2分20秒小説『小野VS大野』

 放課後、教室、窓際、飛び交う怒号。

 喧嘩?え?あの小野さんと大野さんが?いつも一緒に登下校するあの仲良しコンビが?!


「大野さんには分からないのよ!私の気持ちなんて――」

「落ち着いてよ小野さん、何に怒ってるの?」

「態度よ。態度!いつも私のこと馬鹿にして」

「してないわよ」

「私が小野だからって、大野より下なわけじゃないから」

「分かってるわよそんなこと」

「じゃあなんで『大は小を兼ねる』って言ったの?私への当てつけ?!」

「そういう意味じゃないわ」

「どうせ小野だからチビなんだって、私の事馬鹿にしてるんでしょ?!」

「違う!」

「いや、大野さんは、いつも高い所から私のことを見下してる!」

 大野さんの頬が引き攣る。

「やめてよ!私が高身長コンプレックスなの知ってるでしょ?!クラスのどの男子よりも背が高いから私、『女(め)型の巨人』って仇名付けられて――」

「それなら私だって『顎の巨人』とか『ガリアードさん』とか仇名付けられて――」

「それは身長とはまた別の問題でしょ?!」

「酷い!顎のことは言わないでよ!」

「私は言ってないよ。小野さんが自分で言ったんじゃない」

「うるさい乳デカ女!」

「え?」

「胸もコンプレックスなの?違うでしょ?私、大野さんのを見るたびみじめになる。名前に小っていう字が入っているからなおさら!」

「そんなこと言われても――」

「卑怯よ!ちょうど男子の目線に胸がくるよう計算して!」

「『計算』ってなに?!じゃあ私が男子の身長に合わせて、ちょうど目線に胸がくるように身長を伸ばしたっていうの?ふざけないで!」


「ちょっと二人とも喧嘩はよしたほうがいいよ」

 風紀委員の川辺さんが、仲裁に入った。が、二人に――

「『野』じゃない人は口出ししないで!」

 と、よくわからない理由で撃退された。

「とにかく喧嘩はだめよ。ね?」

 山野さんが止めに入った。が――

「『山』?ハッ」

 なぜか鼻で笑われた山野さん、半泣きで教室を出ていく始末。 


 クラスの視線が私に集まっている。そうね。多分この場を収めることができるのはきっと私だけね。

 椅子を膝裏でガラッと押しやり、立ち上がりざま――。

「喧嘩は止めなさい」

 小野大野の両野は、私を見て同時につぶやく。


「……中野さん」

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