第2話 偽りの世界
出入口で彼と会った時
「やっぱり、海さんは凄いです!
女達が必死になって、海さんの気を引こうとしている光景はドラマの様でした!」
僕は興奮し話ていた。
彼はため息を漏らし、僕の耳元で言った。
「お前がヘルプに着いた客は、もうかなりツケが溜まって、今夜の代金で爆発したんだぜ。
今頃、店のヤツに捕まってるだろうな。
…
それでも俺は凄いと思うか?」
僕は、そんな事になっている彼女の事なんて何も知らず、ただ、今、目の前で起きた出来事に刺激を受け過ぎて裏の事情なんて考えずにいた。
僕が言葉を詰まらせていると彼はニヤリとし
「彼女が可哀想って思うか?」
そう聞かれたが、不思議とそういう気持ちにはならなかった。
「何か…変かもしれないけど…
思わないです。」
「良かった。
お前もこっち側の人間かもな。」
彼は僕の肩を叩き店へと戻って行った。
自分の今までの生活の中では出合う事が無い、この夜の世界。
TVや映画で観過ぎて、感情を上手くコントロールしてしまっているのか、何時しか僕の中にあった〝情〟みたいなものは少しずつ消えていった。
それから彼は僕を可愛がってくれる様になり、服をくれたり、自分の大事なお客さんを紹介してくれるまでになった。
彼と居ると普通じゃない事も普通に見えていた。
自分達の為に毎晩、誰かがお金をつぎ込み、決して報われる事も無い〝愛〟を求め続けている。
彼女達がパンクしてしまえば、〝知った事か〟の如く、また寄って来るモノを自分達の虜にして行く。
それが、この世界…
「坊や、海に憧れてるんだって?
だったら、欲を出しなさい。
この世界は出しゃばったモノの勝ちだからね。
如何に、自分に夢中にさせるかが勝負よ!」
こう言ったのは、毎日彼を指名する不動産の女社長で〝マダム〟と呼ばれている女性だった。
このマダムは彼以外とは滅多に話さない偏屈で有名な人だった。
なのに僕には色々とアドバイスしてくれていた。
マダムも彼に好かれる為にだろう。
しかし彼は、普段は店の仲間とツルむでも、誰かを可愛がるタイプでは無いのに、僕だけを可愛がっているのか気になり、彼に聞いてみた事があった。
「海さんは、どうして僕を可愛がってくれるんですか?」
彼は怪しげな目つきで
「お前…変なヤツだな…」
そう言うと身なりを整え始めた。
「まあ、お前は俺と同じ匂いがするからかな…
だから…かな?…」
彼はそのまま店内へと行ってしまった。
僕にはこの時に言われた意味が分からなかった。
(彼と同じ?僕が?)
この日、また新たに衝撃的現場を見る事になった。
今日見たお客さんは、20歳位の大人しそうで清楚な女性で、ホストに通うようには見えなかった。
お酒もチビチビ飲んで、口数も少ない女性だった。
彼が来ると少女の様に照れ恥じらっていた。
1時間程過ぎて帰る事になり、出入口まで見送ると怖そうな男が女性を待っていた。
「海さん、コイツ今日は幾ら積んだんですか?
お宅の店、高いから、コイツいつまで身体で稼いでもウチの元金返せなくて、ウチも困ってるんですよ。」
どうやら借金の取り立てに来たらしい。
「そう言われましても、お互い〝来るものは拒まず〟ですからね。」
彼は屈する事なく言い放っていた。
すると、今まで大人しかった女性が豹変し始めた。
「利子はちゃんと払ってんだろ!
ここには来んな!
海との楽しい夜を邪魔すんじゃねぇ!」
凄い勢いで男に掴み掛かっていた。
「汚い女は嫌だね…」
彼は呆れた顔をして店へと入って行った。
「海!…
ごめんね!…
もう汚い言葉使わないから、嫌いにならないで!…」
女性は怖そうな男に引きずられながらも、必死で彼に謝っていた。そして、そのまま何処かに連れて行かれた。
後から聞いた話だと、女性は地方から出て来て初めて、友達に彼を紹介して貰って好きになったらしい。友達に取られたくなくて、彼の為なら何でもやって来た女性らしい。
店でいた時は、彼の好みを装い本当の醜さを隠していた。
「女は怖いね~」
軽蔑する様に言った彼の顔は、今でも覚えている。
そうさせているのは彼なのに、少しも悪びる様子は見せなかった。
確かに、全ては自分で決めた事。
結果がどうなっても人のせいにするのは違うと、僕は思い始めていた…
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