、A子

    さんが、石松店のスタッフ全員を視察す

    ることが、うちの接客力向上に繋がる

    のだということを理解させ、再度研修に

    行くよう指示をした。

11:00 A子さんとリーダーが店長室に入室して

    きた。

    リーダーから、A子さんに店外研修を指示

    したことに対して事前に相談が無かった

    ことを非難された。謝罪をし、改めて

    A子さんを研修に行かせることについて

    承諾を得た。


参考人:嶋根かおり(パートリーダー)

10:30 A子さんが報告なしに売り場を離れてい

    たので注意した。

    「石松店に視察に行く」と言うので、店

    が回らないからその旨を店長に伝えて断

    るよう指示した。

10:50 店長に伝えたが、やはり視察するよう指

    示を受けたと報告され、思わず苛立って

    しまい、A子さんの普段の勤務態度や仕事

    への取組み姿勢について厳しく叱った。

    A子さんと一緒に店長室に向かった。

11:10 石松店に行く交通費について、A子さん

    から相談を受けた。

    自費で建て替えて後で経費申請をするよ

    うに指示をした。

    「昼休憩を取りたい」と言ってきたので

    叱責した。


参考人:山本修一(石松店スタッフ)

12:00 A子さんが入店してきた。特におかしな

    点はなかった。

    バッグから包丁を出してきて、いきなり

    腹部を2~3回刺された。

    床に倒れた。その時点で意識を失った。

    後のことは分からない。


「以上、当日の状況について、参考人に伺ったことをまとめたものです。A子さん。事実と違う点があれば、言ってください」

「……特にありません。山本さんは?嗚呼、一命をとりとめたんですね。彼だけですか?他の方は全員?……そうですか」

「何か言いたいことはありますか?」

「はい、本当に申し訳なく思っています。今これを読んですべて納得がいきました。私が悪いんです。私が、”視察”を“刺殺”と勘違いしたばっかりに――あ、事実と違うという程ではありませんが、山崎店長が、レポートを提出するように指示したという点が抜けています。11:00頃です。はい、バッグに入ってるはずです」


 以下、レポートの一部を抜粋。


刺殺レポート


対象 田中美奈(28)

 腹部から胸部にかけて6回。

 悲鳴 無し。

 逃走 無し。

 反応 何が起こっているのか理解出来ていない

    様子だった。

 最後の言葉 「タカシ」

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