2分20秒小説『知っていた男』
「知ってたってわけさ。ははははは」
反響する哄笑、肩が揺れ、銃も揺れ。
「俺が潜入捜査官だってことをか?」
椅子に縛られた男、口端から血、眼は約3倍の紫。
「当然知っていたさ。ははは」銃を弄びながら笑う。
縛られた男、ギッと見上げ「いつからだ?」
「最初からだ」
「最初から?」
「そうだ。警察に内通者がいる。そいつから逐次報告を受けていた」
「そんな馬鹿なっ!じゃあお前は?!」
「そうだ。俺はすべてを知っていた」
「組長自身が、組の掟を破って麻薬の密売に手を染めていたことも知っていたのか?」
「知っていた」
「若頭の柏木が末期がんで余命3ヶ月だったことも、次の若頭に田所が内定していたことも――」
「知っていた」
「細田が仕切っていたマカオコネクションのことも、極道会がそれに関わっていたこともか?」
「知っていた」
「組織の情報を得るために、俺が組長の娘の久美子に近づいたことも――」
「……知っていた」
「じゃあ、久美子と俺が肉体関係にあることも?」
「え?……知っていた」
「久美子のお腹の中に、3か月の赤ん坊がいるっていうこともか?」
「ええー?……いや、当然知っていた」
「ああ見えて着痩せするタイプで、実はGカップあるっていうことも――」
「え?隠れ巨……いや、知ってた」
「じゃあ、あんな恥ずかしい場所にほくろがあることも――」
「ええー?!恥ずかしい場所……どの辺?……い、いや知ってた」
「俺と結ばれるまでは処女だったことも、俺が色んなテクニックを仕込んでやったことも――」
「や、止めろ」
「とんでもないドM女で、かなりハードプレイじゃないとあの女は――」
「やめろー!知りたくないー!」
頭を抱え蹲る。手から銃が滑り落ちる。
縛られていたはずの男、椅子から立ち上がり、銃を手に取ると、蹲る男の後頭部に銃口を押し当てる。
「え?」
「当然知ってたんだよな?あの程度の拘束、俺なら簡単に抜けせるってことも」
「時間稼ぎだったのか?!お前、俺が久美子さんに密かに想いを寄せていたってことを――」
「ああ、知ってたさ」
ずぎゅん
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