第19章 ミルクのど飴 パート2


 その日の放課後。 彩野(あやの)と ひろみは、獅子座町(ししざまち)との境近くにある 水瓶座寺(みずがめざでら)にやってきました。 

 「私たちは,治療はできないけど、徹君(とおるくん)にエールを飛ばす事ならできるよ。 今できる事で、精一杯応援しようよ」

 そう励まして,彩野からひろみを お参りに誘ったのです。


 「あれえ? もしかして もしかすっと、彩(あや)たちも 徹の事 お願いに来たんか?」

 和尚(おしょう)さんに 本堂に通してもらって 仏様に手を合わせていると,後ろから 聞き覚えのあるボーイソプラノが話しかけてきました。

 「あっ、紀矢君(のりやくん)❗️」

 女子たちが振り向くと,そこには まんまる体型のジャンボトド、いいえ、紀矢が にっこりして座っていました。

 「あいつのために、みんなみんな ありがとう」 今度は,仲間たちの温かさに胸を打たれ,泣き出すひろみ。

 「ちょっとちょっと、なんでおまえさんが泣くんだよ? それじゃ、まるでお通夜の前みてえじゃねえか」と、紀矢。

 「もう紀矢君ったら❗️ たとえ冗談でも、『お通夜』なんて 縁起悪い事 言うのやめて」

 「そうだよな。 ごめんな」

 彩野に注意されて,女子たちに頭を下げる紀矢。

 それから三人は,徹の意識の回復をご祈念し,しばらくの間 手を合わせていました。

 「ずいぶん長く手を合わせていたね。 こんなに仲間思いの人たちに祈ってもらえるお友達も,心の優しい人に違いない」

 帰りのご挨拶をした時,和尚さんが感心した顔で言いました。

 「はい。 徹は,優しくて,しっかり者で,同級生だけど 兄貴みたいな人です」 ひろみが、得意げに胸を張って 答えました。 すると、続けて紀矢が

 「たまーに頑固で、子猫みたいに気難しいとこもあります」

 「ツカポンタン❗️ 余計な説明すんな、デブ‼️」

 「いってえ❗️ 『子猫』って、かわいく言ったじゃんかよ」

 ひろみから デコピンをお見舞いされて,おでこに手をやっている紀矢。

 「お嬢ちゃん,さっき ここに来た時は 泣いているようだったけど,その様子なら大丈夫だね」 和尚さんが、優しく ひろみに笑いかけました。

 「みんなで仏様にお願いしていた時,あいつ・・・徹君がにっこり笑って,『僕,もう大丈夫だから』って声が聞こえたんです」 ひろみの瞳は、先ほどよりもほんの少し 光を取り戻したように見えます。

 「そうか、そうか。 お嬢ちゃんたちの祈りは,徹君に間違いなく届いている。 あとは,みんなの想いと,その友達の『助かりたい! みんなの所へ戻りたい!』という強い気持ちが ぴったり合わされば,必ず彼は元気になれる。 仏様は,正しく真っ直ぐなお願いは 全部聞いてくださるからね。 そうだ、私もお勤めの時,徹君の意識の回復をお願いするよ」

 水瓶座寺の和尚さんは、ずーっと前に出会っていたかのように,温かく紀矢たちを励ましてくれました。


 次の日。 1bの教室の 窓側の角に置かれた段ボール箱に,生徒たちが めいめいに自宅で拵(こしら)えてきた折り鶴を 入れています。

 「かなり大きめの箱が,もういっぱいだねえ」

 エコバッグを逆さまにして,箱の中に 折ってきた色とりどりの鶴をあけながら、ひろみが言いました。

 「これなら、もう千羽近いんじゃないかしら。 そろそろ数えながら 糸で繋ぐ作業に入れるね」 クラス委員の小林さんが,段ボール箱を覗き込んで、目を細めています。

 「やあ、おはよう。 あ、千葉さん。 昨日は,あんな事言っちゃって ごめんね」

 そこへ やってきたのは、昨日の昼休みに心無い発言をして ひろみを,泣かせた,スピカでした。 ひろみは、あの薄情な言葉を思い出してしまいそうで,目を合わせて挨拶する事が できずにいました。 スピカは,ちょっと寂しそうに俯いたけど,すぐに持ってきたビニール袋を開けて,中身を段ボールに入れました。 冷たいやつだと思いきや,この人も 鶴を折りながら,仲間が元気になるように 願っていたのですね。

 「ねえ、あんた、ほんとは いいやつじゃん」 自分の席の所へ行こうとしたスピカに,ひろみは 思わず話しかけていました。

 「同じクラスだし、一緒にカラオケ行った友達だもの」

 にっこり答えるスピカ。 その時,ふと ひろみの目の下にクマがあるのに気づきました。

 「ん? 千葉さん,毎晩遅くまで 鶴を折ってるんじゃない? すごく疲れた顔してるよ」

 「ああ、これくらいへっちゃら、へっちゃら。 へへへ」

 「でも、目の下が真っ黒だよ。 そうだ、ちょっと待って」 そう言うと スピカは,背負っていた鞄から 小さなものを取り出しました。 「あのさ、よかったら これ舐めて。 のど飴だけど、疲れてると 甘いものが欲しくなるでしょ?」

 スピカが差し出した右手には,かわいいピンクに白いドット模様の包み紙のキャンディーが 乗っています。 ひろみは、優しい心遣いは ありがたかったんだけど、今日は朝から歯が痛くて,甘いものどころではありませんでした。

 「ありがと。 あたい、キャンディー大好きなんだけどさ,今朝から なんか 歯が痛くってさ。 ごめんね。 でもその気持ちは,遠慮なくいただくね」 そう丁寧にお断りすると,

 「そうだったんだね。 じゃあ、とっといて、後で 歯が治ってから舐めて。 ・・・あ、だいじょぶ、だいじょぶ! 今度は,毒ないから」

 「え?」

 おかしな言葉が聞こえたような気がして,ひろみが きょとんとしていると、

 「うん、だからさ・・・あっ、違う,なんでもない。 じゃあね!」 スピカは、逃げるように 自分の席の方に行ってしまいました。

 「スピカ君,キャンディーに毒がないとか なんとかって 冗談言ってたけど,たしか昨日も 毒が どうのこうのって言ってたよなあ」

 もしかしたら 軽い気持ちで言ったのかもしれません。 だけど、「毒」なんて そんな恐ろしい言葉,あの子はどうして へらへらした顔で すぐに言うのでしょう?

 「ヤバい、なんか 寒気してきた❗️」

 ひろみは、これから大変な事が起こりそうで,いても立ってもいられなくなりました。

 〜つづく〜


 「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?

 みんな今日も読んでくれてありがとう。 英語の加藤 こと アンタレスです。


 いよいよこのお話も 20章,私も 久々に登場するぞ。

 スピカが近頃奇妙な振る舞いをし始めたようだ。

 学校に こっそり持ってきて 配っているのど飴は,本当に食べられる物なのだろうか?


 第20章 ミルクのど飴 パート3

 楽しみにしてくれたまえ。

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