2分10秒小説『田』

「上のもんを出せ!」

「すいませんでした」

「お前の謝罪なんかどーでもいいんだよ。早く上のもん呼べよ」

「あのー、クリーニング代はこちらで負担させて頂きますので――」

「あー?、しつけーなテメェ!上のもんだせって言ってんだろ!」

「上の者と言われましても……ホールリーダーの田沼で宜しいでしょうか?」

「ば、ホールリーダー?舐めてんのか?」

「すいません、ではバイト長の飯田を――」

「おいおい、マジで舐めてんなテメェ」

「そんな、舐めてるだなんて……では副店長の――」

「ふざけるな!店長だろーが普通」

「では店長の田井を」

「駄目だ。もうそんくらいじゃ腹の虫が収まんねぇ。もっと上のもん呼べ」

「もっと上……エリアマネージャーの田村をお呼び致します」

「エリアマネージャー?いまいち偉さが分からん。もっと上のもんだせ」

「統括マネージャーの菊田を――」

「待て!どーでもいいけどさっきから全員”田”が付いてるな」

「はい?と、申しますと?」

「そのまんまだ。ちなみにテメェの名前は?」

「佐藤です」

「……上のもん出せ」

「では営業課長を……お呼びしましょうか?」

「名前は?」

「田頭です」

「……もっと上のもん」

「営業部長……」

「言わせんな!そいつの名前は?」

「多田です」

「よしっ、もっと上」

「本部長の田沼」

「田沼?さっきいなかったか?」

「あ、はい。バイトリーダーと同性です」

「……まぁいい。次っ」

「はい?」

「『はい?』じゃねぇ、次に偉い奴は?」

「この上となりますと……専務の田井中になりますが」

「田井中?田井とちょっと被ってんな。次っ」

「常務の石橋」

「は?」

「ですから常務の石橋」

「待てよおい。嘘だろ?石橋?」

「はい」

「ここまで来たら社長までいけるだろ?ここで石橋?」

「はい、石橋です」

「……」

「石橋です」

「分かったよ。で社長の名前は?」

「森田です」

「ちくちょー!常務を呼べ―ーーーーーー!」

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