第17章 いとしの相方は?
紀矢(のりや)は、その晩は ほとんど眠れませんでした。 不吉な夢で 真夜中に目が覚めて,胸騒ぎで 寝付けなくなってしまったからです。
「紀(のり)、だいぶ疲れてるんじゃないかい? くまができてるよ。 学校 休んだら?」
朝ごはんの時,お母さんに言われたけど,どうしても休みたくない理由がありました。
(何がなんでも学校に行かなきゃ。 早く 徹(とおる)の無事を確かめなきゃ)
紀矢は、いつもより早く家を出発すると、学校めがけて駆け出しました。 でも、半分も進まないうちに 息が切れて,スピードダウン。 なんたって このトドみたいな太っちょの体に,重たい通学カバンを背負っているのですから,運動が苦手なこの子には,もう罰ゲーム並の重労働なのです。
「くっそー、早く走りてえのに、くたびれて 足が上がらねえ❗️」
普通の人の早歩きぐらいのスピードで,どうにか市役所のある交差点までやってきました。 この信号を渡ると,もうすぐ天秤高校です。 ところが 正門に続く道には,みんなから「闘魂坂(とうこんざか)」と呼ばれている 急な坂があるのです。 普段なら,息を切らしながらも えっちらおっちら登っていくんだけど、今朝は さんざん走ってきているので,思い通りに 足が前に出てくれません。 気持ちは,焦るばかり。
(この坂め❗️ ファンキー・ブーメランのパワーで,平にできないかなあ? ・・・ん、まてよ?)
何を思ったのか,背負っていたカバンの メインファスナーを開けて,ゴソゴソやり始める紀矢。 喉が渇いて,水筒でも探しているのでしょうか?
「おっ、有った,ようし❗️」 カバンから取り出したのは,ファンキー・ブーメラン。 周りに通行人がいないのを確かめると,紀矢は それを,空中に向かって投げながら,
「スピーム ビケッター❗️」
ブーメランの裏に書かれた言葉を唱えました。
シュルシュル シュルルー。
ブーメランは,紀矢の頭の上で カーブを描きながら,例の青白い光のシャワーを吹き出しました。 五つくらい数えたほどの後に光が引いて,手元にブーメランが戻ってくると,そこには 緑のブレザーの高校生じゃなく、白い羽のある,ブルーの戦闘服の ビケットが立っていました。 紀矢は、以前にビケットの姿になっていた時,足の速い徹と並んで走っても疲れなかった事を思い出し,変身して この坂を駆け上がろうと閃いたのです。
「これで、全速でいけるぞ。 待ってろよ,とおるちゃま❗️」
そう叫ぶと,紀矢は 猛ダッシュで 闘魂坂を登り切り,校門を入ると 近くの大銀杏の木の影に飛び込みました。
「タービケ ムーピス」
再びブーメランを空に投げ,変身の時と反対に言葉を唱えると,ビケットは 学生服の紀矢に戻りました。
「ウヒョー、ヒーローに変身できるって,ガチで便利だなあ❗️ おっと、こうしちゃいらんねえ」
紀矢は、ファンキー・ブーメランをカバンにしまうと,大急ぎで1bの教室へ向かいました。
「おはようございます」
いつもより15分くらい早めに登校したせいか、クラスメイトは まだ半分くらいしか来ていないようです。 「今朝は,おいらの方が あいつよか早かったみたいだな」
紀矢は、窓側の席。 入口の方を向いて椅子に腰掛け,徹がやってくるのを 今か今かと待っていました。
遠くから電車でくる生徒。 部活の朝練を終えて、やってくる人。 少しずつ賑やかになってきました。
紀矢のアイドル・彩野(あやの)と、仲良しのひろみも来ました。
まもなく8時20分。 朝のホームルームの時間です。
おや、徹の姿が見当たりませんね? いつもなら、もうとっくに来ているのに??
