2分0秒小説『ホシコロガシ』
遠く霞んだピラミッド潰れた夕陽にぶっ刺さって俺はフンコロガシ。
後ろ脚が一本無い。まともにフンが転がせない。
朝、巣穴から這い出し、放牧地にフンを探しに行く。歩みは太陽に負ける。餌場にたどりまでに、何匹もの仲間とすれ違う。着いた。殆ど真上にある太陽、俺を見下してやがる見渡すフン――無い。飛び散ってへばりついた滓をかき集め、小さなフンの球を作り、巣に持ち帰る頃にはまた潰れた夕陽。そんな日々。
或る朝、折り返しの仲間とすれ違う「放牧地が移動したよ」「何処へ?」「ずっと遠くへ」「この脚で――」「辿り着けないだろう」「いつもの場所に――」「フンはないね」来た道を引き返す。
2、3日が過ぎ「死ぬ」腹の中、一欠けのフンも捻り出せないほど空っぽ。「食おう。何でもいい」
俺は――。
俺は――皆が寝静まった頃、巣穴から離れた共同トイレを漁り、仲間のフンで小さな球を作り、丘の向こうまで転がして行く。かじりつく――。
「……う、おぶっ!」触覚がひん曲がるほどマズい。
「フンは食い物だがクソはクソだ」
これはフンではなくクソだ。天を仰ぐ「こうまでして俺は――」星が瞬いている。
もう一人のオレがぼんやりと浮かんで語り掛けてくる。
「フンもクソも変わらない。だろ?」
「俺にもプライドが――」
「クソの役にも立たないぜ」
「うるせえ死ね」
「俺はお前だぞ?」
「……独りにしてくれ」
考えるのを止める。”気高い死”or”クソまみれの生”どちらも選びたくない。
俺は歩く。ずっと遠くに移転したという放牧地を目指して。道中で野垂れ死ぬ。そう思う。でもそれが一番普通だ。誇らしくもみすぼらしくもない。オレにはそれが重要だ。
坂の上に星が落ちている。
「坂を登り切ったら、あれを――」
Riririririririririririri
「朝……か」
仕事だ。
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