4. オーガ・ジェネラル
男性に続いて慌てて馬車から降りてきた少女は、澪の幻想的な降臨に驚き、しばしうっとりと見つめていた。
ブレザーに青リボンという見たこともないファッションに身を包み、自分たちを救ったネコを抱きながら、光り輝く魔法陣の階段を優雅に降りてくる様は神々しく見える。
「あのぅ……、ありがとうございました」
少女は圧倒されながらも思い切って声をかけた。
「いえいえ、無事でよかったわ」
澪はニコッと笑い、ピョンと地面に飛び降りた。
「そ、そのネコはあなたの使い魔……なんですか?」
少女は、興味深そうにシアンを見つめながら聞く。彼女は、柔らかな羊毛で織られたシンプルながらも上質なグレーのチュニックを身に纏い、その上には細かい刺繍が施された薄緑のベストを重ねている。服のシンプルさが彼女の自然な美しさを引き立てていた。
「使い魔……?」
すると、ボン! と黒猫が爆発し、人型のシアンとなって男性と少女の前に立つとうやうやしく胸に手を当て、挨拶をして答える。
「私はご主人様のサーバントなのです。私どもは遠くの世界より飛ばされて森で迷ってしまって困っていたところでした。よろしければいろいろご支援を賜れればと……」
いきなり出てきた若い男に男性も少女も驚き、顔を見合わせた。
「えっ? あ、あなたが黒猫……なの?」
少女は目を丸くして聞いてくる。
「訳あって、ネコになったりもするのです」
さわやかな笑顔で返すシアン。まるで上級貴族のようなふるまいや見慣れない高級な服装も相まって、そのキラキラとした美貌に思わず少女はポッと頬を赤く染めた。
と、その時、シアンはピクッと眉を動かすと、森の奥を険しい目ででにらむ。
「まだ……、残っていましたね……」
「えっ……? な、何が……?」
男性がおっかなびっくりシアンの視線の先を目で追った時だった。
シアンはバッと腕を森の奥へ向け、いきなり巨大な黄金に光り輝く魔法陣を展開した――――。
刹那、激しい衝撃が魔法陣を揺らす。
「きゃぁ!!」「うわぁぁぁ!」
見れば巨大な岩石が目にも止まらない速さで魔法陣に突っ込んできたのだった。
そのいきなりの襲撃に男性も少女も頭を抱えてしゃがみ込む。
森の奥から地響きを伴う足音が響いてくる。それはまるで工事現場で重機が杭を打つかのような圧倒的なパワーを感じさせた。
しかし、澪もシアンも平然として森の奥を眺めている。男性たちはその泰然とした様子に首をかしげた。
やがて、木々の間から真っ赤な巨大な体躯が揺れているのが見えてくる。
「オ、オーガ・ジェネラル!? なぜこんなところに!?」「ひ、ひぃぃぃ!」
騎士たちはいきなり現れた上級モンスターにおびえ、ガクガクと震える。オーガ・ジェネラルは鬼のモンスター【オーガ】の上位変異種であり、それは軍隊でもって立ち向かわねばならないA級災厄指定モンスターだった。
「うはぁ、なんか凄いのが出てきたねぇ……。うふふふ……」
澪は初めて見る上級モンスターにワクワクが止まらなくなる。スマホの画面でしか見たことがない巨大モンスターがリアルに動いている。それだけで澪は心が躍った。
「ちょっと失礼」
シアンはそう言って腕をオーガ・ジェネラルの方へ向けた。
激しい青い光を纏い始めるシアンの腕。
ピチュゥゥゥン!
刹那、甲高い電子音を鳴り響かせながら、オーガ・ジェネラルに向かって激しい光の奔流が放たれ、森の木々は次々と吹き飛んでいった――――。
激しい爆発が巻き起こり、巨大な火焔が巻き上がる。そして爆煙の向こうでズズーンと地面を揺るがす重低音が響き渡った。
パラパラと吹き飛ばされた枝葉が森に降り注ぎ、やがて静けさが戻ってくる。
「目標沈黙……」
シアンはニコッと笑うとボン! と爆発し、ネコに戻って澪の腕へと跳び上がった。
「はい、お疲れ様……」
澪は幸せそうにネコの頭をやさしくなでる。
「お、おぉぉぉぉ……」「こ、これは……」「す、すごい……」
圧倒的な破壊のシーンに、みんな呆然とし、言葉を失う。その力は神話の中の物語から抜け出してきたかのようで、誰もがその光景に深く心を揺さぶられた。
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