第5話 傲慢な世界

僕は色々な女性を見ていると、この世界は皆が思ってる楽にお金を稼げる堕落したモノでは無く、人間の奥底に渦巻いている闇を受け耐え忍びながら、身も心も犠牲にしながら居なくてはいけない、そんな深いモノだと思った。


確かにホストも色々で、何も考えず自分の欲望のまま生きる奴や、ひたすら媚びてその場をやり過ごす奴らが居る。

今だけを見ているホストは自然と直ぐこの世界から消えて、また新しくこの世界に軽々しくやって来る。

そんな男達の無限の毎日。

僕もキッカケは同じだ。

でも僕は、女性達がせめてココに居る時だけは、現実を忘れて欲しかった。

女性達は、ココを出れば過酷な現実と向き合わなくてはいけない人がほとんどから…


カッコ良すぎかもしれないが、僕もこの身を捧げて女性達と戦っていた。

自分の心を凍らせ…


ある日、お客さんの買い物に付き合う事になり、信号待ちをしていると反対側の路地に彼を見掛けた。

彼からは以前のオーラは消えていて、一緒に居た女性と白い高級車に乗って去ってしまった。

僕が呆然としていると

「今の…海くんに似てたね…」

連れのお客さんも気付いたらしい。

「一緒に居た女性って、〝ムラサキ〟の会長の娘よ。

見間違いかしらね?」


〝ムラサキ〟と言えば、この辺りの地主がやっている巨大なグループだった。

〝一体、彼に何があったのか?〟

僕は、無性に知りたくなってしまった。


この辺りの事情なら、不動産をやっているマダムが何か知っているかも知れないと聞いてみた。


「マダム、〝ムラサキ〟ってグループは凄いんですか?」

唐突に聞いたから、マダムは驚いていた。

「何よ、いきなり変な事言うのね。

知らないの??

この辺りは、ほとんどが〝ムラサキ〟と関わってるわよ。

私なんかは足元にも及ばないわ。」

「そんな事は無いですよ。

マダムは、僕にとって特別な人です。」

マダムは僕の頭を撫で始めた。

「まあ、上手になったわね。

で、どうしてそんな事聞くのかしら?」

「この前、会長の娘さんを偶然に見掛けたんですよ。」

僕は彼を見た事は言わなかった。

「あんまり、関わらない方がいいわよ。

あそこの会長…ゲスだからね。

気に入らないと、男も女も容赦も無く蹴落とす。

恐い、恐い…」


僕は、以前聞いた噂話を思い出した。

《彼はやはり賭けをして、負けて今は言いなりなってしまったのか?》


彼をそうした〝ムラサキ〟の会長は一体どんな人物なのか興味があった。

マダムには関わらない方が良いと言われたが、僕は自分で確かめたかった。


それと、今の僕も彼と同じ様に目をつけられ、賭けを仕向けてくるか試してみたくなった。

きっと、傲慢で有名な相手なら僕らの様な男は気に入らないだろう。


僕は面倒な事は好きでは無い。

ただ、僕が彼と同等になったかを確かめたかった。

あの日から、彼を目指し生きて来たから…



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