「やあ おはよう。 ねえねえ、さっきから 入口の方に向いて,何してんの?」 昨日カラオケで一緒に盛り上がったスピカ君が,紀矢のそばにやってきました。
「おはよう。 昨日は,最後までいらんなくて ごめんな。 キャンディー ありがとよ」
「いいよ、気にすんなって。 それよか、石井君が帰った後,大変な事になっちゃってさ、カラオケサークル 打ち切りになったんだよ」
「なんだって⁉️」
紀矢が 驚きの声を上げた時,
キーンコーン カーンコーン。
「みなさん,おはようございます」 担任の 西川先生が,教室に入ってきました。 カールヘアーと 笑顔が魅力の先生だけど,今朝は ちょっと深刻な様子に見えます。
「今日は,まず大事なお話があります。 昨日駅前の『喫茶乙女座』で 食中毒が発生して,うちのクラスの平田君が 被害に遭いました」 「えーっ⁉️」 「うっそー、もう涼しくなったのに⁉️」 1bは,騒然❗️
喫茶乙女座は,昨日の男子会で ジュースとおやつをデリバリーしたお店です。
「先生,おいら、いいえ、僕も 平田君と一緒だったけど,なんともなかったです。 何かの間違いじゃ・・・」 紀矢が、手を挙げて,そこまで言った時,
「石井君,彼が倒れたのは,君が帰った後なんだ」 スピカが 話に割り込みました。
「な、なんだって⁉️ ちょっ、ちょっと! なんでそいつを早く言わねえんだよ?」
「ごめん。 言おうとしたら,ホームルームが始まってさ」
「ウィルゴー君たち,おしゃべりは 後にしてちょうだい。 今,,大事な話をしてるのよ」 西川先生は,パンパンと手を打ち鳴らして 二人に注意してから,「それであなたたちも、『乙女座』から 2階のカラオケルームに届けてもらったおやつを 食べたわけね?」 改めて,紀矢と スピカに尋ねました。
「はい。 あそこの喫茶店で,コーラと ウーロン茶と レモンソーダを頼んで,おやつは 柿ピーとか、ホットドッグとか、みんな好きな物を頼んで 食べていました。 でも体調がおかしくなったのは,平田君だけだったんです」
スピカが 先に答えると,続いて紀矢が
「僕は,ケガをした父の病院に駆けつけたので,初めの乾杯のコーラを飲んだだけだったけど,何も異常はなかったです」
「そうだったのね? ウィルゴー君は,平田君が倒れた時 何を食べていたか,覚えてる?」
「え? うーんと・・・あ、すみません。 次に歌う選曲をしてたので、彼の方は 見てなくて」 スピカの声が,少し小さくなったように感じたのは,気のせいでしょうか?
「あら、じゃあ なんで、平田君が倒れたってわかったの?」と、先生。
「あの、実は,昨日は a組の山川君と,c組の伊藤君も一緒だったんです。 途中で席を外したまま 平田君がなかなか戻ってこなかったから,心配して探しに行ってくれた伊藤君が,ロビーで倒れている彼をみつけたんです」
スピカ君は,恐ろしい物を見たかのように,下を向いて 震えています。 他のクラスメイトたちが,じーっと 先生・紀矢・スピカのやり取りを見ています。
「よくわかりました。 つらい事を思い出させてごめんなさいね。 二人ともありがとう」
紀矢と スピカを、優しい瞳で包み込みながら、丁寧に頭を下げる先生。
「先生,それで 徹・・・平田君のぐあいは、どうなんですか?」
慌てて尋ねる 紀矢。 そう。 それが一番知りたい事なのです。
西川先生の顔が曇りました。 1bの生徒たちが 一斉に先生を見つめて,,答えを待っています。 少しの間俯いていた先生でしたが,顔を上げると まっすぐみんなに視線を向けました。
「平田君は,獅子座町(ししざまち)の救急医療センターで 治療を受けていますが・・・まだ意識がもどってないそうです」
「え・・・❗️」 信じたくない言葉に,絶句する生徒たち。
〜つづく〜
「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?
ひろみです。
救急センターで 治療を受けている徹の回復を祈って,クラスで千羽鶴を届ける事になりました。
でも、中には 信じられない事を平気で言い出すやつもいて・・・。
第18章 おてんばさんの涙
みなさん、徹に 厚い厚いエールを送ってください‼️
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