第3話 裏腹の世界

この世界に入り、1年も過ぎると色々な修羅場を経験し僕の人を見る目は変わった。


どんなに穏やかに見える人も豹変したり、裕福そうに振る舞っている人もそうじゃなかったり、ココは人を狂わす空間で意地を張り合う醜い世界。

女も男も変えてゆく…


僕は時折、思った。

《ココに来たのが間違えなのか?》

自分が自分で無くなる虚しい感覚を感じながらも、何故か居心地が良くなっている自分は何なんだろうかと。


彼はNo.1になれる素質を持っているのに、何処か自由気ままな所があって、突然店を休んだりしていた。


彼のお客さんは、彼のそういう所も彼らしくて良いと言う。

店からすれば、売上が落ちてしまうので頭を抱えていた。


ある日、店長に呼ばれた僕は驚いた。

「准、お前ならもっと頑張れるんじゃないか?

もしかして、海に可愛がって貰っていて、気を使ってたりするのか?」

店長は眉間にシワを寄せ予約台帳をめくっていた。

「別に気を使ってるとか無いです。

海さんは今日も休みですか?」

僕が言った矢先に彼が出勤して来た。

「店長、俺の悪口を言ってんですか?

俺、心が折れて辞めちゃいますよ(笑)」

「悪口なんて言う訳ないだろ(汗)」

久しぶりに見た彼は少し痩せ顔色は悪かったが、口ぶりはいつもと同じで、一瞬で店長を威圧していた。


「准、今日ヒマか?」

僕が頷くと

「じゃ、後でな」

と言い、今夜も女性達を虜にし始めた。

彼はこの日、更にワガママで女性達を困らせていた。


「あーあ、久しぶりに会ったのに、こんなチンケな酒で俺と居たいんだ…

つまんねーな~

帰ろうかな…」

「待って、海は何飲みたいの?

好きなの頼んで!」

彼の言葉にすぐさま反応する女性達は、まるで王様に使える家来に見えた。

《お客様は神様》なんて昔の言葉は彼には通用しない。


この店でお客さんを持っている大半のホストは、お客さんを持ち上げて持ち上げて、女性達の前ではペットの様な存在になり、気に入られているヤツらが殆どだった。

そして彼らは、心と裏腹の中で藻掻き嫌気がさし潰れて去って行く。

彼は、こんな世界で自分を変えず生きていられ、それがら許される唯一の存在だ。


店が終わり、僕は彼と彼のマンションに行く事になった。 

〝外じゃ誰に会い話を聞かれて嫌だ〟と彼が言ったからだ。

始めて彼のマンションに来た僕は、殺風景な部屋に彼らしさを感じた。

必要以上のモノは何も無い広い空間は、自由な彼そのものに見えた。

「海さん、10日も何してたんですか?」

手渡された缶ビールを開けながら、僕は聞いた。

彼はニヤケながら大きな窓を開け、静かな街並みを眺めていた。


「なあ、お前はコレからの事、考えてんの?」

「コレからですか?

考えた言は無いです…」

僕はそう聞かれ恥ずかしかった。

気軽に始めたホスト。

彼に会い感化され、毎晩繰り広げられる華やかな夜の世界で、自分は流され先の事までは考えて無く闇雲に居た。

「俺は直に居なくなる。お前はこれから、どう生きて行くか考えな。

そして、もし夜の世界で生きて行くなら、自分の事だけを信じ、他人を信じるな。」

彼の言葉は重く、僕の中に留まっていた。

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