第20章 ミルクのど飴 パート3

 その日の放課後,英語の加藤先生と 紀矢(のりや)たち「チーム ファンキー・ビケット」のメンバーのミーティングが行われました。

 場所は,乙女座駅前(おとめざえきまえ)図書館の 自習室。 加藤先生は「わざわざ他の場所を借りなくたって,学校の空き教室で十分ではないか?」と言ったけど,ビケットの活動は、学校とは関係ないし,バタンキュラーのリーダーでもあるスピカに,自分たちの事を感づかれてしまうかもしれません。 この施設は,2階が このあいだ紀矢たちが男子会をやったカラオケボックスで,いつも賑わっているけど,1階の図書館内にある自習室は,滅多に人が訪れないため、作戦会議にはもってこいなのです。


 「それで 千葉さんがのど飴をもらうのを断った時,スピカが はっきり『今度は,毒がないから 大丈夫』と言ったのだな?」 今朝の スピカとのやりとりの様子を聞いて,加藤先生 こと アンタレスが ひろみに確認しました。

 「はい。 あたい、もしかしたら 他の言葉と聞き間違えたかと思って,え?って聞き返したんですけど,そしたら慌てて逃げて行きました」

 「うーん、それは くさいな。 他にあの子から キャンディーを勧められたり,もらって舐めたりした人は いるのかい?」

 アンタレスが皆に尋ねると,紀矢が

 「あの、おいら・・・ヤベエ! ぼ、僕 もらいました。 えーっと、確かポケットに・・・」

 そして、制服のブレザーのポッケから 例ののど飴を取り出し,

 「あった! これです」

 机を挟んで向かい合っている アンタレスの前におきました。

 あれ? 確か紀矢ののど飴は,くしゃみと一緒に口から飛び出して,無駄になっちゃったのでは??

 実は,スピカは 毎日先生に内緒で 学校に飴を持ってきており,よく 親しくなった人に配っているのです。 今 紀矢がポッケから出したのは,帰りのホームルームの直後に もらったやつです。

 カプセルみたいな細長い形。 ピンクの地に 白いドット模様の,かわいらしい包み紙。

 「そうそう、これこれ❗️ あたいに渡そうとしてたやつと 一緒‼️」 ひろみが 飴を指さして,思わず叫びました。

 「しいーっ! 自習室で,騒いじゃダメだよ」 慌てて,一本指を ひろみの唇に当てる 彩野(あやの)。

 「すまぬが、ちょっと調べさせてもらってもいいかな?」

 「はい。 あっ、先生! そんな事言って 食べちゃわないでくださいよ」 のど飴を アンタレスに横取りされるのでは?と 気が気じゃなくて,思わず念を押す 紀矢。

 「ハハハ! 大丈夫だ。 安全が確かめられたら すぐ返すゆえ,盗ったりしないから安心しろ」

 高らかに笑うと,アンタレスは 自分のカバンから 少し大きめのピンセットを出して,

 「これは、毒味用ピンセットだ。 もしもキャンディーをこれで挟んで 何も起きなければ異常なし,何か変化が起きたら,キャンディーには 細工がしてある、という事だ。 みんな、しっかり見ていてくれたまえ」

 ピンクの包み紙を剥いて,その上にのど飴を置くと,アンタレスは そーっとその飴をピンセットの先でつまみました。 すると・・・

 パチパチパチ、シュー,モクモク・・・。

 ピンセットの先から 赤い火花と 黒い煙が出て,部屋の天井に広がりました。

 「ピコピコピコ、火事です❗️ 火事です❗️」 煙に反応して,施設内の火災報知器が鳴り出しました。

 「キャー やめて、先生❗️ 火事になっちゃう‼️」

 悲鳴をあげて,椅子から立ち上がった 彩野。 他の二人と,自習室の出口の方へ逃げて行きます。

 「大丈夫,大丈夫,みんな落ち着くんだ❗️ この煙は,火事ではないんだ」 ピンセットを机の上に放り出し,アンタレスが慌てて駆け寄って,三人を引き留めました。 「ほら、もう火の気はないであろう?」

 そう言って アンタレスが指差した方に振り向くと、ほんの数秒のうちに 煙は 跡形もなく消えていました。

 そして、四人が向き合って座っていた机には,それまでなかったはずの りんごみたいな形をしたエンジ色の果物と,ミキサーと,注射器が 並べられていました。

 ん? アンタレスがいた所には,スピカが座っています。

 「あら スピカ君,いつの間に来てたの?」 そばに歩み寄って,尋ねる 彩野。 するとアンタレスが,

 「太田さん,話しかけても 何も答えぬぞ。 これは 幻だ。 時間が巻き戻って,のど飴ができるまでの工程を,最初から見せてくれているんだ」

 アンタレスが 紀矢たちに説明している間に,スピカは 半分に切った例の果物を ミキサーにかけ,それを汁ごと小鍋で煮始めました。 ぶくぶくと煮立ったところで コンロの火を止めると,生ぬるくなるまで汁を冷まし,それを準備していた注射器で,二つに合わさったのど飴の割れ目から注入しました。

 「できた、これで,100個目。 イーッヒッヒッヒッヒ❗️」

 飴を目元につまみ上げ,薄気味悪い笑いを浮かべたところで、すーっと スピカの姿は見えなくなりました。

 「大変だ! すぐこのキャンディーを回収しなければ」

 突然険しい顔になって,さっき紀矢から借りたのど飴を掴んだアンタレス。

 「ああちょっと、ちょっと先生❗️ そいつ、おいらのですってば❗️」 紀矢が 慌ててひったくろうとすると,

 「これは、食べちゃダメだ。 すまぬが 捨てるぞ」

 紀矢君ののど飴は,またまたゴミ箱に放り込まれてしまいました。

 〜つづく〜


 「ファンキー・ビケット」次回のお話は?

 紀矢です。 いつも おいらたち「チーム ファンキー・ビケット」への応援、どうもありがとな。


 それにしても 母ちゃんも、加藤先生も、勝手においらの楽しみに取っといた飴 捨てないでくれよ。 トホホ。

 だけど どうやら先生は、おいらに食わせるのが惜しかったんじゃねえみてえなんだよな。


 第21章 嵐の前触れ⁉️

 これを読めば、明日 友達と盛り上がれる事 請け合いだぜ❗️

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